追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第199話 俺の名を言ってみろ! グンマー?

 新年を寿ぐ宴は、無事に終了した。


 先の戦いの論功行賞も行い、俺たちはキャランフィールドに帰ってきた。


「で……、アルドギスル兄上が、なぜ一緒に来ているのですか?」


 キャランフィールドに帰ってきたら、なぜかアルドギスル兄上が一緒にいたのだ。
 今回は転移で連れてくる人数が多かった。
 どさくさ紛れについてきたのだ。


「ハッハー! 何か美味しい物が食べたいな!」


「……食べたら王都へ帰って仕事してくださいね? 俺がヒューガルデン伯爵に怒られますから……。今日は、エビフライかな?」


「やったー! エビフライ!」


 俺と兄上は、国王なのだけどね。
 国で一番偉い人のはずなのだが……。
 何か前と関係性が変わらないな。


 アルドギスル兄上は、スキップで食堂へ向かおうとした。
 すると、アルドギスル兄上の襟首をつかまえる人が……。
 ヒューガルデン伯爵だ!


「アルドギスル・へ・い・か……。こんな所で、何をしておいでですか……」


「ゲッ!? ヒューガルデン!?」


 どうやらヒューガルデン伯爵も、どさくさ紛れについてきたらしい。
 アルドギスル兄上の行動は、バレバレだな。


「さあ! アルドギスル陛下! 執務のお時間ですよ! 王都へ戻りましょう! アンジェロ陛下、お手数ですが、王都へ転移のゲートを」


「嫌だあ! エビフライー!」


 アルドギスル兄上は、ヒューガルデン伯爵によって、王都へ強制送還されてしまった。
 頼むから、仕事してください!


 後で、エビフライを転移で持って行ってあげよう。
 まったく、しょうがないな。


「では、アンジェロ様。こちらも夕食までに打ち合わせを」


「うん。じい、やろうか!」


 俺も仕事から逃げられない……。
 執務室に入り、じいと二人で外交について打ち合わせを行うことになった。


 俺は、いつもの執務机、いつもの椅子に腰掛ける。
 玉座より、こっちの方が落ち着くな。


 じいは、対面にある椅子に腰掛けた。
 俺は、まず、じいの陞爵を祝った。


「じいも伯爵だね。おめでとう!」


「ありがとうございます! 改めて御礼申し上げます。じいといたしましては、クドクドクドクド――」


 じい、こと、ルイス・コーゼン男爵は、一気に二階級を引き上げて伯爵に陞爵した。
 伯爵になっても、話が長くて、クドクド説教臭いのは変わらないが……。


 じいには、守役として長らく世話になったのもあるが、情報部の立ち上げ、潜入工作、別働隊の軍監など、功績が山ほどあった。


 それに、外向けの理由もある。
 アルドギスル兄上の懐刀ヒューガルデンは、伯爵だ。
 北メロビクス王国の代官をお願いしたのは、ギュイーズ侯爵。
 南メロビクス王国の代官は、フォーワ辺境伯。


