異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~
第42話 物騒な話~独立国
――夜!
夜になり日が落ちたせいもあって、肌寒さを感じる。
俺たちは、がんばって古着の配布を行った。
たき火のそばで、古着の入った箱を並べて順番に配っていく。
大体のサイズがあっていれば、オッケーにしてもらって、下着、ズボン、シャツ、毛布を一人一枚ずつ配っていく。
「古着で悪いけど、この世界では古着が当たり前なんだ」
「盗まれないように、着替えはアイテムボックスに収納してくれ」
俺とリクは、注意を呼びかけながら、古着セットを手渡ししていく。
受け取った人の反応は良好だ。
「着替えは、マジで助かる!」
「そのうち、ハッパを体に巻き付けることになるかと思っていた」
「文明に触れた気がするよ……」
ああ、なんとなくその気持ちがわかるな。
領都ノースポールに着いた時に、興奮と同時にホッとした記憶がある。
人工の建物、ちゃんと服を着た人、石畳の道路、馬車……。
人の手を介さないと作り得ない物に触れて、安心感を得たのだ。
今日、拠点の住人は、久しぶりにごはんを食べて、古着を手にした。
安心して眠れるだろう。
これで殺伐とした雰囲気が少しでも緩和されれば嬉しい。
全員に配り終えた頃には、夜の十時を過ぎていた。
この世界としては、かなり遅い時間だ。
俺たち日本人組四人と現地人四人組は、新しく建てた小屋をあてがわれた。
小屋には、暖炉が設えられている。
猫獣人ココさんたち現地人四人組は、暖炉に火が入るとゴロリと横になった。
ベッドは供給されていないが、そこは冒険者だ。
野営よりは遥かにマシと床に毛布をしいて横になると、スヤスヤと寝息を立て始めた。
「俺も眠い……」
「ミッツ! そりゃ、みんな同じだ。だが、今夜中にこの拠点がどうなっているか把握しておかないと明日になって困るぞ」
リクが小声で俺を叱咤する。
明日は、拠点の住人に対して正式な状況説明を行う。
その後は、勇者佐伯君を始めとする拠点の有力者と面談が詰まっているのだ。
俺たち日本人組四人は眠い目をこすりながら、ずっと拠点にいた井利口さんに状況を聞く。
「まず、拠点の勢力がどうなっているかを話そう。拠点で最大の勢力は佐伯グループだ。勇者、賢者、聖女が多数所属している。高校生中心だが、大学生や大人も加わっている」
「人数は?」
「およそ五百人」
異世界から転移したのは、通勤電車の乗客約二千五百人だ。
勇者佐伯君のグループが五百人ということは、五分の一を押さえている。
「結構な数ですね」
「ああ。あそこは佐伯君の独裁でやっているけど、何せ戦闘力があるからな。魔物を次々に倒して、魔物の肉をたっぷり供給している。それに転移した時に大怪我していた人たちを、聖女たちが魔法で救っただろう? 救われたことに感謝して、一両目の乗っていた人たちの多くが佐伯グループに加わったんだ」
なるほど。
人を引きつける理由があるわけだ。
それに魔物を倒して食料を供給してくれるのはありがたい。
転移してすぐ佐伯君と仲良くしておいて良かった。
俺は納得したが、リクは表情を険しくした。
「独裁って、どういうことだ?」
「佐伯君のトップダウンで、物事が決まる。独裁はちょっと言い過ぎかもしれないけど……。佐伯君にはカリスマがある。その影響でグループのメンバーの中には、ちょっと怖いくらい佐伯君を盲信しているヤツもいる」
「う~ん。何か危ういですね」
「佐伯グループは、戦闘力のあるメンバーが多いからな。警戒は必要だろう」
佐伯君は、髪の毛サラサラの若イケメンだったからな。
ファンも多そうだ。
「まあ、あまりヒドイことをしなけりゃ、いいんじゃない? 日本の会社だって、ワンマン社長が、右だ! 左だ! と命令するだろう? まして、こんな状況だ。多少の強引さがなければ、統制を取れないだろう」
「いや、それが……」
井利口さんが口ごもった。
そして、深くため息をつくと、嫌そうな顔で話し始めた。
「佐伯君たちは、国を作ると言っている」
「「「「は?」」」」
俺、リク、柴山さん、マリンさんの声が重なる。
国を作る?
