武田信玄Reローデッド~転生したら戦国武将武田信玄でした。チートスキル『ネット通販風林火山』で、現代の物をお取り寄せ無双して、滅亡する武田家の運命をチェンジ!

武蔵野純平

第71話 天文五年の新年会

 ――天文五年正月。

「では、我ら武田家の繁栄を祈って乾杯!」

「「「「「乾杯!」」」」」

 俺が乾杯の音頭を取り、武田家の新年会が始まった。

 躑躅ヶ崎館の大広間には、武田家の武将がズラリと並び、来賓も多い。

 俺の隣には奥様の香、戦で大活躍した恵姉上、軍師として頼りになる妹の南が座る。

「いやあ、香殿も立派なご正室でおじゃるな。お父上もお喜びでおじゃる」

「ありがとう。麻呂彦」

 京都からは、三条家の三条麻呂彦がやって来た。
 ついこの間来たばかりなのに、フットワークが軽い。

 三条家には、帝への献金と、対今川家で武田家が不利にならないように、京都での政治工作を依頼している。

 麻呂彦は、上座に近い位置に座り、出された料理と酒に舌鼓を打つ。

「武田家の正月料理は豪勢でおじゃるな!」

「今年は明国風の料理にしました。お口に合うと良いのですが」

 正月料理は、香チョイスの中華料理だ。

『中華おせちがあるし、正月料理は中華で良いでしょ? ウチは武闘派が多いから、みんな気に入ると思うよ』

 と言いながら、ネット通販風林火山で、大量のレトルト中華惣菜や冷凍餃子を爆買いしていた。

 メニューはいたって庶民的だ。

 フカヒレのスープ。
 エビチリ。
 麻婆豆腐。
 チャーハン。
 焼き餃子。
 揚げ春巻き。
 チンジャオロース。
 ホイコーロー。
 杏仁豆腐。

「肉もありますので、もし、お気に召さなければ、残して下さい」

「いや、もう、慣れておじゃるよ。食べ慣れると獣の肉も美味しいでおじゃる!」

 この時代、肉食は禁忌なのだけれど、武田家では俺と香が肉食をするし、武田家内に推奨もしている。
 三条麻呂彦は、ちょくちょく武田家に来るので、すっかり肉食に慣れてしまったようだ。

