武田信玄Reローデッド~転生したら戦国武将武田信玄でした。チートスキル『ネット通販風林火山』で、現代の物をお取り寄せ無双して、滅亡する武田家の運命をチェンジ!
第6話 ひぐらしの鳴く事、遠い記憶の如し
「わかりました! 若様は我ら三人の支持が欲しい……我ら三人を配下に……と言う事ですな?」
小山田虎満が復活して話を始めた。
鋭い眼差しが怖い。
「そうだ。甘利虎泰、飯富虎昌、小山田虎満、どうか私を支持し一緒に武田家を支えて欲しい」
本音は『私』だけどね。『武田家』を支えて欲しいのは、俺が成人して父信虎の跡を継いでからの話しだ。
ともかく今は味方を増やして廃嫡されないようにしないと。
板垣さんが小山田虎満に穏やかに問いかける。
「小山田殿いかがでしょう? 太郎様は本当に小山田殿を頼りにしていらっしゃいます」
「うーむ。しかし、それでは我らが当主信虎様に睨まれてしまいますな……」
「ですから太郎様は、こうしてお三方に土産を……」
「ああ、板垣。若様が我らを高こう買てくれると言う事はわかっておる。若様が武田家の当主となられても、我ら三人を大事にしてくるだろうよ……」
「なら……」
「問題はじゃ! 主としてどうかと言う事じゃ!」
小山田虎満がグワッと目を見開いた。
虎が口を開いて威嚇するような迫力がある。
板垣さんが血相を変えて反論する。
「それは……! 無礼では? ご嫡男の太郎様に主としての資質が無いとおっしゃられるか? あまりに礼を失す!」
「黙らっしゃい! 板垣! 今は乱世ぞ!」
「しかし……」
「嫡男だ、正嫡だと言っても屁のツッパリにもならんわい!」
そう言うと小山田虎満は、盛大に屁をした。
この……! やってくれる! 言ってくれるなあ、この曲者親父は。
俺は笑いそうになるのを堪え、真顔を作って小山田虎満に先を促す。
「よい。苦しゅうない。先を続けよ!」
「我ら三人……いや、板垣を入れ四人が若様を支持したとしよう……その事が信虎様に、いつかばれる。その時我らがどうなるか……太郎様を担ぎ上げた謀反人として御手打ちになるやもしれぬのだぞ!」
場が静まり返る。
晩夏の陽は既に傾いているが、部屋にはじっとりとした体に纏わりつく暑さが漂っている。
そんな中、小山田虎満の鋭い舌鋒が続く。
「甘利! 飯富! 二人はその覚悟があるか! この土産を受け取ると言う事は、若様に命を預けるという事ぞ!」
「……」
「それは……むう……正直、そこまで考えてなかったが……」
甘利虎泰は腕を組んで黙り込み、飯富虎昌は何かを言いよどんだ。
そこに小山田虎満が嵩に懸かって言葉を浴びせる。
「ならば! この土産は受け取るまいぞ! 若様に命を懸けられねば……この首を預けられねば……この土産は受け取るまいぞ! 良いな!」
甘利虎泰は無言で肯き、飯富虎昌は口をへの字にして面白く無さそうに返事をした。
「……」
「わーったよ! 小山田に任せるよ!」
小山田虎満の言う事はハッタリじゃない。
俺の申し出を断る為の口から出まかせではないんだ。
最悪の場合は小山田虎満が言った様に、謀反人として四人が父信虎に処断される可能性はある。
もちろん、そうならない為に武田家家中に太郎支持派を増やし、父信虎が太郎支持派を処断したくても出来ない様にするつもりだ。
小山田虎満は俺の方に向き直った。
「さて、若様。お聞きの通り我らは、この命を若様に預けるかどうかと言う決断を突き付けられておりまする」
「うむ」
小山田虎満の声は静かに俺の耳に届いた。
ひぐらしが鳴いている。
「そこで若様にも腹を割って頂きたい。あなたは武田家の当主になって……いや、我らの主になって何をなされたい!」
「……」
「若様! お答えを!」
小山田虎満の裂帛の気合が俺に向かって飛んで来た。
今度は俺が小山田虎満に『問い』を突き付けられた。
ひぐらしが鳴き止んだ気がした。
俺は一つ息を吸うとゆっくりと小山田虎満の『問い』に応えた。
「俺は武田家の歴史を変えたい」
自分でも驚くような図太い声が出た。
隣に座る板垣さんが息を呑むのが分かった。
正面に座る小山田虎満を真っ直ぐに見つめながら俺は言葉を続ける。
「武田の家を変えたいのだ」
俺は転生して改めて歴史書を読んでみた。
武田信玄は戦国時代の英傑の一人として歴史に刻まれているが、どことなく暗さが付きまとう。
例えば同じ戦国時代の大名でも織田信長は若き改革者として青い魅力を発している。志半ばで倒れたが、戦国を全力で駆け抜けた青年に眩しさを感じる人は少なくないだろう。
豊臣秀吉はどうだろう?