 伯爵、侯爵、辺境伯たちと、交渉調整をするのに爵位が男爵では、爵位不足だ。
 そこで、爵位を一気に伯爵に引き上げた。


 今は、ルイス・コーゼン伯爵だ。


「じい! じいも忙しいから、打ち合わせを始めよう」


「はっ。承知いたしました」


 とにかく、じいは多忙なのだ。
 俺の守役にして、家臣筆頭。
 外交と内外の情報収集が、メインの仕事だ。


 情報部部長は、部下がみんないなくなって寂しいと、引退してしまった。
 じいは、管理する人がいなくなった情報部を再編成しなくちゃならない。


 旧フリージア王国情報部と旧メロビクス王大国調査局を、じいが舵取りをして合併すれば、強力な情報機関が構築されるだろう。


 じいは、仕事の疲れを見せず、さっと話を切り出す。


「さて、アンジェロ様。確認をしておきたいのは、ニアランド王国の扱いですじゃ」


「うん。ニアランドに残っているのは、王都だけだね」


「左様でございます」


 裏切り者の魚野郎にして、歴史的上位国を自称するニアランド王国。
 ニアランドは、王都を除き全ての領地を失った。


 旧ニアランドの領域は、アルドギスル兄上の配下貴族たちに論功行賞として与えられた。
 もう、しばらくすれば入植が進むだろう。


「ニアランド王国は王都に閉じ込めました。して、この先はいかがなさいますか?」


 ニアランド王国王都の周りは、アルドギスル兄上が防壁で囲んでしまった。
 民間人も含めて大量のニアランド人が王都に閉じ込められているのだ。


「干殺しにする」


 俺にしては珍しく酷薄な指示を出した。


 干殺し――日本の戦国時代に羽柴秀吉が播磨三木城攻めで行った苛烈な兵糧攻めが有名だ。
 食べる物がなく、脱出不可能な三木城城内は、酸鼻を極めたという。


 じいが顔色を失う。
 これからニアランド王都で起こりうることを想像して、気分が悪くなったのだろう。


「アンジェロ様……本気ですか?」


「本気だよ」


 俺は顔色一つ変えずに即答する。
 メロビクス王大国は、王族を処分したが、多くの貴族を助けた。
 また、民衆は極力害さないようにした。


 だが、ニアランド王国は別だ。


「それほどまでに、ニアランド王国をお恨みですか……」


「ああ。俺も、アルドギスル兄上も、父上も、怒っているよ」


「ご再考をいただけませぬか? いくらなんでも敵国の王都を飢えさせ、万を超える屍を築いたとあっては、風聞が悪すぎますじゃ」


 じいの訴えに、俺は淡々とした口調で返す。


「じい……。ポポ兄上は、あんな死に方をする必要はなかった」


「それは……」


「俺はポポ兄上に嫌われていたし、ポポ兄上の人格もどうかと思っていたよ。しかし、あんな風に敵の謀略にかけられて、駒にされて死ぬ必要はなかった」


「……」


 戦場で死んだのなら、父上も納得出来ただろう。
 だが、ポポ兄上は、同盟を組んでいたニアランド王国の裏切りと謀略で死んだのだ。


「ニアランドのおかげで、俺たちは兄弟で殺し合った……。到底許せないよ。ニアランドには、怒りを示すのだ。レッドボット・フリージアの怒り! アルドギスル・フリージアの怒り! そして、アンジェロ・フリージアの怒りを!」


 じいは、腕を組んで黙って聞いていたが、やがてあきらめたのか、ため息をついた。


「ふう……。かしこまりました。ニアランド王国は閉じ込めておきましょう」


「そうして。でもね、じい。じいが想像するようなヒドイ事にはならないと思うよ」


 俺の『ヒドイ事にはならない』という言葉に、じいが不審がる。


「それは……どういう意味でしょう?」


「ニアランド王国には、港があるよ」


「あっ!」


 そうなのだ。
 ニアランド王国には、大きな港がある。
 陸上交易路は、アルドギスル兄上が築いた防壁で遮断されているが、海上から食料を輸入することは可能だ。


 じいは、港のない旧フリージア王国で生まれ育ったから、海運の存在を忘れがちだ。


「恐らくニアランド王国は、港を使って食料を買い求めるよ」


「よろしいので?」


「うん、構わない。逆に俺たちも食料を売りつけよう。相場の倍でふっかけても買うと思うよ」


「なるほど……そうやってニアランド王国の財を吸い上げるのですな?」


「そうそう」


 俺とじいは、目を合わせてニヤリと悪い笑みを浮かべる。


 ニアランド王国は、港経由で食料を買うだろう。
 だが、領地が王都しかないのだから、税収はゼロだ。


 これまでは、大陸公路の北端を抑えていたので、莫大な関税収入を得ていたが、防壁で蓋をされたことで、関税収入もゼロだ。


「あいつらは、食べ物を買う為に王室財産や家財を手放すしかない。二束三文で買い叩かれて、それでも食料を買うしかない」


「そうして、ジリジリと落ちぶれさせると? アンジェロ様もお人が悪うございますな」


「ふふ……。平民は、船に乗ってどんどん他国へ流出するだろうね。けれど、俺たちの国では、ニアランド移民を受け入れない。彼らは遠方の慣れない土地で、ゼロから生活を再建する厳しい道が待っている。そして王族は――」


「民のいない、がらんどうの王都で、長い時間をかけて飢え死にですか……」


「そうだな。ヤツラが泣きわめいても、絶対に助けないよ」


「承りました」


 その他、外交に関する細々したことを確認していると、夕食の時間が近づいてきた。


「では、アンジェロ様。他の事項は、また、明日以降に」


「うん、そうしよう」


 じいが席を立ち退出しようとした。
 すると、じいが何かを思いつき振り向いた。


「ああ、アンジェロ様。先ほどのお話しで訂正する箇所がございます」


「訂正?」


 一体何だろうか?
 俺はじいとの話を思い出してみるが、心当たりがない。


「何を訂正するのだ?」


「アンジェロ様は、アンジェロ・フリージアではありません。『アンジェロ・フリージア・グンマー』でございます。お間違えのないように」


「なっ!?」


 最後に特大の爆弾を落としやがった!


 アンジェロ……フリージア……グンマーだと!?


 なぜ、俺がグンマーになる!?


「ちょっと、じい! どういうこと!?」


「どういうも、こういうもございません。アンジェロ様は、フリージア王国の王子であらせられました。ですので、アンジェロ・フリージアでした。フリージア王家の王子ですから、フリージアと家名を名乗るのです」


「そうだ! 今も、アンジェロ・フリージアだろ?」


「違います。今は、グンマー連合王国の総長であらせられます。グンマー連合王国を統べる王家、すなわち『グンマー』が家名となります」


「ちょっ!?」


 俺はあせった!
 連合王国の名前だけでなく、俺の家名もグンマーだと!?


 えっ!?
 じゃあ、俺の子供たちもグンマーなのか!?


「いやいや! おかしいでしょう!」


「おかしくは、ございません。お手元の公文書をご覧ください。アンジェロ様のお名前は、『アンジェロ・フリージア・グンマー』となっておりますじゃ」


「えー!?」


 執務机の上に置いてある書類を一つ取り上げ確認すると、確かに総長アンジェロ・フリージア・グンマーと記入が……。


 じいは、『何を言っているのだ?』と首をかしげていたが、一礼して出て行ってしまった。


 残された俺は、机の上の書類にサインを始めた。


 サインは――


『アンジェロ・フリージア・グンマー』

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