異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第20話 町を探して探索の旅10~冒険者との交流

 リーダーのおっさんが、急に叫び始めた。


『頼んでない!』


 どういう意味だろうか?


「ミッツさん、ミッツさん」


 柴山さんが、小声で手招きする。
 四人で集まって相談だ。


「僕が思うに、『助けてくれと頼んだわけではない。だから、お金は払わない』と言いたいのではないかと」


「「「ああ~!」」」


 納得した。
 リーダーのおっさんが、急に焦りだしたので、どうしたのかと思った。


 オークを倒した助っ人代。
 赤毛のお兄ちゃんの治療代。


 俺たちが、高い金額を吹っかけてくるかもしれないと警戒したのだろう。


 俺は現地人四人に向き直った。


「安心してくれ! 謝礼は不要だ!」


「ホ、ホントか?」


「ああ、本当だ。ただ、二つ頼みがある。一つは、倒したオークだ。俺たちがもらっていいか? その……、ウチのメンバーでオークを食べるのを、楽しみにしているヤツがいて……」


「豚汁だ~♪」


 両手を上げて喜ぶマリンさんを、現地人四人が何とも言えない目で見る。
 美人が台無しだと思っているのだろう。


 しばらくして、リーダーのおっさんが、俺に答えた。


「オークはオマエたちが倒した。だから、オマエたちに権利がある。持って行ってくれ」


「おお! ありがとう!」


「もう、一つの頼みは何だ?」


 リーダーのおっさんが、再び警戒しだした。
 表情が固い。


「俺たちは旅人だ。だから、この国のことがわからない。村や町の位置とか、名前とか、色々教えてくれないか?」


「情報提供ってことか? 俺たちのわかる範囲で良いのか?」


「ああ、それで良い」


「わかった。引き受けよう。俺はケインだ。助かった! ありがとう!」


 俺とリーダーのおっさんケインは、がっちりと握手をした。
 ゴツゴツとした手が、力強く俺の手を握り返してくる。


「ミッツ。ここに長居すると不味い。血の臭いで魔物が集まって来てしまう」


「了解だ。道案内はケインたちに任せるので、ここから動こう」


 リクがテキパキとオークをアイテムボックスに収納して、俺たちは移動を始めた。
 歩きながら改めてお互い自己紹介する。


 ケインたちは、なんと冒険者で四人組の冒険者パーティーだった。
 いかにも異世界な職業に、話を聞いた俺たちのテンションが上がる。


「ケイン。どこへ向かうんだ?」


「イゼル開拓村だ」


 ケインの説明によれば、イゼル開拓村はケインたちが住む国の最北にある村らしい。
 最北といっても、気候は温暖で農業と狩りが中心の住みやすい村で、ケインたちは遠征の拠点に利用している。
 ここから、村まで一日半の距離だ。


「ケインたちは、イゼル村に住んでいるのか?」


「いや。家はノースポールの町にある。俺たちはノースポールの冒険者ギルド所属の冒険者だ」


「ノースポール?」


「ノースポール辺境伯領の領都ノースポールだ」


 辺境伯?
 俺の知らない単語が出てきた。
 多分、貴族なのだろうが……。


 俺は小声で柴山さんに尋ねる。


「辺境伯って、なに?」


「確か……、国境沿いに領地を持つ貴族ですね。伯爵と同格、もしくは上です。あくまで地球での話ですが。権力のある上級貴族と見るべきでしょう」


「ほうほう」


 さすが柴山さん!
 色々博識だ!


 場が和んできたので、ケインの話し相手を柴山さんにスイッチした。
 ケインは柴山さんに敬意を払っている。
 話し方が丁寧だ。
 仲間を魔法ヒールで助けたからだろう。


 これからの行程がわかった。


 現在地
 ↓
 イゼル村
 ↓
 領都ノースポール


 リクが先頭を歩き索敵をしながら、魔物がいれば俺が速攻で倒す。
 俺たちは順調に歩みを進めた。


「よし! 今日は、ここで野営をしよう!」


 ケインが野営に選んだのは、丘の上にある開けた場所だ。
 周囲は森だが、ここなら魔物の接近を見つけやすい。
 なるほど、野営するのに良い場所だ。


 ケインたちは、木製の小さな箱を背負っていた袋から取り出した。


「ケイン、その箱は何だ?」


「何って……、魔物除けの結界箱だ。知らないのか?」


 えっ……。
 ケインの言い方だと、この世界で結界箱は当たり前のアイテムらしい。
 旅人なら知らないのは、不自然かな……。


 ひょっとしたら新しく見つけた神殿で回収した物資の中に、結界箱があったかもしれない。
 俺はアイテムボックスの中身を見たいと念じた。


 目の前に画面が現れて、アイテムボックスに収納されている物資の一覧が表示された。
 この画面はステータス画面と同じで他人からは見えない。


 結界箱……結界箱……。
 あった!


「あ、ああ! 結界箱! これだろ?」


 俺はアイテムボックスから結界箱を取り出して、ケインに見せた。
 何とか誤魔化さないと。


「ほら、デザインが違うから、わからなかったんだよ!」


 ケインたちが設置している結界箱は、茶色い木製だ。
 俺がアイテムボックスから取り出した結界箱は、黒い漆のような塗料でしっかりと塗装され、金色の美しい装飾が施されている。


 ケインがアゴのヒゲをしごきながら、俺の結界箱を眺める。


「それ高級品じゃないか? ちょっと見せてみろ」


 ケインは結界箱を手に取り、観察したり蓋をあけたりした。


「あ、魔力が切れているぞ! ちゃんと魔力を充填しておけよ」


 ケインは、箱の中の白い石をトントンと叩いた。
 この白い石から魔力を充填するのだろう。


「おお! うっかりしていた!」


 俺はケインから結界箱を受け取ると、リク、マリンさん、柴山さんと相談した。


「これ、あの神殿の倉庫にあったヤツなんだけど、魔力を充填するらしい」


「私がやってみますよ」


 マリンさんが魔力の充填を引き受けてくれた。
 マリンさんが、白い石に可憐な指をそっと添える。


 指先から魔力を白い石に注ぎ込むと白い石が光り出した。


「このくらいじゃないかな。これ以上は、入らなそうだよ。魔力を石に入れようとすると反発を感じるの」


 マリンさんが魔力を充填した結界箱を、柴山さんが見よう見まねで操作し、箱の中の木片をずらす。


 すると透明のドームが俺たちを包んだ。


「出た! ファンタジー技術!」


「やったぁ~! 地面で寝られるよ!」


「凄いですよ! どういう原理なのか、僕も理解出来ません」


「もっと早く気が付いていれば……」


 その晩、俺たちは、ぐっすりと眠った。
 現地人と接触し、村や町の存在を知ったことで、一定の目標を達成したのだ。


 ――さあ、町へ行こう!

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