異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第43話 演説に込められた思い

■ 異世界転移二十五日目、拠点に戻って二日目


――翌朝。


俺、リク、マリンさん、柴山さんの四人で、拠点の住人に対して報告を行う。


電車の乗降口を演台に見立てた。
乗降口に立つと、神殿前の広場に拠点の住人が勢ぞろいして、俺をジッとみていた。


二千五百人の視線を受けて、リク、マリンさん、柴山さんがたじろぐ。


こんな時は、俺がしっかりしないと!
俺はグッと拳を握り、息を大きく吸ってから言葉を飛ばし始めた。


「朝早くから集まってくれて、ありがとうございます! 俺は弾光広です! ミッツと呼ばれています。俺たちは四人で、森を突っ切って、町を見つけてきました! 町の名前は、ノースポールです!」


「「「「「おお!」」」」」


二千五百人が感嘆の声をあげる。
軽く拍手してくれる人もいる。


俺の後ろには、風魔法を使える人が四人並んでいて、ゆるやかな風を観客の方へ吹かしてくれている。


おかげで後ろの方まで、俺の声は聞こえるようだ。


「昨日、みなさんに配ったソースカツ丼は、ノースポールで入手したお米やソースを使いました。食事の後、配布した古着もノースポールで手に入れました」


俺はノースポールの様子を話し続けた。
冒険者ギルドや商業ギルドがあること。
この近くで狩った魔物の皮や魔石が買い取ってもらえること。
貴族や王様がいること。
多種多様な種族が共存していること。


「それでは紹介します! ノースポールからやって来た冒険者パーティー『わっしょい』のみなさんです! 猫獣人で斥候役のココさん! 人族で盾役のブラウニーさん! エルフの魔法使いティケさん! 回復役でありながら必殺の蛇拳で戦うリーリオさん!」


四人に声援が飛ぶ。
食事を配った時に顔を合わせた人もいたせいだろう。
早くもファンが出来たようだ。


特に猫獣人ココさんとエルフの魔法使いティケさんへの声援が多い。


二人は、日本のマンガやアニメにあるファンタジー世界から飛び出してきたような存在だ。
人気があるのもうなずける。


俺が大まかな説明を終えるとリクにバトンタッチした。


リクは、ここから領都ノースポールまでの旅の様子と、パーティー編成の魔法について説明した。


続いてマリンさんから、領都ノースポールの治安や女性の扱いについて話があった。
日本に比べると治安が悪いので、日本人女性だけで歩くのは危険であり、猫獣人ココさんたちのように現地の冒険者に護衛してもらった方が良い、女性は誘拐の危険があるといったちょっと怖い話だ。


拠点の住人たちは眉をひそめたが、ウソはつけない。
この治安情報をきちんと伝えておかないと、領都ノースポールでフラフラして犯罪に巻き込まれる人が出るかもしれないからだ。


マリンさんは続ける。


「これから冬になるそうです。この地域は温暖な気候らしいですが、冬は冷え込むそうです。ですので、ここの冬支度が間に合わないようであれば、何人かは領都ノースポールや他の町で冬を越すことになるかもしれません」


拠点の住人たちがザワつく。
少し間を置いて、住人のザワつきが収まったところで、マリンさんは再び話し始めた。


「私は子供さんやお年寄りが町に住んだ方が良いと思いました。食料や薪があるし、宿屋に泊まることも出来るし、家を借りることも出来ます。ただ、治安の面を考えると、無理強いは出来ません。まだ時間はありますが、領都ノースポールに移動するかどうかを考えて下さい」


「日本円は使えますか?」
「カードは?」


拠点の住人から飛んできた質問に、俺たち四人は、ずっこける。
誰だよ!
ボケた質問をしたヤツは!


「日本円もクレジットカードも使えません。使えるのは現地の通貨です。冒険者ギルドに魔物の素材を売却することで、現地のお金は手に入ります。今回は、ミッツさんやリクさんが狩った魔物の素材を沢山売却したので、食料や古着が手に入りました」


マリンさんが、丁寧に回答をしたが、住民の拠点が更にざわつく。


「戦えない人は、どうすれば良いんだ!」
「あんな化け物と戦うなんて真っ平ご免だ!」


一部ではあるが、戦闘職以外から不満の声が上がる。
悲しいことにおっさんが多い。


そして、佐伯君たち学生グループが、冷たい目でおっさんたちを見ている。
殴るなよ! 絶対に殴るなよ!


俺はマリンさんと交代して、場をおさめようとした。


「俺は戦えない人にも、食料や古着をこれからも配るつもりだ。俺たちは、いきなり日本からこの世界に転移した。助け合わなきゃ生きていけない。だから、一人、一人が自分の出来ることをやってくれれば、それで良いと思っている」


場のざわめきが、少し収まってきた。
佐伯君たちのグループも、口を尖らせながらも、俺の方に意識を向け始めた。
俺は、声を張りながらも、ゆっくりと親戚の子供に話すように続けた。


「俺たちが、ここを出発する時、金属加工のスキルがある人が、リクにナイフを作ってくれた。おかげで旅の間、リクも戦闘に加わることが出来て助かったよ。生産系のスキルを持っている人は、こんな感じで戦闘職を支援することが出来る」


俺のグループの生産職が胸を張る。
そう、戦闘職だけで、この拠点の生活が回せるわけがない。
むしろ、生産職の人をレベルアップさせて、拠点の生活を充実させたいのだ。


「それに、スマホを使えるようにしたのは、技術者の人が日本で身につけた技術を使ったからだろう? 日本で身につけた技術を使ってもらっても良い。料理が出来る人なら、調理チームを手伝って、イモの皮むきでも何でもやってくれ。人数が多いから、ちょっとしたことで、助かるんだ」


何か出来ることを自分で見つけて欲しい。
そんな願いを込めて俺は話した。
俺の気持ちが伝わったのか、うなずく人の姿が見えた。


「それから……。俺たちは人間だ。辛いことがあって、疲れてしまうことがある。俺だって旅の道中は辛かったよ。木の枝の上で、体にツタを巻き付けて何日も寝たよ。正直、疲れた。休みたいと思うこともある。この中には、今の状況にショックを受けて、くたびれてしまった人もいるだろう? そんな人は、休んでくれ。それで、俺が疲れて休む時は、交代してくれ」


広場がシンと静まりかえった。
まばらに拍手が起り、やがて大きな拍手になった。
どうやら俺の気持ちは伝わったらしい。


リクが無言で俺の肩を叩き、マリンさんが笑顔で労ってくれた。

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