異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第25話 猫獣人のココさん登場

 ――主人公視点に戻る――


 なぜ、俺は叱られるのだろうか?


 冒険者ギルドでギルドマスターのボイルさんと商談をした日、俺はこっぴどく叱られた。


「ミッツは、考えなしで困るぜ!」


「そんなことないって! 俺なりに考えてるよ!」


「僕は疑問ですねぇ。エリクサーなんて、軽々に出す物ではないでしょう。本当は何も考えていませんでしたね?」


「いやいや! 考えていたって! きっと高い酒だろうと思ったんだよ!」


「信じらんねえ……。エリクサーっていえば、ゲームなんかじゃ高額アイテムだろ」


「ゲームに詳しくない僕でも、エリクサーくらい聞いたことありますよ。スーパー回復薬の定番ですよね」


 リクと柴山さんが、俺をネチネチと責める。
 そしてマリンさんが加わった。


「ミッツさん。本当はどうなの? 考えてなかったでしょう? 勢いでエリクサーを出したでしょう?」


「考えていませんでした」


 俺は、あっさりゲロした。


「ミッツ~!」
「ミッツさ~ん!」
「ミッツさん、ダメですよ!」


 いや、だってなあ。
 ギルドマスターのボイルさんが、あまりにも興奮するから……。
 俺も何か見せたくなったんだ。


「とにかく目立つな!」
「目立たないようにしましょう!」


 リクと柴山さんが、ゴンゴンと釘を刺してきた。


『目立たないように、普通の旅人として振る舞い情報を集める』


 当初の予定は、既に破綻している気がするが……。
 俺が何か言い返そうとすると、マリンさんの言葉が俺の口をふさいだ。


「これは、潜入捜査だと思って下さい!」


 ――潜入捜査!


 何てカッコイイ響きなんだ!


「了解した!」


 俺はドラマ24のジャック・バウアーCV小山力也風に返事をした。
 続けて、スマホを取り出し耳に当てながら演じ続ける。


「すまない……。君を巻き込んでしまった……。本当にすまない。しかし! やるしかないんだ! クロエ! これはパーマー大統領の命令だ! 今すぐ衛星を動かせ!」


「はい?」


「ミッツ! 24ごっこはナシな!」


「へーい」


 つまりダイハードごっこならOKということだ!
 やっぱジョン・マクレーンが最高ということだ!




 *




 ■ 異世界転移十八日目、拠点を出発して十六日目


 ――翌日!


 昨晩は、冒険者ギルドが手配した宿に泊まった。
 高級な宿屋らしく、広くてきれいだ。
 六人が宿泊できる6LDKの部屋があてがわれた。


 部屋でルームサービスの朝食を食べていると、人が尋ねてきた。


「冒険者ギルドノースポール支部の依頼で来たニャ! ミッツはいるかニャ?」


 部屋のドアを開けると、小柄な猫獣人さんだった。
 カワイイ系の女の子だ。


「きゃあ! カワイイ!」


 マリンさんが、両手を頬にあてて黄色い声を上げる。
 いや、マリンさんの方が、カワイイよ。


「ほあああああ!」


 そこ!
 柴山さん!
 融解しているぞ!
 落ち着け!


 どうやら柴山さんは、ハートを撃ち抜かれたらしい。
 放っておこう。


「ミッツは俺だけど?」


「ウチは、ココだニャ。C級冒険者パーティー『わっしょい』のリーダーニャ」


 ネーミングセンス!


「わっしょーい!」


「ニャー! わっしょーい!」


 俺が両手を上げて、わっしょいすると、ココさんも笑顔でわっしょいしてくれた。
 ノリが良い!


「はあ! カワイイ!」


「ハウッ!」


「……」


 ポワポワと喜んでいるマリンさんに、朝からケモナー愛でグロッキーの柴山さん。
 そして、シラッとして冷静なリクが、猫獣人のココさんに話を促した。


「それで、ご用件は?」


「護衛に来たニャ!」


「「「「えっ……」」」」


 護衛と言われても……。
 俺たちは、相当強いと思う。


 ケインたちが苦戦していたオークを一蹴出来るだけの力がある。
 女性のマリンさんですら、水魔法でオークを翻弄出来るのだ。


 俺たちの反応を見て、猫獣人のココさんが怒り出した。
 腰に手をあてて、尻尾を逆立てる。


「何ニャ!? その反応は!」


「ココさん。俺たちは強いですよ。護衛は不要だと思いますが……」


「ミッツたちが強いのは、知ってるニャ。『鋼鉄の誓い』のケインから、オークとの戦闘は聞いたニャ」


 ケインさんたちの冒険者パーティーは、『鋼鉄の誓い』というのか。
 ああ、見た目で何かわかる。


 ケインさんたちから、聞いているなら俺たちの強さがわかるだろう。


「それなら、なおさら――」


「待ち伏せに対応出来るかニャ? 寝込みを襲われたらどうするニャ? 不意打ちの備えはしてあるのかニャ?」


 俺が改めて断ろうとすると、猫獣人のココさんは厳しい口調で問い質してきた。


 俺はリクに目をやる。
 リクのスキル『気配探知』なら、不意打ちや待ち伏せに対応出来るだろうか?


 リクは首を横に振る。
 まあ、そうだよな。
 市街地で人の多いところだと、誰が悪いヤツかなんてスキルだけで判断出来ないか……。


 猫獣人のココさんは、続けて俺に問うてきた。


「毒を使われたらどうするニャ? 眠り薬で眠らされて、そこの女の子がさらわれたらどうするニャ?」


「オイオイ! この町は、そこまで治安が悪いのかよ!?」


 リクが驚いて声を上げた。
 猫獣人のココさんは、リクの言葉に目を細め三角耳を片側だけヘニョンと折って見せた。


「ミッツたちは、珍しいアイテムを山ほど持ち込んだニャ。今、冒険者ギルドで職員が査定しているけれど、いくらになるか想像もつかないニャ。一部は、オークションにかけられるそうニャ」


「オークション!?」


「そうニャ。オークションになれば、値段は天井知らずニャ。そんなアイテムを持ち込んだ四人は、金になる四人ということニャ。どこで、どうやって手に入れたのか、力尽くでも知りたい人はいるだろうニャ」


 柴山さんとマリンさんが青い顔をする。
 二人は、荒事とは縁がなさそうだからな。
 ケンカすらしたことないだろう。


「四人のうち誰かをさらって、アイテムの出所を聞き出すもヨシ、売り飛ばすのもヨシなのニャ。自分たちの置かれた状況がわかるかニャ? ミッツは、リーダーとしてメンバーの安全を考えていたかニャ?」


「えーと……。すいません。考えてなかったです」


 お手上げだ。
 そこまで危険な状況を想定していない。


 俺が素直に謝ると、猫獣人のココさんはニコッと笑った。


「ミッツは、新人冒険者だから仕方ないニャ。だから! 先輩冒険者のウチらが、護衛してやるニャ! 料金はギルドが負担しているから遠慮することないニャ!」


「「「「よろしくお願いします!」」」」


 俺たちは、猫獣人のココさんに全面降伏した。

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