ガチャ転生!~異世界でFラン冒険者ですが、ガチャを引いてチートになります

武蔵野純平

第26話 ボーナスステージ終了のお知らせ

「あー、痛い……」


 俺はニューヨークファミリーのケインに、冒険者ギルドでボコボコにされた。
 だが、ギルドマスターのハゲールが、ケインを追っ払ってくれた。


 ポーションを飲ませてもらったので、傷は治ったし、大きな痛みは引いたが、まだ、体の芯が重い様な、どことなく痛い様な感じは残っている。


 転生前にバイクでコケて、鎖骨を折った事がある。
 あの時と似た感じだ。
 どこか骨折していたのかもしれない。


 まったく、ケインの野郎……。
 12才の子供に何て事しやがる!


 俺は強い怒りを感じた。
 理不尽で自分勝手なケインの暴力に。


 ニューヨークファミリーは、転生者の助け合いの組織だとケインは言っていた。
 だが、ケイン達がやっている事は、獲物の買い占めに売却金額のつり上げ、そして暴力だ。


 これが冒険者のクランか?
 単なるチンピラ集団じゃないか!


 次は、口先ではぐらかすのではなく、力で対抗しようと俺は心に決めた。
 やられっぱなしでは終わらないぞ……。
 ケインには、このオトシマエを絶対につけさせる!


 受付のジュリさん、パーティーメンバーのセレーネが、心配そうに声を掛けて来た。


「ヒロト君、大丈夫?」
「ヒロト~、平気~?」


 俺はセレーネに支えて貰って、ゆっくりと立ち上がった。
 体の方は、もう平気だと思う。


 しかし、心の方は……。
 まだ、荒れている。
 
 深呼吸をする。
 ゆっくりと息を吸い、息を吐く。
 ドキドキしていた心臓が、だんだん落ち着いて来た。


 少し冷静になって、自分自身に驚いている。
 俺は、こんなにも激しく怒るタイプの人間だったのか?


 いかんな……。
 女の子の前で、怒りをぶちまけてはイカン。


 俺は笑顔を作って、なるたけ落ち着いた声で答えた。


「ああ、大丈夫! ジュリさん、ポーションありがとうございました」


「どうする? Dランク冒険者の特典の説明や精算は明日にする?」


「いや。大丈夫です。まだ夕方ですから、今日お願いします」


 俺は、受付カウンターの椅子に座った。
 セレーネは心配そうな顔をしていたが、俺の様子を見て隣に座った。


 俺達二人が椅子に座るのを見て、ジュリさんがテキパキとお仕事モードで説明を始めた。


「まず、Dランクになると口座が使える様になるわ」


「口座ですか?」


「そう。お金を沢山持ち歩くのは物騒でしょ? Dランクになるとギルドに口座を持てるのよ」


「それ、便利で良いですね!」


「でしょ~。ヒロト君、セレーネちゃんの口座とパーティー用の口座も作っておいたわ。手続きは終わってるから、すぐ使えるわよ。今日のホーンラビットの精算は口座に入れておく?」


 俺はセレーネと相談して、これからは口座に稼いだ額を、半分づつ入金して貰う事にした。
 今は二人しかいないなから、山分けで良い。


「じゃあ、今日の分は口座に入れておいて下さい。俺とセレーネと半々で。あと、このお金も預けられますか?」


 俺はマジックバッグから、昨日までの稼ぎを取り出した。
 今日みたいに襲撃されるリスクを考えたら、預けておいた方が良い。
 セレーネもうなずいているので、セレーネの分も預けておく。


「大丈夫よ。では、お預りします! 引き出す時は、ギルドカードを見せれば、いつでも引き出せるわよ」


 ジュリさんは、現金を持って奥の方へ手続きに行った。


 俺とセレーネは、ジュリさんが戻って来るのを待つ間に、この3日の稼ぎを計算した。
 1日 60匹 ペースで、3日間だから……。




 33万1200ゴルド/1日 × 3日間


 合計 99万3600ゴルド!




「1人 49万6800ゴルドの稼ぎだね!」


「すご~い! ヒロトありがとう! 私、ヒロトと組んで良かった~♪」


 セレーネが俺に抱き着いて来た。
 あれ? 意外と発育が良いのか?


 エルフはまな板だと思っていたのだけれど、そう言う訳でもないらしい。
 セレーネも俺と同じ12才なのに……。


 いや! それよりも!
 3日で約49万ゴルド稼げるという事は……。
 シンディを買い戻すために必要な2000万ゴルドまでは、


 2000万 ÷ 49万 = 約40


 今回の3日間を40サイクルちょいやれば、2000万ゴルドに届くのか!


 3日間 × 40サイクル = 120日


 3か月で目標額の2000万ゴルドを稼げる計算になる。
 休みを入れても、半年あればいけるだろう。


 俺がそんな事を考えていると、奥からジュリさんとハゲールがやって来た。


 ハゲールには、ケインを追い払った件で、お礼を言った方が良いか?
 いや、でも、ギルドの中で起きた不祥事だし、そんな必要はないか?


