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異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第51話 ノースポール辺境伯とのお食事

 領主ノースポール辺境伯の館では、執事が俺たちを迎えてくれた。

「ミッツ様ですね。冒険者ギルドのボイル様より、お話はうかがっております。ノースポール辺境伯様もミッツ様ご一行を、喜んでお世話すると申しております」

「ありがとうございます! 大人数で恐縮ですが、よろしくお願いします!」

 俺たちは別館に案内された。
 俺たちの宿泊場所である別館は、立派な二階建ての館だ。
 この館は、他所の領地から応援に来た騎士たちが泊まる建物だそうで、食堂や風呂もついている。

 拠点から連れて来た仲間は、風呂に大興奮だ。

「やった! 風呂だよ!」
「一月くらい入ってないよな!」
「スゲエ!」

 やはり『お風呂は心のオアシス』だな。
 俺は拠点から連れて来た仲間たちに、この世界のお風呂感覚を説明する。

「この世界だとお風呂は贅沢品だから! 普通の人は『クリーン』で済ましている。貴族や一部の裕福な商人が、お風呂を使う。そういう世界だから、感謝してお風呂を使ってね」

「「「「「了解!」」」」」

 別館には、メイドさんが専属でついて世話をしてくれる。
 至れり尽くせりだ!

「ミッツ様。辺境伯様が、夕食をご一緒にと申しております。リク様、マリン様、スィーバヤーマ様もご一緒にどうぞ」

 来た!
 貴族からのコンタクトだ!

 俺はチラリと、リク、柴山さん、マリンさんも見る。
 三人は、コクリとうなずいた。
 まあ、世話になるわけだし断れないよな……。
 挨拶とお礼くらいは、言わなきゃ不味いだろうし……。

「わかりました。ご招待に応じます」

「ありがとうございます。それでは、しばらくいたしましたら迎えに参りますので、本館へ移動の準備をお願いいたします」


 *


「やあ、よく来てくれたね!」

 領主のノースポール辺境伯は、穏やかな雰囲気のナイスミドルだった。
 盾役のブラウニーさんから聞いたとおりの人で、偉ぶったところはなく、良い人感が溢れている。

「みなさんは、外国から旅をして来たと聞いている。料理が口に合うと良いのだが、どうかね?」

 ノースポール辺境伯の気遣いに、マリンさんが満面の笑顔で答える。

「とても美味しいです!」

「そうか、それは良かった!」

 食事をするのは、俺、リク、柴山さん、マリンさん、そしてノースポール辺境伯の五人だ。

 メニューは、この世界のコース料理らしく、最初にスープとパンが出てきて、次にメインのステーキと付け合わせのイモや野菜がどっと出てきた。

 お皿を沢山テーブルに置くスタイルは、日本人の俺たちには親しみやすい。

 ステーキには、ベリーのソースがかかっていて、かなり旨い!
 一緒に出てきた赤ワインともよくあう。

 鋼鉄の料理人津田さんに食べさせて、コメントを聞いてみたいな。
 そうすれば、この世界の料理レベルが分かるだろう。

 食事の最中は、無難な会話が続いた。

 領都ノースポールは、どう感じたか?
 気に入った料理はあったか?
 魔物との戦闘や旅の途中で苦労はなかったか?

 俺たち四人は、当たり障りのない答えをすることで、悪くない対応が出来たと思う。

 さすがの俺も貴族に対してフランクな口調で答えるわけにもいかない。
 出来る限り丁寧な言葉を選んで、失礼にならないようにお話をさせてもらった。

 食事が終ると、給仕をしていた召使いたちが下げられ、執事さんだけが部屋に残った。

 ここからが本番か?

