異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第23話 ジョン・マクレーン。あなたは誰?

 冒険者ギルドの応接室から、ミッツたち四人が出て行った。
 ギルドマスターのボイルは、腕を組みしばらく悩んだ後に、ミッツたちの紹介者である冒険者ケインを自分の執務室に呼んだ。


「よう。ギルマス。なんか用かい?」


「やあ、ケイン! 無事に帰ってきて何よりです! 旧世界の遺跡は見つかりましたか?」


「いや、今回もダメだった」


 旧世界の遺跡――それは、遙か昔に存在していたといわれる超魔法文明の遺跡である。
 未発見の遺跡には、宝が隠されているという。


「それは残念でした。さあ、かけて」


 ボイルは執務机の前の席をケインに勧め、ケインは遠慮せず椅子に腰掛ける。


「それで?」


「ミッツさんたちは、ケインの紹介ですよね? どんな経緯か教えて欲しいのです」


「ん~経緯と言われてもなあ。森の中でオークに囲まれたて、ヤバかったところを助けられたのさ」


「そうそう! そういう話を聞きたいのですよ!」


 ボイルは、ミッツたちが持ち込んだ魔物素材の質と量に驚いていた。
 グレートホーンディアやグレートダイアウルフの魔石や毛皮は、ここ百年ほど納品されていないのだ。


 ボイルは長寿のエルフだが、それでもお目にかかるのは二度目なのだ。


 そんな超レアな素材が、山と目の前に積まれ、さらには幻といわれるエリクサーまでも売るという。


 ――ミッツたちは、一体何者なのか?


 ボイルは立場上、知っておかねばならなかった。


 だが、ミッツたちに素性を尋ねても、『旅をしている』、『外国から来た』、『魔物は旅の途中で食料代わりに狩った』と答えるだけで、ボイルが納得のいく答えが得られなかった。


 ケインは、自分たちが未発見の旧世界の遺跡を探して、イゼル村近くの森に入ったこと、森の奥深く立ち入りすぎて、十匹のオークに囲まれてしまったことを話した。


「イゼル村の近くは問題ねえが、ちょっと奥に入ると魔物の数が増える上に強くなる」


「うーん。あそこは、魔の森に隣接した開拓村ですからね。足を伸ばせば、魔素が急激に濃くなります。気をつけてくれとしか、言いようがないです。それで、オークに囲まれた後は?」


「突然、ミッツたちが森の奥から現れて助けてくれた」


 ギルドマスターボイルの長い耳がピクリと動いた。
 注意深くケインに尋ねる。


「ケイン。今、森の奥からと言いましたか?」


「そうだ」


「ベテラン冒険者のあなたが苦戦した場所から、さらに奥から?」


「そうだよ! 森の! 奥からだ!」


「あり得ないでしょう……」


「ミッツたちは、無茶苦茶強かったぞ! あいつらのレベルは? ギルドに登録した時に申請してるだろ?」


「いえ……。名前と年齢しか書いてありません」


 ギルドマスターのボイルは、ミッツたちが登録時に記入した紙をペラペラと宙に舞わせて見せた。
 冒険者ギルドでは、名前さえ申請すれば登録が可能だ。
 だが、冒険者として活動する為に、冒険者ギルドが適切な仕事を割り振る為に、ジョブ・スキル・レベルなどを申告することを推奨している。


 だが、ミッツたちは、『素材を売りたいだけで、ギルドの仕事を受けるつもりはない』と、名前と年齢以外の記載を拒否したのだ。


 ギルドマスターのボイルは、ケインにミッツたちの戦いぶりを話してもらった。


「それは相当な手練れですね……。しかし、魔法使いのマリン・ミズキが使った魔法はウォーターボールですか……。そこは普通なんですね」


「普通なもんかよ! 宙に沢山の水球が浮かぶんだぞ! 十や二十じゃない! 数え切れないほどだ!」


「えっ!? その魔法は、本当にウォーターボールなのですか?」


「知るかよ! 魔法は俺よりアンタの方が詳しいだろう? 何せ長寿で魔法が得意なエルフなんだ」


「私だって、そんなウォーターボールは見たことも聞いたこともありませんよ……。しかし、そんな凄腕が何だって知られていないのでしょうか……。普通は国を超えて噂になるものですが……。なぜ、ミッツという名前が広まっていないのか……」