どういうことだろう?
「国って、独立国って意味ですか?」
「そう。この拠点を中心に独立国を作って、佐伯君が王様になるそうだ」
「「「「ええ!?」」」」
それは……、どうなんだ?
国を作る。
言うのは簡単だが、実行するのは難しいだろう。
それくらいは、バカな俺でもわかる。
「柴山さん、どう思う?」
俺は柴山さんに話を振った。
柴山さんは、しばらく腕を組んで考えた後にボツボツ答え始めた。
「無理でしょうねえぇぇ……。戦闘力があれば、拠点の周囲を制圧することは出来るでしょう。しかし、戦闘するだけが国ではないですから……」
「そりゃ、そうだよな」
「何より食料や衣料品ですよねえぇぇ……。今回僕たちが調達してきましたが、国にするということは、ある程度自給自足しなくてはなりません。この森に広大な耕作地が作れますかねえぇぇ……」
「スキルがあっても、難しいだろうな」
「となると大風呂敷を広げたのは良いが、ちゃんと風呂敷を閉じられるのかって話です」
俺、リク、柴山さん、マリンさんが、深くため息をついた。
構想はデカイが、実行は至難。
なんか日本にいた時の社長を思い出すな。
言うことは立派で壮大なスケールなんだが、『現実問題、どうやるの?』みたいな。
俺たちの会話が止まった。
すると猫獣人ココさんが、ムクリと起き上がって話に加わって来た。
「あんたら、何を物騒な話をしてるのニャ!? 国を作るニャ!? 王様や貴族に、にらまれるニャ!」
「当然、そうなるよな」
この拠点がある場所は、どこの国の領地でもない。
だから、佐伯君が言うように、俺たちが独立国を作ったとしても、どこかの国の領地を奪うわけではない。
しかし、ある日突然、知らない人たちが、自分たちの領地に隣接する場所に国を作り独立を宣言する。
他国の王様や貴族たちは、穏やかな気持ちではいられないだろう。
独立を宣言……?
ん……?
「まさか……、国名は……、ジオン公国じゃないですよね?」
「マジレスすると、案としては、あるらしいぞ」
井利口さんが、頬を片方だけ歪ませて答えた。
マリンさんが、額に手をあてて言葉を絞り出す。
「そんなノリで国を作るって、なんかヤバイね」
マリンさんの言葉を、井利口さんが手を上げて止め状況説明を続けた。
「佐伯君たちが国を作るって言うのも、理由があるんだよ。ミッツさんたちが出かけている間、働く人と働かない人が出てきた。俺たちは、『まあ、仕方ないな。そのうち元気になって、協力してくれるだろう』と思っていた。けど、佐伯君たちは――」
「許せなかった?」
「そう。不公平だし、自分たち学生が働いているのに、大人がゴロゴロしてタダ飯を食うのが許せないと怒りだしたんだ」
うーん……。
佐伯君たちの言い分もわかるな。
佐伯君たちが怒るのも無理はない。
リクが井利口さんに、言葉を選びながら質問する。
「その働かない人たちは……。精神的にどうなんだ? ほら、メンタル面は? 俺の職場はプログラマーが一杯いてさ。けど、プロジェクトがキツキツで、何人も体調を崩して休職したり、退職したりしたんだ」
「鬱病か?」
「まあ、鬱病だったり、適応障害だったり……。とにかく心を病んで、ちょっとやそっとじゃ立ち直れなくなったんだ」
リクは、ほろ苦い顔をした。
同僚が心を病んで職場を去って行くのは、辛いな。
リクは続ける。
「ちなみに本人の責任じゃない。忙しいまま放置した会社の責任だ。それで……、その働かない人たちも、転移のショックで同じようなケースなら、あまり無理をさせない方が良いと思う」
井利口さんが、リクの言葉に深くうなずいた。
「リクさんの言う通りだ。俺たちも職場で同じような経験をしていたから、心の病じゃないかと思った。無理をさせれば、悪化しかねない。それで……、まあ……、佐伯君たちをなだめて大変だった」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
どうも、俺たちの留守中、拠点は大変だったようだ。
しばらく、井利口さんを労った。
猫獣人のココさんは、いつの間にか寝てしまった。
