異世界トレイン ~通勤電車が未知の世界に転移した!2500人の乗客と異世界サバイバル~

武蔵野純平

第18話 町を探して探索の旅8~たき火を発見!

 ■異世界転移十三日目、拠点を出発して十一日目


 新しく発見した神殿を出発して四日が過ぎた。
 夜になり、俺たちは木の上に登る。
 寝床は太い枝の上だ。


「じゃあ、日課をやりますか!」


 朝、昼、晩と一日三回、高いところから人里がないか探すのだ。


 俺がマリンさんを、リクが柴山さんを背負って、高い木の枝にジャンプする。
 スキル『身体強化』があるので、一人背負っていても余裕だ。


 残念なのは、スキル身体強化は、筋力やスタミナを強化してくれるが、視力や聴力は強化してくれない。
 視力は日本にいた時のままだ。


 高い木の枝に登れば、夜空が近い。
 満天の星空が、俺たちを歓迎してくれる。


 地上に目をやると月明かりと星明かりに森が照らされ、うっすらと木のシルエットを浮かび上がらせる。


 マリンさんが、うっとりとつぶやく。


「夜の美しさだけは、この世界に来て良かったと思います」


 チャンスだ!
 俺は間髪入れずに甘い声でささやく。


「マリンさんの方がきれいですよ!」


「ミッツ……。メンタルの強さだけは、尊敬するわ」


 リクがツッコミを入れたことで、甘いシーンが笑いのシーンになってしまった……。


 気分を切り替えて、人の気配を探す。
 即ち、夜になったら火を探すのだ。


 一方、リクはスキル『気配探知』を発動して、生物の反応がないか探っている。


「うーん……。これは魔物だな……。探知範囲内に人らしき反応なし」


 リクの探知範囲は、直径五百メートル程度だ。
 それに障害物である木に隠れてしまうと、探知できないこともある。
 それでも、やらないよりは良いので、かならずスキルを使う。


 スキルの後は、目視だ。


「ん?」


 俺は、遠く微かに揺らめく赤い色を見つけた。
 夜空と暗い大地の間に地平線が一直線に伸びている。
 その手前に、ほんの微かに……赤い色が見える。


 俺は火と思われる方角を指さした。


「なあ……。あれは、火じゃないか?」


「えっ!?」


 リクが身を乗り出す。
 マリンさんと柴山さんも、俺が指さした方をジッと見ている。


「間違いない! 火だ! 火が揺らいでいるから、たき火だと思う! 誰かが野営しているな!」


 リクの興奮が伝わってくる。
 リクは、木の幹に手を添えているが、その手が微かに震えていた。


「僕も見えます! 火です!」
「私も見えるよ! 火だよ! 人がいるんだ!」


 柴山さんが、眼鏡を外して腕で涙を拭う。
 マリンさんは、腕をブンブン振り回し大喜びをしている。


 俺も枝の上で飛び跳ねて、マリンさんに喜びの悲鳴を上げさせた。


 さて、どうしようか?


「距離は、どれくらいだろう?」


「地球であれば、地平線までの距離は四キロから五キロです。恐らくこの世界でも大きくは違わないでしょう」


「四、五キロか! 俺とリクがダッシュすれば、すぐだ!」


「ミッツ! 待て! 夜に接近したら、驚かせちまう!」


「そうですよ。ミッツさん! リクさんの言う通りです。日が出てから近づきましょう」


 リクと柴山さんにたしなめられた。
 俺が先走りすぎたようだ。


「よし! 明日だ! 明日コンタクトするぞ!」


「「「了解!」」」




 *




 ■異世界転移十四日目、拠点を出発して十二日目


 ――翌日!


 昨晩は興奮して、よく眠れなかった。
 リク、柴山さん、マリンさんもだろう。


 俺たちは、たき火があった場所へ向けて接近していた。


「打ち合わせ漏れはないかな?」


 俺は後ろをついてくる三人に向けて聞いた。


 昨晩、現地人と接触した場合に、どんな受け答えをするかを決めておいたのだ。


 例えば……。


 ×異世界から来た! 異世界人です!
 ○旅をしている! 外国人です!


 ×仲間に勇者がいます!
 ○仲間はいるが、森の奥にいます。


 とにかく俺たちが持っている情報は限定的なのだ。
 現地人に怪しまれないように、そして俺たちにとって有益な情報が得られるようにしなくては!


 俺の心配に、リクが軽口で返す。


「大丈夫だよ! ミッツが下手なことを言わなきゃ、何も問題は起きない」


 柴山さんも続く。


「そうですね。可能であれば、質問は僕がしたいです。早めにバトンタッチをお願いします」


 マリンさんは?


「ミッツさんは、あまりしゃべらない方がいいね!」


 あ……うん……。
 はい、わかりました。


「待て!」


 リクからストップがかかった。
 俺は足を止め、右手を拳銃の形にして魔物の襲撃に備える。


「スキルに反応があった! だが、数が多い!」


「何!? 何人だ!?」


「四人が一塊になっていて、四人の周りを十人が取り囲んでいる……。いや! この反応は魔物だな! 四人が十頭の魔物に襲撃を受けている!」


「急ぐぞ! 走れ!」


 俺は走り出した。
 スキル『身体強化』を使って、一気に加速する。


 森の木々が、後ろへ後ろへと流れて行く。
 イナズマ・ステップで目の前の木をかわし、邪魔な木の根をハードラーのように飛び越える。


 着地と同時につま先に力を入れて、思い切り地面を蹴り込むと、俺の体は前傾姿勢のまま空気を切り裂く。


 最高のドライブに、体内にアドレナリンが満ちていくのがわかる。


「……! クッ……! サイコーーーーーー! バイクでぶっ飛ばしてるみてーーーーーー! ワン! ツー! スリー! フォー! ロックンロール!」


 頭の中でギターウルフの環七フィーバーが響いている。
 アクセル全開だ!


「見えた!」


 木々の切れ間から、四人の男が見えた。
 革鎧らしき防具を身につけ、剣を構えている。


 四人の男を、体の大きな魔物が取り囲んでいる。
 オークだ!


 俺は走り込んだ勢いのまま、一頭のオークに跳び蹴りをかます。
 俺の気配に気が付いたオークが、振り返った。


 間の悪い野郎だ!


 俺の跳び蹴りが、モロに顔面にヒットした。
 足の裏に柔らかいホホ肉の感触、続いて奥歯やアゴの骨が折れる感触が伝わる。


 スキル『身体強化』とレベルアップで底上げされた俺のパワーは、オークの顔面を破壊しても勢いは止まらない。
 そのまま、オークの首をねじ切った。


「ブヒッ!」


 首を飛ばされながら、オークは断末魔を上げた。
 首から噴水のように血をまき散らしながら、ゆっくりとオークの巨体が倒れる。
 他のオークが動揺した気配を感じながら、俺は好戦的な笑顔で四人の男のそばに着地した。


「よう! 待たせたな!」



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