農民出の足軽木下藤吉郎か出世し、太閤まで成り上がる戦国サクセスストーリーは万人を魅了する。
秀吉は死んでも『人たらし』だ。
徳川家康は、寄る辺なき苦労人が天下人になり、後の徳川三百年、比類なき太平の世を築いた。会社経営者で家康を支持する人は多いと聞くし、関東は今でも徳川文化の影響が色濃い。
だが……武田信玄は……武田家の歴史は……。
武田家の歴史は呪われた歴史だ。
少なくとも俺にはそう見える。
まず、父武田信虎を子武田信玄が追放する。
有名な信虎追放劇だ。
父信虎は体一つで娘の嫁ぎ先、駿河の今川義元の所に身を寄せ生涯甲斐の土を踏むことは無かったと言う。
次に武田信玄は、信州――長野県の中央にある諏訪地方攻略を行った。
この攻略では諏訪氏を謀略にかけ騙し討ちにし、娘の諏訪姫を側室にする。
俺の父方の祖父は長野県諏訪地方の武家出身だったが、『甲斐の人には気を付けろ! 騙されるな!』と子供の頃に教わったそうだ。
信玄が諏訪氏に行った悪逆非道な騙し討ちは、数百年後でも諏訪の人に恨みの歴史として語り継がれた訳だ。
この二つの悪行の呪いだろうか?
武田家には惨事が降りかかる。
川中島の合戦では、弟の武田信繫ら有力家臣が戦死。
一時的にだが武田家は大きく力を落としてしまう。
続いて武田信玄の嫡男武田義信は、父信玄に謀反を起こそうとする。
この事件により武田四天王の一人飯富虎昌は謀反の主犯格として処刑、義信も寺に幽閉され二年後に死去する。
信玄が父信虎を追放したのと同じ事を、子の義信が行おうとしたのだ。
因果が巡ったのか。
そして武田信玄は晩年、満を持して西上作戦を行う。
甲斐の国から駿河、遠江、中部地方を通って京都へ向かう上洛作戦だ。
徳川家康を散々に叩きのめした三方ヶ原の戦いの後、信玄は血を吐き倒れる。
武田軍は撤退するが、故郷甲斐国を待たずして武田信玄は撤退途中に息を引き取る。
悲願の上洛は成されず、当主信玄を失った武田家臣の悲しみは想像もつかない。
信玄もさぞや無念だったろう。
信玄の死後は武田勝頼が跡を継ぐ。
だが、鉄砲で有名な長篠の戦で敗戦し、その後、高天神城を見殺しにした事で武田勝頼は家臣から信用を失う。
織田徳川連合軍の苛烈な攻撃を受け、次々に諸城を失った武田勝頼は小山田信茂を頼る。
しかし、小山田信茂は武田勝頼を裏切り、行き場を失くした勝頼は夫人と子と共に自害して果てる。
こうして武田氏は滅亡してしまう。
武田勝頼は、信玄が若い頃謀殺した諏訪氏の忘れ形見諏訪姫の子供だ。
勝頼も決して無能な訳ではない。
やや外交に頼り過ぎるきらいがあったが、相手が織田信長では役者が違った。
勝頼の悲惨な最期は諏訪氏の呪いなのかと考えると慄然とする。
これが武田家の歴史だ。
――つまり!