俺たちは、打ち合わせを続けて、日付が変わる頃に眠りについた。
夜になり日が落ちたせいもあって、肌寒さを感じる。
俺たちは、がんばって古着の配布を行った。
たき火のそばで、古着の入った箱を並べて順番に配っていく。
大体のサイズがあっていれば、オッケーにしてもらって、下着、ズボン、シャツ、毛布を一人一枚ずつ配っていく。
「古着で悪いけど、この世界では古着が当たり前なんだ」
「盗まれないように、着替えはアイテムボックスに収納してくれ」
俺とリクは、注意を呼びかけながら、古着セットを手渡ししていく。
受け取った人の反応は良好だ。
「着替えは、マジで助かる!」
「そのうち、ハッパを体に巻き付けることになるかと思っていた」
「文明に触れた気がするよ……」
ああ、なんとなくその気持ちがわかるな。
領都ノースポールに着いた時に、興奮と同時にホッとした記憶がある。
人工の建物、ちゃんと服を着た人、石畳の道路、馬車……。
人の手を介さないと作り得ない物に触れて、安心感を得たのだ。
今日、拠点の住人は、久しぶりにごはんを食べて、古着を手にした。
安心して眠れるだろう。
これで殺伐とした雰囲気が少しでも緩和されれば嬉しい。
全員に配り終えた頃には、夜の十時を過ぎていた。
この世界としては、かなり遅い時間だ。
俺たち日本人組四人と現地人四人組は、新しく建てた小屋をあてがわれた。
小屋には、暖炉が設えられている。
猫獣人ココさんたち現地人四人組は、暖炉に火が入るとゴロリと横になった。
ベッドは供給されていないが、そこは冒険者だ。
野営よりは遥かにマシと床に毛布をしいて横になると、スヤスヤと寝息を立て始めた。
「俺も眠い……」
「ミッツ! そりゃ、みんな同じだ。だが、今夜中にこの拠点がどうなっているか把握しておかないと明日になって困るぞ」
リクが小声で俺を叱咤する。
明日は、拠点の住人に対して正式な状況説明を行う。
その後は、勇者佐伯君を始めとする拠点の有力者と面談が詰まっているのだ。
俺たち日本人組四人は眠い目をこすりながら、ずっと拠点にいた井利口さんに状況を聞く。
「まず、拠点の勢力がどうなっているかを話そう。拠点で最大の勢力は佐伯グループだ。勇者、賢者、聖女が多数所属している。高校生中心だが、大学生や大人も加わっている」
「人数は?」
「およそ五百人」
異世界から転移したのは、通勤電車の乗客約二千五百人だ。
勇者佐伯君のグループが五百人ということは、五分の一を押さえている。
「結構な数ですね」
「ああ。あそこは佐伯君の独裁でやっているけど、何せ戦闘力があるからな。魔物を次々に倒して、魔物の肉をたっぷり供給している。それに転移した時に大怪我していた人たちを、聖女たちが魔法で救っただろう? 救われたことに感謝して、一両目の乗っていた人たちの多くが佐伯グループに加わったんだ」
なるほど。
人を引きつける理由があるわけだ。
それに魔物を倒して食料を供給してくれるのはありがたい。
転移してすぐ佐伯君と仲良くしておいて良かった。
俺は納得したが、リクは表情を険しくした。
「独裁って、どういうことだ?」
「佐伯君のトップダウンで、物事が決まる。独裁はちょっと言い過ぎかもしれないけど……。佐伯君にはカリスマがある。その影響でグループのメンバーの中には、ちょっと怖いくらい佐伯君を盲信しているヤツもいる」
「う~ん。何か危ういですね」
「佐伯グループは、戦闘力のあるメンバーが多いからな。警戒は必要だろう」
佐伯君は、髪の毛サラサラの若イケメンだったからな。
ファンも多そうだ。
「まあ、あまりヒドイことをしなけりゃ、いいんじゃない? 日本の会社だって、ワンマン社長が、右だ! 左だ! と命令するだろう? まして、こんな状況だ。多少の強引さがなければ、統制を取れないだろう」
「いや、それが……」
井利口さんが口ごもった。
そして、深くため息をつくと、嫌そうな顔で話し始めた。
「佐伯君たちは、国を作ると言っている」
「「「「は?」」」」
俺、リク、柴山さん、マリンさんの声が重なる。
国を作る?