 でも、さっきのケインとのやり取りは、カッコ良かったな。
 俺の中でハゲールの株が、かなり上がった。


 俺が礼を言うか迷っていると、ハゲールは受付の向こう側、ジュリさんの隣に座って俺達に話し始めた。


「ヒロト、3日間ご苦労だった。納品数は、ギルドとして満足している」


「どうも」


「では、ヒロト、支払ってくれ」


「え? 支払う?」


 ハゲールは、右手を差し出している。


「ああ。さっき、オマエが飲んだポーションの代金、1万ゴルドだ」


 あ……。
 あれは、俺が支払うのか……。


「えーと……」


「経理の処理がとどこおるといけないからな。銀貨1枚、早く支払ってくれ!」


 き、厳しいな……。
 まあ、でも俺が飲んだし、助かったし。
 俺は、口座から1万ゴルドを引き落とす様に、ジュリさんにお願いした。


「それから、マジックバッグを返してくれ」


「え!? あれは貸してもらえるんじゃ……」


「ホーンラビット狩りの間だけだ」


「あ……」


 しまった!
 ずっと貸して貰えると思っていた。


 そうなると獲物を運ぶのに困るな……。
 それにセレーネの予備の矢をしまうのにも……。


「あの~、マジックバッグの貸し出しを、延長してもらえませんか?」


「ダメだ! あれはギルドの備品だ! すぐに! 返せ!」


「……わかりました」


 仕方ない。
 確かにハゲールは、マジックバッグをずっと貸してくれる、とは言っていなかった。
 俺はマジックバッグの中の物を取り出し、マジックバッグをハゲールに返した。


「念の為言っておくが。解体費無料も、もう、終わりだからな」


 ハゲールは立ち上がって、奥の自室に引っ込んだ。
 俺の中で上がっていたハゲールの株が、大きく下がった。


 俺の後ろには……、


 ・予備のチーズレーション
 ・予備の矢
 ・壊れた矢
 ・古いショートソード
 ・ロングボウ
 ・タオル
 ・水筒
 ・着替え
 ・布袋
 ・解体ナイフ
 ・ロープ


 などなど、マジックバッグに入っていた荷物が散乱している。


 なんて荷物の量だ!
 マジックバッグを借りていたこの3日間は、荷物の量を意識していなかった。


 だが、これにプラスして獲物を運ぶとなると……。
 さっきの2000万ゴルドまでの計算は、成立しなくなる。


 まいったな。


 俺は深いため息をついた。


「どうしたの? ヒロト君?」


 俺の落ち込んだ様子を見たジュリさんが、心配そうな声を出した。
 まあ、3日間でこれだけ稼いで、落ち込む冒険者はいないよな。


 俺はジュリさんに、落ち込んだ理由を説明した。


「今後、3階層のホーンラビットを、1日60匹ペースで狩って行こうかと思っていたんですが……。マジックバッグがないと、ちょっと難しくて……」


「ああ、それで……。でも、今回みたいに稼ぐのは、今後難しいわよ」


「えっ?」


 ジュリさんは、子供の俺にもわかる様にゆっくりと説明を始めた。


「えっと。まずね。今回は商人ギルドからの依頼があったの。それで冒険者ギルドも、お仕事依頼を冒険者に出したのね。その依頼は今日で終了でしょ。だから、これからは、依頼料の1万ゴルドの支払いはないわ」


 ああ、確かに。それはそうだ。
 全体の稼いだ金額に目が行ってしまっていた。


 俺が話をちゃんと聞いている様子を見て、ジュリさんは説明を続けた。


「それから。ニューヨークファミリーのホーンラビット買い占めも終わると思うから、他の冒険者もホーンラビットを売りに来るわ。そうすると、売却されるホーンラビットの数が増えるの。そこにヒロト君達が、この3日間のペースでホーンラビットを持ち込むと……」


「ああ……、そうか。ホーンラビットが供給過剰になって、買取価格が値下がりするのか……」


「そう言う事」


 それはそうだ。
 ルドルの街は大きな街だけど、住民はホーンラビットばかり食べているわけじゃない。
 毛皮の需要も今回の依頼で一段落だ。
 大量のホーンラビットは、もう要らなくなる。


「ジュリさん、わかりました。今回のホーンラビット狩りは、ボーナスステージだと思う事にします」


「また、良い依頼があったらヒロト君達に回すわよ。2人ともDランク冒険者になったから、頼める仕事の幅も広がったのよ」


 そうだな。
 俺はセレーネと顔を見合わせて、うなずきあった。


 ジュリさんは、俺達の様子を見てニコニコ笑いながら、次の話を始めた。


「じゃあ、次はDランク冒険者の特典その2! こっちの方が重要よ!」


 何だろう?
 Dランク冒険者のもう一つの特典?


「ジョブよ!」

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