俺が何もしないでいれば、武田家は同じ道を、破滅の道を歩む可能性があると言う事だ。
そう、だから、俺は武田家の歴史を変えたい。この暗く陰鬱な雰囲気の武田家を変えたいのだ。
俺は目を閉じて、ジッと思いを歴史に馳せていた。
小山田虎満が沈黙を破る。
すり足で近づくような静かな口調で俺に呼び掛ける。
「……若様。武田家の歴史を変え、武田家を変えるとおっしゃるが、その真意は?」
一刀一足の間合いに入られた気がした。
小山田虎満の手に刀は無いが、今にも斬られそうだ。
俺はゆっくりと目を開け、小山田虎満に慎重に言葉を返す。
「武田家は……このまま行くと、俺の次の代で滅びるのだ」
「何を!?」
「太郎様!」
「信じられないのも無理はない。だが俺は知っているのだ。そして、遠くない将来に俺と父信虎が対立し、抜き差しならない状態になる事も知っている」
場が騒然となった。
無理もない。歴史を知っている俺は歴史事実を語っているだけだが、歴史を知らない彼らからすると……。
武田家の嫡男が、武田家が滅ぶと予言をしたのだ。
そして、父親との対立を認めた。
オロオロする板垣さんを横目に俺は小山田虎満と睨み合う。
「ふむ……。若様のおっしゃり様では……まず遠くない将来信虎様と若様の対立が深刻になり、その結果若様が武田家の家督をお継ぎになり、若様のお子の代で武田家が滅びる。そうおっしゃりましたかの?」
「その通りだ」
「そして、その事を若様は知っていると?」
この場にいる全員が、俺の語った言葉の意味を飲み込んだ。
板垣さんは下を向き、甘利虎泰は額から汗を流し、飯富虎昌は居心地が悪そうにしている。
小山田虎満だけが俺に面と向き合い真剣で斬り合うがごとく気を発している。
「ああ。俺は知っているんだ」
「ふむ……それは、若様の『一芸』の力によってですかの?」
気が付いたか。
俺が武田家の歴史を知っているのは、半分は転生したから、そしてもう半分は一芸のネット通販『風林火山』で歴史の本を買って勉強したからだ。
「そう思って貰って構わない。俺とて全ての事を見通せる訳じゃない。ただ、このまま行くと武田家が滅亡する事は知っている。なあ、考えても見ろ。今の武田家は居心地が良いか? 安心して仕えられるか? 将来有望に思えるか? どうだ?」
「はて……一臣下の身としては、お答えに窮しますな……」
小山田虎満の発する気が一歩下がった。そんな風に俺は感じた。
ここはチャンスだろうか?
俺は未来を知る事を認めた。それは一芸によるものだと小山田虎満は解釈した。
俺が武田太郎に転生した事、本来の武田太郎とは別人格である事はバレていない。
うん、何も不都合は無いな。
ならば今は攻め時!