 ケインが、フッと表情を変えた。
 ギルドマスターのボイルは、ケインが何かを思いだしたと感じ口を閉ざし、ケインの言葉を待った。


「そういや……、最初ミッツは、ジョン・マクレーンと名乗っていたな……」


 ミッツは、ジョークで映画ダイハードの主人公の名前を名乗ったのだが、現地人のケインにはそんな事情はわからなかった。


「マクレーン? マクレーン家なら、南に領地を持つ貴族ですね……」


 そして、現地人のギルドマスターであるボイルにも、ミッツのジョークはまったく理解されず、むしろ誤解をされてしまった。


 ケインは、両手を広げて首をかしげる。


「さあ。俺はお貴族様のことは、わからねえが……。それで、ミッツが『ジョン・マクレーン』と名乗ったら、他の三人が慌てて取り消してた。『こいつはミッツだ!』とね」


「ふーむ……。では、この書類にあるミツヒロ・ダンは偽名か?」


 いや、偽名にしては、おかしな名前だともギルドマスターのボイルは感じた。
 本当の名前は何なのだろうか?


「さて……。ただ、ミッツと呼ばれて、自然な反応をしていたがな。もしも、偽名なら、ミッツと呼ばれて反応が遅れるとか、挙動がおかしいとか、そういう反応があるものだろう?」


 ケインは、自分の感じたことを素直に口にした。
 それはボイルにとっても納得のいく話だった。


「そうだな。それでミッツは?」


「ごく自然だった」


「ふーむ……、では、ミツヒロ・ダンが本名か……? ダン家は中央貴族にいたな」


「ダーン家ってのもなかったか? 昔、会ったことがあるぞ。騎士爵だった」


「いるな。下級貴族だ。いよいよ分からなくなってきた……」


 ボイルは頭を抱える。
 このままボイルが考え込みそうだなと感じたケインは、ミッツの名前から話を変えた。


「そうそう! ミッツたちは、外国から旅してきたって言っていたが、ウソじゃないと思うぜ。この町に着いた時、四人とも大はしゃぎだった」


「そうなのか? 何か珍しい物でも見つけたのか?」


「いや、それがな。エルフやドワーフを初めて見たと言うんだ。あいつらの国は、人族だけでエルフ、ドワーフ、獣人はいないらしいぜ」


「ええ!?」


 あり得ない!
 ギルドマスターのボイルは困惑した。


 ボイルたちが住む大陸は、中央に魔の森と呼ばれる広大な森がある。
 魔の森は、魔素が強く、強力な魔物が跋扈するので、誰も近寄れない。


 その魔の森を囲むように東、南、西に三つの大国がある。
 小規模な商業都市や半独立の貴族自治領もあるが、三大国のどこかに従属している。


 そして、どの国も人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人など、多種族が混在しているのだ。


「人族だけが住む国など、この大陸のどこにもありません」


「遠くにある小さな貴族領とかじゃないか? ミッツたちの見た目は、俺たちと随分違うぜ。ありゃ、外国人だろう」


「確かにそうですね。顔立ちや服装が、全く違いますね」


「だろ? あっ! そうだ!」


 ケインは、ミッツたちが所持していた結界箱について話し出した。
 一目見て高級品とわかる高性能な結界箱であると。


「ありゃ、ひょっとして……。ミッツたちは、旧世界の遺跡でも見つけたかな?」


「あり得ることですね……」


 ギルドマスターのボイルは、ミッツたちの件は他言無用とケインに命じた。
 そして、この地域の支配貴族であるノースポール辺境伯に報告書を提出した。


「ジョン・マクレーン……。ミッツあなたは、誰なのでしょう?」


 深夜の冒険者ギルドにギルドマスターボイルのつぶやきが響いた。
 少なくとも、スキンヘッド、すぐ服を脱ぎたがるアメリカ人俳優でないことは確かであった。

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