武田信玄Reローデッド~転生したら戦国武将武田信玄でした。チートスキル『ネット通販風林火山』で、現代の物をお取り寄せ無双して、滅亡する武田家の運命をチェンジ!

武蔵野純平

第38話 バタフライ効果を考える事、タイムトラベルの如し

「なっ!」


 俺は届けられた書状を読み言葉を失った。
 書状は駿河するがで情報収集をする『三ツ者みつもの』からで、以下の事柄が書いてあった。




 ・駿河の今川家は干ばつの影響で食料事情が厳しい。
 ・そこで甲斐武田家へ出陣が検討されている。
 ・戦によって武田家の食料を奪い取ろうと画策している。
 ・秋口が危ない。
 ・主導しているのは、京都から戻って来た今川義元と義元のブレーン太源雪斎たいげん せっさいである。




 俺は書状を板垣さんに渡し、三ツ者頭領の富田郷左衛門に書状の内容を話すように命じた。
 富田郷左衛門が書状の内容を話し、書状が会議の出席者に回し読みされて行く。


 その間俺は考えていた。
 俺の知っている歴史と今起きている歴史との差異についてだ。


 史実の天文四年では、武田家当主は父の武田信虎だ。
 武田信虎は今川家に戦を仕掛けて反撃を食らう。
 今川家の同盟国相模さがみの北条家までもが武田家の攻撃に回る。


 そこで俺は今川家に攻撃をせず内政に力を入れ干ばつに対応した。
 さらに北条家と和睦を結ぶことで、史実のように今川家と北条家に挟み撃ちにされる状況を避けた。


 今年の戦は『避けたはず』だった。
 だが……今川家の方から戦を仕掛けて来そうだ……。


 なぜだ!


 俺が内政に力を入れ食料の増産を行ったから今川家に狙われることになったのか?
 バタフライ効果……ってやつか?


『ブラジルで一羽の蝶が羽ばたくと、アメリカで竜巻が起こる』


 小さな事象が各所に影響を及ぼし、大きな事象を引き起こす。
 それをバタフライ効果と言う。


 武田家の当主が武闘派の武田信虎から、年若い俺に変わった事や俺が内政に力を入れた事……。
 それらの事象が影響を及ぼし、今川家を呼び込む結果になったのだろうか?


 だとしたらこれから先俺はどうすれば良い?
 俺の知っている歴史はまったくアテにならなくなるのか?


 俺の存在。
 俺の行い。
 俺の決断。


 それらが歴史にどう影響を与えて、どういう結果が出るのか?
 俺の知っている歴史から、この戦国時代風の異世界はどう変わっていくのか?


 そもそも俺はこの異世界に存在して良いのだろうか?
 この異世界では異物……俺は……生きていて大丈夫なのか?