「とぼけるなよ! 小山田虎満! 少なくとも武田家中の雰囲気が悪い位の事は感じているだろう? これから乱世はより一層加速するぞ! 相模の北条家は力をつけ、駿河の今川家は義元が家督を継ぎ上洛を目指す」
「何と!」
「しかし、上洛の途上で尾張の大うつけ織田信長に討たれる。今川家は力を落とし、遠江の松平家は織田と結び一大勢力に成り上がる。越後を長尾景虎が掌握し武田家を狙う」
「……」
「だが、俺はそんな未来を、歴史を変える! だから俺に力を貸せ! 甘利虎泰! 飯富虎昌! 小山田虎満!」
俺は一気呵成に畳みかけた。
俺の知る歴史を語り、武田家の置かれる厳しい立場と未来を語った。
甘利虎泰が両手をついて頭を下げた。
「……若様に従い申す」
続いて飯富虎昌も。
「俺は若様を支持するぜ」
最後に小山田虎満が深く息を吐き出し臣従を誓った。
「ふー。わかり申した。若様を支持し主と仰ぎましょう。よろしくお願い申し上げまする」
俺は鷹揚に肯き三人の気持ちを受け取った。
板垣さんも三人と同じ様に両手をつき礼をとっていた。
いつの間にやら、ひぐらしが再び鳴き始めていた。
「こちらこそよろしく頼む。武田四天王をアテにさせて貰う!」
小山田虎満が復活して話を始めた。
鋭い眼差しが怖い。
「そうだ。甘利虎泰、飯富虎昌、小山田虎満、どうか私を支持し一緒に武田家を支えて欲しい」
本音は『私』だけどね。『武田家』を支えて欲しいのは、俺が成人して父信虎の跡を継いでからの話しだ。
ともかく今は味方を増やして廃嫡されないようにしないと。
板垣さんが小山田虎満に穏やかに問いかける。
「小山田殿いかがでしょう? 太郎様は本当に小山田殿を頼りにしていらっしゃいます」
「うーむ。しかし、それでは我らが当主信虎様に睨まれてしまいますな……」
「ですから太郎様は、こうしてお三方に土産を……」
「ああ、板垣。若様が我らを高こう買てくれると言う事はわかっておる。若様が武田家の当主となられても、我ら三人を大事にしてくるだろうよ……」
「なら……」
「問題はじゃ! 主としてどうかと言う事じゃ!」
小山田虎満がグワッと目を見開いた。
虎が口を開いて威嚇するような迫力がある。
板垣さんが血相を変えて反論する。
「それは……! 無礼では? ご嫡男の太郎様に主としての資質が無いとおっしゃられるか? あまりに礼を失す!」
「黙らっしゃい! 板垣! 今は乱世ぞ!」
「しかし……」
「嫡男だ、正嫡だと言っても屁のツッパリにもならんわい!」
そう言うと小山田虎満は、盛大に屁をした。
この……! やってくれる! 言ってくれるなあ、この曲者親父は。
俺は笑いそうになるのを堪え、真顔を作って小山田虎満に先を促す。
「よい。苦しゅうない。先を続けよ!」
「我ら三人……いや、板垣を入れ四人が若様を支持したとしよう……その事が信虎様に、いつかばれる。その時我らがどうなるか……太郎様を担ぎ上げた謀反人として御手打ちになるやもしれぬのだぞ!」
場が静まり返る。
晩夏の陽は既に傾いているが、部屋にはじっとりとした体に纏わりつく暑さが漂っている。
そんな中、小山田虎満の鋭い舌鋒が続く。
「甘利! 飯富! 二人はその覚悟があるか! この土産を受け取ると言う事は、若様に命を預けるという事ぞ!」
「……」
「それは……むう……正直、そこまで考えてなかったが……」
甘利虎泰は腕を組んで黙り込み、飯富虎昌は何かを言いよどんだ。
そこに小山田虎満が嵩に懸かって言葉を浴びせる。
「ならば! この土産は受け取るまいぞ! 若様に命を懸けられねば……この首を預けられねば……この土産は受け取るまいぞ! 良いな!」
甘利虎泰は無言で肯き、飯富虎昌は口をへの字にして面白く無さそうに返事をした。
「……」
「わーったよ! 小山田に任せるよ!」
小山田虎満の言う事はハッタリじゃない。
俺の申し出を断る為の口から出まかせではないんだ。
最悪の場合は小山田虎満が言った様に、謀反人として四人が父信虎に処断される可能性はある。
もちろん、そうならない為に武田家家中に太郎支持派を増やし、父信虎が太郎支持派を処断したくても出来ない様にするつもりだ。
小山田虎満は俺の方に向き直った。
「さて、若様。お聞きの通り我らは、この命を若様に預けるかどうかと言う決断を突き付けられておりまする」
「うむ」
小山田虎満の声は静かに俺の耳に届いた。
ひぐらしが鳴いている。
「そこで若様にも腹を割って頂きたい。あなたは武田家の当主になって……いや、我らの主になって何をなされたい!」
「……」
「若様! お答えを!」
小山田虎満の裂帛の気合が俺に向かって飛んで来た。
今度は俺が小山田虎満に『問い』を突き付けられた。
ひぐらしが鳴き止んだ気がした。
俺は一つ息を吸うとゆっくりと小山田虎満の『問い』に応えた。
「俺は武田家の歴史を変えたい」
自分でも驚くような図太い声が出た。
隣に座る板垣さんが息を呑むのが分かった。
正面に座る小山田虎満を真っ直ぐに見つめながら俺は言葉を続ける。
「武田の家を変えたいのだ」
俺は転生して改めて歴史書を読んでみた。
武田信玄は戦国時代の英傑の一人として歴史に刻まれているが、どことなく暗さが付きまとう。
例えば同じ戦国時代の大名でも織田信長は若き改革者として青い魅力を発している。志半ばで倒れたが、戦国を全力で駆け抜けた青年に眩しさを感じる人は少なくないだろう。
豊臣秀吉はどうだろう?
