異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第30話 生活魔法、その名はクリーン

「クリーンって、何ですか?」


 俺が盾役のブラウニーさんに聞き返すと、ブラウニーさんは言葉に詰まった。
 腕を組み、考えてから答える。


「クリーンは何かと聞かれても……。きれいにする魔法としか答えようがない……。あっ! 魔法使いたちは、生活魔法と呼んでいるな! 魔法のことは魔法使いに聞いた方が良いだろう!」


 盾役のブラウニーさんは、魔法使いのティケさんを呼んだ。
 ティケさんは、美人のエルフで耳が長い。
 ちょっと残念なのは、美人ではあるが、無口で無表情なのだ。


 エルフの魔法使いティケさんが、俺にジトッとした目を向ける。


「ミッツはクリーンを知らない?」


「ええ。教えて欲しいです」


「わかった」


 ティケさんは、ボソボソと説明を始めた。
 リク、柴山さん、マリンさんも寄ってきてティケさんの話に耳を傾ける。


 この世界には生活魔法と呼ばれるジャンルの魔法があるそうだ。


 薪に火をつける『着火』。
 コップ一杯程度の水を出す『水』。
 対象をきれいにする『クリーン』。


 これらの魔法は微弱な魔力で発動可能なので、ジョブが魔法使いでなくても使える魔法だ。


 ただし、あくまでも生活に便利というレベルの魔法であって、魔物を攻撃するには威力不足で使えない。


「まあ、やって見せた方が早いニャ。ミッツの靴を貸すニャ」


 猫獣人ココさんが、手を差し出したので、俺のスニーカーを差し出した。
 すると、なぜか、猫獣人ココさんが、俺のスニーカーの匂いを嗅ぐ。


「臭いニャ!」


「ちょっと! 止めてくださいよ!」


 マリンさんも見てるんだから、マジで止めろ!


 なぜ、やるのか?
 匂いを嗅ぐのが獣人の習性なのか?


 リク、柴山さん、マリンさんが、爆笑している。
 なかなか屈辱的だったぞ。


 猫獣人ココさんは、俺のスニーカーをエルフの魔法使いティケさんに渡した。
 エルフの魔法使いティケさんは、俺のスニーカーを指でつまみ、汚物を見る目でジトッとみつめた。


「汚い……」


「そりゃ、普段から使ってますから、汚いですよ!」


「ココもヒドイ。クリーンを見せるだけなら、もう、ちょっとマシな物があるはず。汚物は消毒すべし」


「いや! 燃やすなよ! そのスニーカーは気に入ってるんだから、燃やすなよ! 絶対ダメだぞ!」


 エルフの魔法使いティケさんが、某世紀末マンガに出てくる悪党のようなことを言い始めたので、必死で止める。


 エルフの魔法使いティケさんは、イヤイヤ生活魔法を唱えた。


「クリーン……」


「「「「おお!」」」」


 土埃やら何やらで汚れていた俺のオレンジ色のスニーカーが、一発できれいになった!
 元々痛んでいた部分はあるが、美しさだけなら新品同様だ。


 俺たち日本人組四人が驚いている様子を見て、猫獣人ココさんが呆れる。


「あんたら本当に知らなかったニャ……。だから石けんを欲しがっていたニャ」


「ひょっとして生活魔法のクリーンを体にかけるのですか?」


「そうニャ! ウチら獣人は魔力がゼロだからクリーンは使えないニャ。だから、獣人は水浴びして石けんを使うけど、人族やエルフはクリーンで済ませるニャ」


「お風呂には入らないんだ……」


 もう、何度目かわからないが、俺たちは日本と異世界の習慣の違いに衝撃を受けた。
 入浴しないで生活魔法クリーンで済ましてしまうとは……。
 風呂好きの日本人としては、理解しがたい。
 アメリカ人やヨーロッパの人たちでさえ、シャワーを浴びてリラックスするのに。


 マリンさんが、何かに気が付いた。


「あれ? でも、私たちの止まっている宿屋には、お風呂がついていたよ?」


「あの宿は高級な宿で、マリンたちの部屋は一番良い部屋ニャ。だから、風呂がついているニャ。風呂に入るのは、貴族とか、お金持ちとか、水魔法が得意な魔法使いニャ。娯楽の一種、贅沢品ニャ」


 自宅にプールがある的な感じなのか。


 あれ?
 でも、旅の途中で見つけた神殿には、風呂があった。
 あの部屋は、高級な部屋だったのか?


 俺が神殿の風呂を思い出している間に、猫獣人ココさんとケモナー性癖が開花した柴山さんが仲良く話していた。


「なかなか便利そうな魔法ですね!」


「便利ニャ! 野営する時は、みんなクリーンを使うニャ! スッキリするニャ! ウチもティケにクリーンをかけてもらうニャ」


「ああ、女性は手放せない魔法ですね。僕も生活魔法を使えたら良かった……。魔力はあるのですが……」


「教会に行けば良いだけニャ。ひょっとして……、教会に行ったこともないニャ?」


 猫獣人ココさんが言っているのは、キリスト教の教会ではなく、この世界の教会だろう。
 柴山さんも、その辺はわかっているみたいで、教会に行ったことがないと答えた。


 俺もうなずく。


「ニャ!? じゃあ、パーティー編成はどうしているニャ!?」


「どうしていると質問されても……。そもそも、パーティー編成とは何でしょうか? 僕たちは四人のグループで森の中を旅してきましたが、グループ分けのことでしょうか?」


「違うニャ! パーティー編成は、パーティー編成ニャ! 教会でパーティー編成の魔法を教わるニャ!」


「そんな魔法があるのですね」


「ニャニャニャニャニャニャ!」


 柴山さんが淡々と応対するが、猫獣人ココさんは、大きなリアクションで驚いている。
 日本人組四人は、ぽかーんとして、現地人四人組は、素でひいている。


「あんたら、本当に何も知らないニャ! 呆れたニャ!」


 えっ……!
 また、このパターン!?
 パーティー編成って何なのよ!?

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