 武田家の武将連中は、言わずもがな。
 筋肉を作るのに、肉が必要と説明したら、みんな喜んで肉を食うようになった。

「餃子が旨い!」
「俺はホイコーローが好きだな!」
「しかし、明国の料理が食えるとは!」
「贅沢だな!」

 武将連中から大満足の声が聞こえてくる。

「しかし、武田家も『らしく』なって来たでおじゃるな」

「恐れ入ります」

 去年は、今川家との戦があり大変だったが、武田家は勝利し領地を拡大した。
 今後のこと、これまでの約束、論功行賞も兼ねて、俺は武田家の組織作りに着手したのだ。

 まず、俺の守役だった板垣さんを筆頭家老に。
 会社で言えば、取締役副社長だ。

 さらに、本人の希望をくんで、ワイン奉行を任せた。

 板垣さんは、俺がネット通販風林火山で買ったワインをいたく気に入り、自分でもワインを作りたいと言い出したのだ。

 俺はブドウの苗木をネット通販風林火山で買って、板垣さんにプレゼントし、勝沼の地を領地として与えた。

 勝沼はワインの産地として、現代日本で有名な場所だ。
 きっとワイン造りに向いているだろう。

 さらに勝沼は、甲府盆地の東の入り口にあたる。
 外敵に備える意味でも、勝沼に新生武田家の重鎮を配したのだ。

「板垣さん。ブドウの育成に時間がかかると思う。ワイン造りは気長にやって下さい」

「ありがとうございます! ワインが出来たら、御屋形様と一緒に飲みたいですな!」

 板垣さんは、やる気だ。


 次に、甘利虎泰を家老に指名。
 会社でいうと、取締役部長だろう。

 領地は、旧穴山家の領地だった河内地方の一部を与えた。
 あの辺りは、今回攻め滅ぼした穴山家が治めていた土地なので、統治が難しい。

 だが、甘利家は武田家の庶流で、歴史があり、優秀な家臣が多い。
 甘利虎泰自身も顔が知られている。
 難しい土地でも、何とか治めてくれるだろう。

「ぜひ! イチゴ奉行に!」

「わかった……」

 さらに、本人の強烈な希望でイチゴ奉行になった。
 板垣さんがワイン奉行になったのを聞きつけて、直談判されて断れなかった。

 香曰く。

『あの顔で、イチゴ奉行はないわ~!』

 だそうだが、大切なのは本人の希望とやる気だ。
 長い目で見れば、甲斐の名産品が増える。
 悪いことじゃない。

 俺はイチゴの苗をネット通販風林火山で買って、甘利虎泰にプレゼントした。

「それがしの忠誠は、御屋形様とイチゴに!」

「あー、うん、よろしくう……」

 忠誠度がアップしたようだ。


 最初期から俺を支持し、父武田信虎の暗殺を主導した妖怪じじい小山田虎満は、甘利虎泰と同じく家老にした。
 口うるさいところはあるが、政治、合戦、両方で頼りになる。

 だが、領地の加増は断られた。

「いらないのか? 旧小山田家が治めていた郡内はどうだ?」

「ウチは家臣が少ないですからな、領地をもらっても治められませんよ。それよりコレで下さい」

 小山田虎満には、毎月給金を支払うことにした。

 俺としても、武田本家の直轄地が多い方が嬉しい。
 直轄地の方が、開発しやすいし、兵力も増える。


 そして、香が命の飯富虎昌。

「領地とか、役職とか、いらんですよ!」

「それじゃ周りに示しがつかないだろう! 受け取れ!」

「嫌です!」

 飯富虎昌の場合は、遠慮しているわけじゃなく、単に面倒なだけだ。
 相手するこっちの方が面倒なので、香に話してもらった。

「虎ちゃん、受け取って」

「かしこまりました! 香様の仰せのままに!」

 君の忠誠心は、どこにあるのだ!
 飯富虎昌は、家老にして、領地ナシ、給金アリ待遇にした。

「俺が死んだ時は、香と子供を守ってくれ」

「この命にかけて!」

 俺が戦死する可能性もあるのだ。
 俺が戦死した場合は、四人の家老――板垣さん、甘利虎泰、小山田虎満、飯富虎昌が中心になって武田家を運営していくことになる。

 その時、俺の守役だった板垣さんと、香命の飯富虎昌は、香の後ろ盾になってくれるだろう。
 あくまでも万一の場合だが、戦国時代の武家である以上、万一に備えておかねばならない。