どういうことだろう?
「国って、独立国って意味ですか?」
「そう。この拠点を中心に独立国を作って、佐伯君が王様になるそうだ」
「「「「ええ!?」」」」
それは……、どうなんだ?
国を作る。
言うのは簡単だが、実行するのは難しいだろう。
それくらいは、バカな俺でもわかる。
「柴山さん、どう思う?」
俺は柴山さんに話を振った。
柴山さんは、しばらく腕を組んで考えた後にボツボツ答え始めた。
「無理でしょうねえぇぇ……。戦闘力があれば、拠点の周囲を制圧することは出来るでしょう。しかし、戦闘するだけが国ではないですから……」
「そりゃ、そうだよな」
「何より食料や衣料品ですよねえぇぇ……。今回僕たちが調達してきましたが、国にするということは、ある程度自給自足しなくてはなりません。この森に広大な耕作地が作れますかねえぇぇ……」
「スキルがあっても、難しいだろうな」
「となると大風呂敷を広げたのは良いが、ちゃんと風呂敷を閉じられるのかって話です」
俺、リク、柴山さん、マリンさんが、深くため息をついた。
構想はデカイが、実行は至難。
なんか日本にいた時の社長を思い出すな。
言うことは立派で壮大なスケールなんだが、『現実問題、どうやるの?』みたいな。
俺たちの会話が止まった。
すると猫獣人ココさんが、ムクリと起き上がって話に加わって来た。
「あんたら、何を物騒な話をしてるのニャ!? 国を作るニャ!? 王様や貴族に、にらまれるニャ!」
「当然、そうなるよな」
この拠点がある場所は、どこの国の領地でもない。
だから、佐伯君が言うように、俺たちが独立国を作ったとしても、どこかの国の領地を奪うわけではない。
しかし、ある日突然、知らない人たちが、自分たちの領地に隣接する場所に国を作り独立を宣言する。
他国の王様や貴族たちは、穏やかな気持ちではいられないだろう。
独立を宣言……?
ん……?
「まさか……、国名は……、ジオン公国じゃないですよね?」
「マジレスすると、案としては、あるらしいぞ」
井利口さんが、頬を片方だけ歪ませて答えた。
マリンさんが、額に手をあてて言葉を絞り出す。
「そんなノリで国を作るって、なんかヤバイね」
マリンさんの言葉を、井利口さんが手を上げて止め状況説明を続けた。
「佐伯君たちが国を作るって言うのも、理由があるんだよ。ミッツさんたちが出かけている間、働く人と働かない人が出てきた。俺たちは、『まあ、仕方ないな。そのうち元気になって、協力してくれるだろう』と思っていた。けど、佐伯君たちは――」
「許せなかった?」
「そう。不公平だし、自分たち学生が働いているのに、大人がゴロゴロしてタダ飯を食うのが許せないと怒りだしたんだ」
うーん……。
佐伯君たちの言い分もわかるな。
佐伯君たちが怒るのも無理はない。
リクが井利口さんに、言葉を選びながら質問する。
「その働かない人たちは……。精神的にどうなんだ? ほら、メンタル面は? 俺の職場はプログラマーが一杯いてさ。けど、プロジェクトがキツキツで、何人も体調を崩して休職したり、退職したりしたんだ」
「鬱病か?」
「まあ、鬱病だったり、適応障害だったり……。とにかく心を病んで、ちょっとやそっとじゃ立ち直れなくなったんだ」
リクは、ほろ苦い顔をした。
同僚が心を病んで職場を去って行くのは、辛いな。
リクは続ける。
「ちなみに本人の責任じゃない。忙しいまま放置した会社の責任だ。それで……、その働かない人たちも、転移のショックで同じようなケースなら、あまり無理をさせない方が良いと思う」
井利口さんが、リクの言葉に深くうなずいた。
「リクさんの言う通りだ。俺たちも職場で同じような経験をしていたから、心の病じゃないかと思った。無理をさせれば、悪化しかねない。それで……、まあ……、佐伯君たちをなだめて大変だった」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
どうも、俺たちの留守中、拠点は大変だったようだ。
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