 俺は答えの出ない問いに、心中で苦闘していた。
 すると飯富虎昌おぶとらまさが俺に問いかけて来た。


御屋形様おやかたさま……確か御屋形様は……『今川家とのいくさはない』と言っていましたよね?」


「……言った」


「武田家から仕掛けなければ、今川家とは戦にならないって話しでしたよね? あれは……嘘?」


「……」


 俺は答えられなかった。
 ぐっ……痛い所を突いて来るな……。


 飯富虎昌は不思議そうな顔で続けた。


「えーと……。じゃあ、俺がマウテンバイクで三河みかわ松平清康まつだいら きよやすに会いに行ったのも無駄足なんですかね?」


「いや……! そうだとは……」


「けど……あれは……ほら! 『松平清康まつだいら きよやすが暗殺される』って事を御屋形様が『一芸』って知ったからですよね?」


「そうだ」


「じゃあ、書状にあった『今川家が戦を仕掛けて来そう』って言うのは、『一芸』で知っていたのですか?」


「……いや」


「でしたら……御屋形様の『一芸』自体がアテにならないんじゃ?」


 何と答えれば良いか……。
 困ったな……。


 歴史がずれている事。
 俺の知っている歴史から少しずつ変わってしまっている事をどうやって伝えれば……。


 飯富虎昌のズバリな指摘に俺は答えられなかった。




 その後、幹部会議は板垣さんが議論をまとめてくれ解散になった。


 ・今川家の動向に注意する。
 ・秋口の出兵に備える。
 ・本栖もとす城の強化を進める。


 ――と言う事になった。
 妖怪ジジイ小山田虎満おやまだ とらみつ《おやまだとらみつ》が去り際に俺に一言残して行った。


「御屋形様には考え方を変えていただきたい。御屋形様の『一芸』が何なのか、我らを信用して教えていただきたいですなあ」






 幹部たちが退出した後、俺と奥さんの香が部屋に残った。


「ねえ、ハル君。ちょっと良い? 話す時間ある?」


「うん。良いよ」


「ハル君さあ。板垣さんたちに遠慮し過ぎじゃない?」


「遠慮?」


「そう。ハル君が殿様なんだから、もっと上からズバッと物を言っても良いと思うの。ほらっ! 織田信長みたいに!」


 香は会議での俺の態度が不満だったのか、身振り手振りを交えて俺に強く話して来た。
 だけど、映画やドラマの織田信長みたいに俺は振舞えないのだ。


「ああ~。うーん……そう言う訳には行かないんだよ……」


「どうして? ハル君が一番偉いんでしょ?」


「形式上はそうなるね」


 俺は甲斐国守護かいのくにしゅご武田家の当主だ。
 だから甲斐国のトップだ。
 形式上はな。


「形式上? 実質は?」


「微妙……」


 俺は苦笑いをしながら香に説明した。


「板垣さん達が武田家の家臣と言ってもさ。それぞれ領地を持っていて、独自の兵力を持っている」


「えっ!? そうなの!? じゃあ……武田家の家臣だけど……独自勢力でもあるの?」


 香は理解に苦しんでいるな。
 この辺の力関係はわかりづらい。


 足利幕府からしてそうだったのだが、この時代は中央の力が弱いんだよね。
 足利幕府の領地があまり大きくなくて、各地に領地持ちの武士がいる。
 だから幕府運営が安定せず反乱が起きがちなのだ。


 これが徳川幕府になると幕府直轄の領地が多くなる。
 そして配下にはあまり領地を与えず、徳川の血族は親藩として優遇し、それ以外の藩はとり潰しもある。
 中央集権とまではいかないが、幕府の力がかなり強かった。


 残念ながら武田家は、足利幕府寄りだ。


「その理解であっているよ。武田家は中央集権化されてなくてさ。あくまで甲斐国の中で最大勢力なだけだ。だから俺の発言力は、それほど強くないよ」


 それでも父信虎に領地を取り上げられた家臣には、俸給を米や金で支払うようにして中央集権化を少しずつ進めている。


「ふーん……でも、だからって小山田虎満おやまだ とらみつに嫌味を言われるようじゃどうなの? 帰り際に言っていたじゃない『考え方を変えて欲しい』とか。それに色々要求もされていたし」


「まあねえ……」


「ハル君はリーダーなんだから! 弱いリーダーじゃだめでしょ!」


 香の鼻息がやけに荒いな。
 会議での俺の態度がそんなに不甲斐なかったのだろうか?


「まあ、色々事情があるんだよ。俺の知っている歴史と変わってしまって、動揺していたのもあるし……今川家が攻めて来るとは、まったく予想していなかったんだ……」


「それだけど……会議で話を聞いていて思ったのだけれど……事情を話しちゃったら?」


「事情を話す?」


「そう。私達が転生者で歴史を知っているって事をよ! 内緒にして変に誤魔化すとややこしくなるでしょ?」


 香は『名案でしょ?』と言いたげな顔をしている。
 俺は香の提案をきっぱりと否定した。


「それは出来ない」


「どうして?」


「俺が転生者だと明かす事は、俺が武田太郎、武田晴信とは別人だと宣言する事になる。それは『武田家を継承する権利がない』と宣言する事になる」


「あ……そっか……」


 この肉体は間違いなく武田家嫡男だった武田太郎の肉体だ。
 だけど中身は転生した現代人……いや、この世界の人から見たら未来人とか異世界人になるのか。


 とにかく別人格と知られたら、どこの誰がどんな難癖をつけて来るかわかったものじゃない。
 それこそ武田家の庶流が反乱を起こし、それを北条家や今川家が後押しする可能性だってある。