農民出の足軽木下藤吉郎か出世し、太閤まで成り上がる戦国サクセスストーリーは万人を魅了する。
秀吉は死んでも『人たらし』だ。
徳川家康は、寄る辺なき苦労人が天下人になり、後の徳川三百年、比類なき太平の世を築いた。会社経営者で家康を支持する人は多いと聞くし、関東は今でも徳川文化の影響が色濃い。
だが……武田信玄は……武田家の歴史は……。
武田家の歴史は呪われた歴史だ。
少なくとも俺にはそう見える。
まず、父武田信虎を子武田信玄が追放する。
有名な信虎追放劇だ。
父信虎は体一つで娘の嫁ぎ先、駿河の今川義元の所に身を寄せ生涯甲斐の土を踏むことは無かったと言う。
次に武田信玄は、信州――長野県の中央にある諏訪地方攻略を行った。
この攻略では諏訪氏を謀略にかけ騙し討ちにし、娘の諏訪姫を側室にする。
俺の父方の祖父は長野県諏訪地方の武家出身だったが、『甲斐の人には気を付けろ! 騙されるな!』と子供の頃に教わったそうだ。
信玄が諏訪氏に行った悪逆非道な騙し討ちは、数百年後でも諏訪の人に恨みの歴史として語り継がれた訳だ。
この二つの悪行の呪いだろうか?
武田家には惨事が降りかかる。
川中島の合戦では、弟の武田信繫ら有力家臣が戦死。
一時的にだが武田家は大きく力を落としてしまう。
続いて武田信玄の嫡男武田義信は、父信玄に謀反を起こそうとする。
この事件により武田四天王の一人飯富虎昌は謀反の主犯格として処刑、義信も寺に幽閉され二年後に死去する。
信玄が父信虎を追放したのと同じ事を、子の義信が行おうとしたのだ。
因果が巡ったのか。
そして武田信玄は晩年、満を持して西上作戦を行う。
甲斐の国から駿河、遠江、中部地方を通って京都へ向かう上洛作戦だ。
徳川家康を散々に叩きのめした三方ヶ原の戦いの後、信玄は血を吐き倒れる。
武田軍は撤退するが、故郷甲斐国を待たずして武田信玄は撤退途中に息を引き取る。
悲願の上洛は成されず、当主信玄を失った武田家臣の悲しみは想像もつかない。
信玄もさぞや無念だったろう。
信玄の死後は武田勝頼が跡を継ぐ。
だが、鉄砲で有名な長篠の戦で敗戦し、その後、高天神城を見殺しにした事で武田勝頼は家臣から信用を失う。
織田徳川連合軍の苛烈な攻撃を受け、次々に諸城を失った武田勝頼は小山田信茂を頼る。
しかし、小山田信茂は武田勝頼を裏切り、行き場を失くした勝頼は夫人と子と共に自害して果てる。
こうして武田氏は滅亡してしまう。
武田勝頼は、信玄が若い頃謀殺した諏訪氏の忘れ形見諏訪姫の子供だ。
勝頼も決して無能な訳ではない。
やや外交に頼り過ぎるきらいがあったが、相手が織田信長では役者が違った。
勝頼の悲惨な最期は諏訪氏の呪いなのかと考えると慄然とする。
これが武田家の歴史だ。
――つまり!
