異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第32話 商業ギルドで荷物を受け取る

 ■ 異世界転移十九日目、拠点を出発して十七日目


 ――翌朝!


 朝一で高級宿屋を出て、猫獣人ココさんたちの冒険者パーティー『わっしょい』の四人と商業ギルドへ向かう。


 商業ギルドでは、すぐに倉庫へ案内された。


「うわ! 凄い量の荷物だ!」


 倉庫の床から天井まで、木箱が大量に並べられ積み上げられている。


「町中の商店を動員して、食料品から日用品までかき集めました。中身のチェックまでは、手が回っておりません。急ぎの依頼でしたので、どうかご容赦を……」


 商業ギルドのギルドマスターコロネさんが、ゲッソリした顔で俺に報告した。


 きっと徹夜だったのだろうなあ……。
 俺たちが依頼したこととはいえ、悪いことをしてしまった。


「ありがとうございます! 食べられる物や使えそうな物を、大急ぎで集めましたってことですね?」


「はい、そうです。箱に商店の名前が書いてありますので、もしも、変な物が入っていたら、後日ご報告下さい。それなりの対応をいたします」


「わかりました! いやあ、急な依頼なのに、こんなに沢山本当にありがとうございます!」


 ぶっちゃけ細かいことは、どうでも良い。
 拠点の状態を考えると、足りない物が多すぎて、何でも持って帰れば喜んでもらえそうなのだ。


 必要なのは量だ。


 拠点にいる二千五百人に物資が行き渡って、みんなが『大丈夫だ』と安心出来ることが重要なのだ。


 それにリクが、商業ギルドの美人女性スタッフから伝票を受け取って、色々と打ち合わせている。
 細かいことは、リクに任せれば問題ないのだ。


 それにしても、リクは抜け目がない。
 あんな美人にお近づきになるとは……。
 さすがは、ナチュラル・ボーン・イケメン!


 リクが伝票をヒラヒラさせながら、俺に聞いてきた。


「ミッツ! 伝票を受け取ったけど、どうする? 納品チェックをするか? 伝票と現物を照らし合わせるか?」


「いや、止めよう。それをやったら、日が暮れてしまう。それより、さっさと出発して、この食料や日用品を拠点で待つみんなに届けようぜ」


「そうだな……。まあ、今回は省略、商業ギルドを信頼してってことで良いか……」


 柴山さんとマリンさんもうなずく。


「僕も賛成です。今、必要とされているのは、正確さよりもスピードです。不都合があれば、後で対応するとギルドマスターのコロネさんもおっしゃっていました。早く出発しましょう」


「私も急いだ方が良いと思う。拠点を出て、もう十七日でしょう。拠点のみんなは不安だと思う」


 四人全員の合意がなった。
 俺は商業ギルドのギルドマスターコロネさんに告げた。


「では、引き渡しは完了ということで!」


「ありがとうございます。私も大役が果たしてホッとしました。こちらの書類に受領のサインをお願いします。ところで……」


 俺はギルドマスターのコロネさんが差し出した書類をざっと読んで、『ミツヒロ・ダン』と現地の言葉で署名をしながら、コロネさんと会話を続けた。


「何でしょう?」


「馬車が表にないようですが……。運搬は、どのように?」


「ああ、心配しないで下さい。自分たちで運びます」


「はあ?」


 俺はサインをした書類をコロネさんに渡すと、日本人組に呼びかけた。


「さあ! 手分けして荷物を収納しちゃおうぜ!」


「「「おう!」」」


 俺、リク、柴山さん、マリンさんが、片っ端から荷物をアイテムボックスに収納していく。
 五分と経たずに、山のような荷物はきれいさっぱり消えてなくなった。


「なっ!? マジックバッグですか!? いや、それにしてもこの量を収納しきるとは……」


 商業ギルドマスターのコロネさんと商業ギルドのスタッフが、目を丸くして言葉を失っている。


 何を驚く?
 手で運ぶとでも思ったのだろうか?


 日本ではアルバイト社員として、汗水垂らして働いていたが、さすがにこの分量の荷物を手運びするのは無理だぞ。


 俺は商業ギルド側の驚きを無視して、別れの挨拶を告げる。


「商業ギルドの皆さんには、本当にお世話になりました。また、一月後くらいに同じ分量の買い物をしに来ますので、よろしくお願いします」


「「「「「えっ!?」」」」」


 商業ギルドの人たちが、俺の一言に固まった。


 いや、拠点に仲間が二千五百人いるのだ。
 今回の物資だって、あっという間になくなってしまうだろう。
 また、買い物しに来るのは当然だ。


 そうだ!
 補足情報を付け足しておこう!


「あの、今回取り引きした倍の量でも買いますので、沢山集めておいてください! あ、保障は冒険者ギルドがしてくれると思うので! じゃあ、よろしくお願いしまーす! さよーならー!」


「「「「「……」」」」」


 なぜか、商業ギルドの人たちは無言だった。
 魂が抜けきった顔をしていたのは、なぜだろうか?


 俺のせいか?
 いや、違う。


 商業ギルドの外に出ると、護衛役の猫獣人ココさんが苦笑しながら俺を指さす。


「ミッツは、鬼ニャ! 物には限度とか、加減があるニャ!」


「いや、沢山買い物をした方が、商人は喜びますよね? 俺が何かした?」


「あー、ミッツはバカニャ!」


 なぜ、そうなるのか。


 いよいよ、猫獣人ココさんたちにも『バカ認定』されつつある。
 これは不味い。


 俺は、ちゃんと出来る所を見せようと、真っ直ぐ立ち両手を体の横にそわせて丁寧にお辞儀をした。


「ココさんたちにも、お世話になりました。護衛をしていただき感謝です。では、ここでお別れですね」


「何を言っているニャ? まだ、終ってないニャ!」


「「「「えっ?」」」」


 俺たち日本人組四人が、猫獣人ココさんの言葉に驚く。
 まさか……。


「ミッツたちの仲間の所まで、ちゃんとついて行くニャ! 護衛任務は継続ニャ!」

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