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異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第47話 お漏らし議員たち

 俺はいつものように、ジョン・マクレーンCV野沢那智の声真似をしながら、羽毛田議員と美栄春子議員に肩を組んだ。

「そうか、そうか。みんなの役に立ちたいのか? 素晴らしい! じゃあ、役に立ってもらおうじゃないか! さあ、ちょっとこっち来な!」

 そのまま拠点の外へ連れて行く。
 リク、柴山さん、マリンさんは、『また始まった』って顔をしているが、俺は拠点に住むみんなのためにやっているんだ。

 俺たちの後に佐伯君たちが『何を始めるのか?』と楽しそうな顔でついてくる。
 さらに後ろを広場にいた拠点の住人たちが追ってきた。

 しばらく歩き拠点の安全エリアから外に出る。

「ど、どこへ行くんだ?」
「そろそろ帰りましょう」

 羽毛田議員と美栄春子議員の挙動がおかしいが、ステータスアップした俺がガッチリと肩を組んでいるので、逃げようにも逃げられない。

 やがて、目の前に巨大な魔物グレートホーンディアが現れた。
 突然現れた人間の一団、つまり俺たちを敵意むき出しの目でにらみつける。

「ヒッ! ま、魔物!」
「こっ……! こっ! こんな!」

 二人がグレートホーンディアの巨大さに恐れ、敵意を向けられたことで震えだした。
 そりゃ怖いよな。

 俺は初戦闘の時に興奮していたけれど、冷静に考えればグレートホーンディアと正面から向き合うなんて正気の沙汰じゃない。

 だが、この世界にはステータスがあり、スキルがある。
 自分のステータスとスキルを信じることが出来れば、巨大なグレートホーンディアと対峙することが出来るし、討伐することも可能なのだ。

 この二人のジョブは何だろう?
 戦闘スキルはないのかな?

 俺は羽毛田議員と美栄春子議員の背中を強く押した。

「じゃあ、お二人さん! がんばって、その化け物を倒してくれ」

「そ、そんな! 無理に決まってる!」
「ひ、ひどい! そんなこと出来るわけないわ!」

 二人そろって金切り声を上げる。

 俺の狙いがわかったようで、リクがニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべた。
 佐伯君も腕を組みながら、満更でもない顔をしている。

 俺は羽毛田議員と美栄春子議員に、大げさなジェスチャーを交えながら話を続ける。

「無理? なーにを言ってるの? 『みんなさんの役に立ちたいだけです!』って、さっき行ってたじゃないか! だったら、そこの化け物を倒して、拠点の安全と食料の確保をお願いしますよ! 議員!」

 羽毛田議員と美栄春子議員は、顔を見合わせて俺に何か言おうとしたが、柴山さんが言葉をかぶせた。

「その化け物と僕たちは毎日戦っています。みなさんが食べる肉を得るために戦い。町を探すために戦う。命がけです。羽毛田議員、美栄春子議員、お二方も命がけで戦ってみたらどうですか?」

「いえ……あの……」

「少なくとも僕たちのグループや佐伯君のグループは、あの化け物と戦っています。それなのに、僕らのグループや佐伯君のグループを除け者にして選挙をやろうなんて、僕は許しません!」

 柴山さんが珍しく怒っている……。
 普段、穏やかな人が怒ると怖いって本当だな。
 リクもマリンさんも、ちょっと引いている。

 羽毛田議員と美栄春子議員は、恐怖で顔を真っ青にしていた。
 それに羽毛田議員の取り巻きたちは、周りにいる拠点の住人に『オマエたちも戦えよ!』とグレートホーンディアの方へ突き出されている。

 グレートホーンディアが、一歩前へ踏み出した。
 たかが一歩だが、巨大なグレートホーンディアが一歩歩けば、地面に振動が伝わり、体が揺れる。

 巨大なビルが動くようなもので、視覚的にも相当プレッシャーを感じる。
 慣れている俺たちでも、胃が重くなる気分だ。

 戦闘経験のない羽毛田議員たちは、精神的にもう限界だろう。

「クリーン!」

 マリンさんが突如生活魔法クリーンを発動させた。

「マリンさん?」

「あのちょっと……」

 マリンさんが苦笑いをして、リクが自分の股に手をあてて、手を勢いよく開いて見せた。
 ああ、誰か漏らしたのか。

 柴山さんは、まだ、厳しい表情だが、これだけ議員連中に恥をかかせたのだ。
 そろそろ終わりにしても良いだろう。

「えっと。佐伯君! あれ、お願いしていいかな?」

「お任せを!」

 佐伯君はアイテムボックスから長い剣を取り出すと、右手に持って走り出した。
 助走をつけて右方向へジャンプし、木の幹を足場にして左方向へジャンプ、そして同じ要領で右へジャンプする。

 木の幹を使ってジグザグにジャンプしているのだが、スピードが速い!
 戦闘経験のある俺は、何とか目で追えるが、拠点の住人で戦闘経験がない人では佐伯君の動きを追うことは出来ないだろう。

 さすがは勇者と思える動きで、グレートホーンディアを翻弄している。

 そして、佐伯君が消えた!
 恐らくスピードを上げたのだろう。

 佐伯君が消えたと思ったら、グレートホーンディアの首がズルリとずれて地に落ちた。
 首を落とされたグレートホーンディアの胴体から大量の血が流れ落ちる。

「「ヒエー!!!!」」

 羽毛田議員と美栄春子議員が悲鳴を上げる。
 間髪入れず、マリンさんがクリーンを発動した。

「まあ、ご覧の通りだ。あんたたちが毎日食べている肉は、こうやって戦闘職の人間が魔物と戦って、魔物を! 殺して! 手に入れるんだ! 覚えとけ!」

「ああああ! スイマセン! スイマセン!」

 羽毛田議員たちは、猛ダッシュで拠点へ帰っていった。
 佐伯君が俺に歩み寄る。

「ミッツさんは、意外とヒドイですね!」

「ヒドイって言う割には、顔が笑ってるぞ」

「そりゃ、スッキリしましたから!」

 ひとしきり笑うと、佐伯君が表情を真面目にした。

「ミッツさん。それで……、国を作る話ですが、真剣に考えて下さい! あの人たちみたいに、現実を見ない人がリーダーになったら、みんな死んでしまいます!」

「そう……だな……」

 俺は佐伯君の意見を否定出来なかった。
 佐伯君が俺をまっすぐに見る。
 これはあやふやな答えは出来ない。
 誠実に答えよう。

「建国の話は、俺の一存では決められない。仲間の中には、日本に帰りたい人もいる。奥さんや子供が日本で待っていると思えば、建国してこの世界に骨を埋めることも出来ないだろう。だから、俺も建国するから協力しろとは言えない」

「そ……それは……」

 佐伯君は、日本に帰りたい人がいることに初めて気が付いたようだ。
 激しく動揺している。

 拠点の住人たちの中には、大きくうなずく人がいる。

 俺は優しい声で佐伯君にお願いした。

「だから、俺のグループで建国について話し合いをする。佐伯君の建国に協力したいヤツには、協力させるよ。けど、『日本に帰りたいから建国には参加しない。建国なんて、責任を持てない』という人の気持ちも尊重してやってくれ」

「そうですね……。わかりました」

 俺は佐伯君と気持ちの良い握手を交した。

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