俺が何もしないでいれば、武田家は同じ道を、破滅の道を歩む可能性があると言う事だ。
そう、だから、俺は武田家の歴史を変えたい。この暗く陰鬱な雰囲気の武田家を変えたいのだ。
俺は目を閉じて、ジッと思いを歴史に馳せていた。
小山田虎満が沈黙を破る。
すり足で近づくような静かな口調で俺に呼び掛ける。
「……若様。武田家の歴史を変え、武田家を変えるとおっしゃるが、その真意は?」
一刀一足の間合いに入られた気がした。
小山田虎満の手に刀は無いが、今にも斬られそうだ。
俺はゆっくりと目を開け、小山田虎満に慎重に言葉を返す。
「武田家は……このまま行くと、俺の次の代で滅びるのだ」
「何を!?」
「太郎様!」
「信じられないのも無理はない。だが俺は知っているのだ。そして、遠くない将来に俺と父信虎が対立し、抜き差しならない状態になる事も知っている」
場が騒然となった。
無理もない。歴史を知っている俺は歴史事実を語っているだけだが、歴史を知らない彼らからすると……。
武田家の嫡男が、武田家が滅ぶと予言をしたのだ。
そして、父親との対立を認めた。
オロオロする板垣さんを横目に俺は小山田虎満と睨み合う。
「ふむ……。若様のおっしゃり様では……まず遠くない将来信虎様と若様の対立が深刻になり、その結果若様が武田家の家督をお継ぎになり、若様のお子の代で武田家が滅びる。そうおっしゃりましたかの?」
「その通りだ」
「そして、その事を若様は知っていると?」
この場にいる全員が、俺の語った言葉の意味を飲み込んだ。
板垣さんは下を向き、甘利虎泰は額から汗を流し、飯富虎昌は居心地が悪そうにしている。
小山田虎満だけが俺に面と向き合い真剣で斬り合うがごとく気を発している。
「ああ。俺は知っているんだ」
「ふむ……それは、若様の『一芸』の力によってですかの?」
気が付いたか。
俺が武田家の歴史を知っているのは、半分は転生したから、そしてもう半分は一芸のネット通販『風林火山』で歴史の本を買って勉強したからだ。
「そう思って貰って構わない。俺とて全ての事を見通せる訳じゃない。ただ、このまま行くと武田家が滅亡する事は知っている。なあ、考えても見ろ。今の武田家は居心地が良いか? 安心して仕えられるか? 将来有望に思えるか? どうだ?」
「はて……一臣下の身としては、お答えに窮しますな……」
小山田虎満の発する気が一歩下がった。そんな風に俺は感じた。
ここはチャンスだろうか?
俺は未来を知る事を認めた。それは一芸によるものだと小山田虎満は解釈した。
俺が武田太郎に転生した事、本来の武田太郎とは別人格である事はバレていない。
うん、何も不都合は無いな。
ならば今は攻め時!
「とぼけるなよ! 小山田虎満! 少なくとも武田家中の雰囲気が悪い位の事は感じているだろう? これから乱世はより一層加速するぞ! 相模の北条家は力をつけ、駿河の今川家は義元が家督を継ぎ上洛を目指す」
「何と!」
「しかし、上洛の途上で尾張の大うつけ織田信長に討たれる。今川家は力を落とし、遠江の松平家は織田と結び一大勢力に成り上がる。越後を長尾景虎が掌握し武田家を狙う」
「……」
「だが、俺はそんな未来を、歴史を変える! だから俺に力を貸せ! 甘利虎泰! 飯富虎昌! 小山田虎満!」
俺は一気呵成に畳みかけた。
俺の知る歴史を語り、武田家の置かれる厳しい立場と未来を語った。
甘利虎泰が両手をついて頭を下げた。
「……若様に従い申す」
続いて飯富虎昌も。
「俺は若様を支持するぜ」
最後に小山田虎満が深く息を吐き出し臣従を誓った。
「ふー。わかり申した。若様を支持し主と仰ぎましょう。よろしくお願い申し上げまする」
俺は鷹揚に肯き三人の気持ちを受け取った。
板垣さんも三人と同じ様に両手をつき礼をとっていた。
いつの間にやら、ひぐらしが再び鳴き始めていた。
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