異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第49話 混み合う領都ノースポール

 ■ 異世界転移二十九日目、拠点に戻って六日目、移動初日

 俺たちは、拠点からノースポール辺境伯領の領都ノースポールを目指して出発した。
 今回、領都ノースポールへ向かうのは二十八人と大人数だ。

 内訳は以下の通り。

 ・俺、リク、マリンさん、柴山さんの四人組。

 ・猫獣人ココさん、盾役のブラウニーさん、エルフの魔法使いティケさん、必殺の蛇拳で回復役のリーリオさんの現地人四人組。

 ・ミッツグループの戦闘職六人、生産職四人。

 ・佐伯グループの戦闘職が十人。

 拠点では、沢山の人が見送ってくれた。
 俺たちが見えなくなるまで、手を振ってくれたのが印象深い。

 拠点では、不満のはけ口がなかった。
 食い物は肉だけ、風呂がないのもきれい好きの日本人としては辛い。

 だが、俺たちが色々な物資を持ち帰ったことで、食事のバリエーションが増えた。
 特に塩を始めとする香辛料と米が、みんなの舌を満足させたのだ。

 そして、クリーンをかけ、着替えを渡したことで衛生面も大分改善されてきた。

 俺たちの行動が評価されたのだ。
 嬉しいし、誇りに感じる。

「ニャー。名残惜しいニャ」

 猫獣人ココさんは、大人気だった。
 やはり三角耳で尻尾のある獣人は、わかりやすい異世界感があるせいだろう。
 老若男女問わず、ココさんに笑顔で接していた。

 特に子供からは大人気で『猫しゃーん!』とか子供に呼ばれて、じゃれつかれていた。
 アニメから飛び出してきたようなキャラだからな。

「ココさん。また来て下さいよ。みんなも喜ぶだろうし」

「そうだニャ。また、護衛依頼が出ると良いニャ」

 さて、再び領都ノースポールの町へ向かうことになったのだが、今回は移動速度が速い。
 同行する人は、全員レベルアップをさせておいたので、基礎体力が上がっているのだ。

 休憩も少ないし、歩く速度も速い。
 道もわかっているので、前回の遠征より移動スピードが上がっている。

 そして、時々、木製のプレートを木に引っかけていく。
 これは目印だ。

 前回遠征の行き帰りに、リクが木に傷をつけたり、枝を折ったりして目印にしたが、魔物が木の枝を折ることもある。

 他の人はコンパスを持っていない。
 今後、俺やリクが同行しなくても、みんなが道を間違えないように……と考えて目印を打っていく。

 こうして旅は順調に進み、三日で南の神殿に到着し、一日でイルゼ村に到着、イルゼ村から歩いて一日で領都ノースポールに到着した。

 旅程は、わずか五日だ!


 ■ 異世界転移三十四日目、移動五日目の夕方

「ニャー! 人が多いニャ!」

「本当に凄い人出ですね!」

 猫獣人ココさんが、あまりの人の多さに万歳ポーズでジャンプする。
 初訪問の人たちも驚いて声を上げた。

「えっ!? 異世界の町って、こんなに人がいるの!?」
「渋谷かよ!」
「通勤ラッシュよりヒドイね!」

 大通りが人で埋まっていて、馬車が通れない。
 人が多すぎて、前へ進めないのだ。

 前回、領都ノースポールに来た時は、ここまで人が多くなかったが……。

「俺たちが原因か?」

「たぶん、そうニャ。オークションにエリクサーが出品された話が広がったニャ」

「じゃあ、商人や一攫千金狙いの冒険者が増えたのか」

「そうだニャ。見かけない冒険者が多いニャ」

 猫獣人ココさんたちは、Cランク冒険者パーティーだ。
 この町の冒険者に知り合いが多いだろう。
 そのココさんが、見かけないと言うのだから、他所から来た冒険者なのだろう。

「行き先は冒険者ギルドニャ?」

「そうです!」

「なら、裏から行くニャ。ついてくるニャ!」

 猫獣人ココさんが、大通りから路地に入った。
 建物の間を抜け、生活用水と思われる用水路をまたぎ、冒険者ギルドの裏口に到着した。

 猫獣人ココさんが、そっと裏口の扉を開けると……。

 いきなり俺たちの耳に怒号が飛び込んできた。
 他所から来た冒険者らしき男と冒険者ギルドの女性スタッフが、ガッチガチにやり合っている。

「だから! まだかって聞いてるんだよ!」

「まだだって言ってるじゃない! 何度も聞かないでよ!」

「いつまで待たせるんだ!」

「見ればわかるでしょ! 他所から来た人もいて、メチャクチャ混んでるのよ! 黙って待ってて!」

 女性スタッフも負けてない!
 しかし、殴り合いまで、カウントダウンが開始されているな。
 両者ともにいらだっている。

「オマエ……! 俺たちはライガールの町から来た冒険者パーティー『白い海パン』だぞ!」

 ライガールは海沿いの町なのだろうか?
 よりによって、『白い海パン』なんて、パーティー名をつけるなよ。
 俺の後ろで、同行者たちが必死に笑いをこらえている。

「海パンだか、パンイチだか知らないけれど、文句言わずに待ってなさいよ! はい! 次は『暁の旋風斬』のみなさん!」

「テメー! シカトすんな!」

 白い海パンの騒ぎ立て男が、前へ出ようとすると、ガッシとアイアンクローが男の額にはまった。

 おっ! ケインだ!
 オークに襲われているところを、俺たちが助けた。
 地元の冒険者だから、見るに見かねて出張ったのだろう。

 ケインがドスの利いた声を放った。

「ただいま、大変、混み合って、おります」

「痛い! 痛い!」

「ただいま、大変、混み合って、おります」

「イタ! イタ! イタイ!」

「ただいま、大変、混み合って、おります」

「わかりました! 静かに待ってます! スイマセンでした!」

「フンッ!」

 ケインは男を解放すると、ホールに置かれた木製の椅子にドカリと腰を下ろした。
 ケインたちも待っているのだろう。
 顔にいら立ちがある。

「ここは任せて大丈夫そうニャ! ついてくるニャ!」

 猫獣人のココさんは、そーっと裏口から冒険者ギルドの中に入ると、ギルドマスターの部屋へ向かった。
 俺たちも、そーっと後をついていった。

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