「この戦国時代みたいな異世界で生きて抜くには、ある程度有利な立場が必要だよ。俺は武田家当主の立場から降りるつもりは無い。だから転生者だと言う事は人に言えない」


「わかった……それはそうね……。じゃあ、ハル君の『一芸』を正直に教えたら? そしたらもっと……こう……会議で話しやすいじゃない?」


「それも出来ない」


「どうして? 言っちゃえば良いじゃない!」


「俺は幹部連中を信じてない」


「えー!」


 色々な事情を知らない香は驚いて目をひん剥いている。
 ドラマの戦国時代とは違うのだ。


「あのねえ……。ウチの幹部連中は確かに俺を支持しているよ。けどそれは、俺がコツコツと金を渡したり、米を贈ったり、酒を飲ませたりしたからだ。家臣の忠誠心なんて……信じてないよ……」


「……なんか昭和の政治家みたいな発言ね」


「ああ。そう言う理解で良いよ。目配り、気配り、金配りだっけ? この世界だと金配り、つまり子分には利益提供しないとダメだ」


「随分イメージと違うのね……もっと武士道な感じかと思っていた……」


「まあ、そう言う人もいるだろうけど、少なくとも武田家家中にはいないと思う」


「板垣さんは?」


 板垣さんか……。
 俺の身近にいて一番世話になっている人だが……。


「どうかな……。今回の会議は板垣さんが開催してくれって言うから開催した。けれど結果的には俺に色々と要求を突き付けられたり、俺の立場が弱くなったりしたからね……」


「それは結果論じゃない? もう少し信じてあげたら?」


「まあ……ね……」


 香は知らない。
 父信虎が家臣の手によって暗殺された事を。


 俺だって幹部連中にとって都合が悪ければ、排除される可能性があるのだ。
 板垣さんの事はある程度信頼しているが、命を預けられる程じゃない。


 だから俺の一芸は家臣たちには伏せておきたい。
 どんな能力を俺が持っているのか?
 手の内を全てを明かさない方が良い。
 
「ハル君と家臣の関係はわかったわ。口出ししてごめんね」


「いや、構わないよ。俺が一番信頼しているのは、香だからさ」


 これは本当だ。
 同じ現代人として話が出来るし、夫婦だから秘密も共有できる。
 香がいてくれて本当に良かった。


「ありがとう! ところでハル君さあ……」


 香の声が急に冷たくなった。
 なんだろう?


「ハル君は……側室を迎えるわけ……?」


 すっかり忘れていた!
 会議で決まったんだ!


 側室ロマンとか思っていたけれど、香のブリザード級の冷たい声を聞くと決定を覆したい。


「いや……えーと……俺は香だけで良いけれど……その……会議で決まったし……政治的な問題もあるから……」


 しどろもどろに言い訳する俺を香はジロリと睨む。
 香は一つ大きく息を吸い、大きく吐き出した。


「まあ、この時代の戦国大名のお嫁さんだからねえ……。側室とか仕方ないと思うけど……。ただ、私の事はちゃんと尊重してよ!」


「はい! 香さんが一番です!」


「本当に?」


「本当だよ! 香の事を一番大事にするから!」


「よろしい! じゃあ、ご褒美に一つ良い事を教えてあげる」


 香がニヤリと笑った。
 何だろう?


「何? 良い事って?」


「火薬の開発に成功したわよ!」

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