 他の家臣にも、侍大将、奉行などの役職と領地や給金を与え戦の活躍をねぎらった。

 褒美を与えたことで、俺の求心力がアップし、武田家の家臣団が組織だってきたのだ。

 それが麻呂彦の言う『らしくなってきた』だ。


「ところで、麻呂彦殿。依頼していた件の首尾は?」

 俺は麻呂彦に、依頼していた政治工作について聞いた。
 麻呂彦は、杏仁豆腐を木の匙で口に運びながら、表情を変えずに答えた。

「上々におじゃるよ。帝には勤王の志が篤い甲斐武田家からと献金をしたでおじゃる。帝はいたくお喜びになったでおじゃる」

「ほう! それは、良かった! それから?」

「宮中で甲斐武田家の評判はうなぎ上りでおじゃる。そこで、近衛家に話を通して……」

 麻呂彦の話し声が低く小さくなった。

 近衛家は、公家の中でも最高ランクの摂家になる。
 近衛家・一条家・九条家・鷹司家・二条家――この五つの摂家が、公家の中でも最も家格が高いのだ。

 ちなみに香の実家である三条家は、清華家。
 摂家の次、二番目に家格が高い。

 摂家と清華家は、帝に娘を嫁がせることが出来る。
 つまり、皇后になる資格がある家なのだ。

 公家であっても帝に娘を嫁がせることが出来る家と、出来ない家がある。
 そう考えると、摂家・清華家の家格の高さが、理解しやすい。

「近衛家といえば、五摂家筆頭ですね?」

「左様でおじゃる。現当主の近衛稙家様は、足利将軍家と密でおじゃる」

「そうなのですか?」

「お名前の稙は、十代将軍足利義稙殿の稙でおじゃる。それに、おととし、妹君が十二代将軍足利義晴殿の正室になられた」

 俺は今川家の領地をのみ込んでしまおうと思っている。
 今川家は足利一門の名門だ。
 足利将軍家が介入してくるのを避ける為に、近衛家から手を回してもらおう。

「近衛家にお力を貸していただければ、心強いですね」

「そうで、おじゃるな……」

 麻呂彦は、口元を扇子で隠して、意味ありげな視線をこちらに送ってきた。
 金かな?

「近衛家にもお働きいただくのでしたら、お礼をさせていただきたいです」

「大変良いお心がけでおじゃる!」

「では、具体的な金額は、後ほど」

 近衛家にも渡りがつきそうだ。
 これで京都の方は良い。

 俺と麻呂彦が話している間に、庭で餅つきが始まった。
 いつの間にか、香が庭に出ていた。
 飯富虎昌が餅をつき、香がこねている。

「そういえば、松平は気の毒でおじゃった」

「清康殿ですね」

 松平清康は、阿部正豊に斬られて死んだ。
 森山崩れが起きたのだ。

 俺は飯富虎昌を使いに出し、松平清康に警告をしたが、史実通りになってしまった。

「三河はどうですか?」

「治安が悪うなっておじゃる。正直、京都から甲斐へは、来づらいでおじゃるな」

「そのことですが、武田家で船を運航しようと思っています」

「船を?」

「はい。武田家も海を得ました。港を整備して、駿河から伊勢へ。定期的に船を運航しようと考えています」

「ほう! そうなると、甲斐に来るのが、楽でおじゃるな!」

 今のところ、第一候補は伊勢の大湊、第二候補は伊勢の桑名だ。

 伊勢の大湊は、『公界』といって独立自治都市だ。
 伊勢の桑名は、『禁裏御料所』で天皇の直轄領になっている。

 どちらの町も、戦国大名の政治介入を受けない。
 商用であるなら、武田家の船も受け入れてもらえるだろう。

 三条麻呂彦と船の話で盛り上がっていると、遠くから鈴の音が聞こえてきた。
 鈴の音が近づくにつれて賑やかだった新年会が静まりかえっていく。

 この鈴の音は、マウンテンバイク隊! 急使だ!
 何かあったな!

 すぐにマウンテンバイク隊の隊員が、姿を見せた。

「ご注進! ご注進! 至急! 至急! 御屋形様にお取次ぎあれ!」

「俺はここだ! 報告しろ!」

 マウンテンバイク隊の隊員が、早口で報告を始めた。

「越後の長尾為景が、北信濃の村上家に攻め込みました! 村上家は敗北! 当主の村上義清殿が、妻子を連れて当家の国境まで逃げてきました」

「「「「「ええっ!?」」」」」

 新年会の会場に激震が走った。
 そして、天文五年の史実にない動きに、俺は激しく動揺した。

「いっ……板垣さん!」

「はっ!」

「村上義清殿一行に迎えを出して、躑躅ヶ崎館まで無事に連れてきて下さい」

「かしこまりました! すぐに手配をいたします!」

 歴史にないイベントなので、何があったかよく分からない。
 だが、村上義清殿が生きているなら、事情を聞いてそれから対応しよう。

 後は……。

「富田郷左衛門!」

「ここに!」

「北信濃と越後の情報をまとめて報告しろ!」

「かしこまりました! いやっ……! お待ちを!」

 富田郷左衛門の視線の先には、庭先で息を切らした男がいた。
 富田郷左衛門配下の三ツ者だろう。

 何か情報か?

 富田郷左衛門は、男から何事か耳打ちれると、すぐに俺の所へ戻ってきた。

「長尾為景は、村上家を落とすと、そのまま軍を率いて小笠原家へ向かったそうです!」

「「「「「「なっ……!?」」」」」」

 ――一体何が起きているのだ?

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品