「さて、ここからは腹を割って話したい。冒険者ギルドマスターのボイルから、ミッツ君たちの話を聞いたのだが……」

 ノースポール辺境伯は、アゴのヒゲを右手で触りながら間を取った。
 俺たちは緊張して姿勢を正す。

「君たちは一体何者なのだ? 強力な魔物の素材を大量にギルドへ持ち込み、幻といわれるエリクサーまで!」

「「「「……」」」」

 俺たちは即答を避け、ジッとノースポール辺境伯を観察した。
 すでに俺たちの正体は、猫獣人ココさんたちに明かしている。
 そのうち領主であるノースポール辺境伯の耳に入るだろう。

『異世界から転移した日本人であること』

 今、ノースポール辺境伯に明かして、協力を求めるかどうか?
 俺たちは、必死に頭を動かしていた。

 ノースポール辺境伯が、テーブルにグッと乗り出して誠実な雰囲気で話を続ける。

「私はミッツ君たちと良い関係でありたいと願っているのだ。ミッツ君たちのおかげで、領都ノースポールに人が増えた。私は領主として、とても喜んでいるのだよ。我がノースポール辺境伯家のモットーは、『信頼と誠実』だ。ミッツ君たちと良い関係を築かせて欲しいのだが、どうだろうか?」

 俺はノースポール辺境伯の言葉に真実味を感じた。
 信じても大丈夫そうだと。

「少し仲間と話をさせてもらえませんか?」

「もちろん。構わない。私は席を外そう」

 ノースポール辺境伯と執事さんは部屋から出て、俺たち四人だけになった。
 まず、俺が意見表明をした。

「俺はノースポール辺境伯に、事情を話して良いと思う。猫獣人ココさんたちには、既に話してしまっているから、ノースポール辺境伯にも、そのうち伝わるだろう。それなら直接伝えた方が、良い印象を与える」

 俺の意見に柴山さんが、賛成する。

「僕もミッツさんの意見に賛成です。冬が近いとココさんが言っていました。転移してきた日本人二千五百人全員が、拠点で冬を越すのは厳しいのでは? このノースポールの町に、ある程度まとまった人数を住まわせてもらった方が良いでしょう。その為には、領主ノースポール辺境伯さんの協力は必須です」

 そうだな。
 冬を考えると、ノースポール辺境伯に協力してもらった方が良い。

 リクはジッと考えているので、先にマリンさんの意見を聞く。

「マリンさんは?」

「直感だけどノースポール辺境伯さんは、良い人だと思う。事情を話せば、協力してもらえるんじゃないかな。ほら、上から目線の嫌な貴族ではないでしょう? ある程度、話は出来そうよ」

「そうだな。リクはどう思う?」

 ジッと考えていたリクがゆっくりと話す。

「俺もノースポール辺境伯に事情を打ち明けた方が良いと思う。領主の協力が得られれば、ありがたいからな。だが、いざという時は……」

「ん? いざという時は?」

 リクが決意のこもった顔をする。
 場に緊張感が漂う。

「いざという時……つまり、ノースポール辺境伯が俺たちと敵対した場合は、戦うことも辞さない……。そんな覚悟が必要だ」

「オイオイ! リク!」

「ミッツ! 甘いことは、言ってられないぞ! 確かにノースポール辺境伯は良い人だと思う。だが、領主だろう? 会社の社長が自社の利益を優先するように、ノースポール辺境伯は領地の利益を優先すると思うぜ!」

 リクの言うことは、わかる。
 ボランティアじゃないんだ。
 ノースポール辺境伯だって、俺たちと仲良くするメリットを感じるから、俺たちを受け入れようとしているのだろう。

「しかし……敵対か……。あるのか?」

「俺たちの利益とノースポール辺境伯の利益がぶつかればあり得る話だぜ。ミッツ! リーダーとして、いざという時は戦うくらいの覚悟は決めておいてくれ!」

 俺とリクがジッとにらみ合う。
 リクは本気だ。

 もし、ノースポール辺境伯が敵対したら……。

 そうか!
 この町に俺たちの仲間が住んだら、仲間が盾にされる可能性もあるのか!

 リクが何を恐れているのか、少しわかった。

 俺は決意を込めてうなずく。

「わかった。いざという時は、戦うよ! 仲間の為に!」

「よし! それなら俺に異存はないぜ!」

 話はまとまった。
 ノースポール辺境伯に、俺たちの事情を話して協力を依頼するのだ。

 ノースポール辺境伯と良い関係になることを、俺は祈った。

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