追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第180話 あなたに、死を与える者です

 王宮に入るとギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯が先頭に立った。
 二人を先頭に、俺たちは王宮の奥へと進む。


「私はギュイーズ侯爵だ! 抵抗をするな! 投降すれば、罰せられぬ!」


「フォーワ辺境伯である! 抵抗は無用! 武器を置け!」


 二人は、抵抗しようとするメロビクス王大国兵士に、大声で呼びかけている。
 侯爵と辺境伯、上級貴族二人の呼びかけに、兵士たちは大人しく武器を置いた。


 難しいのは騎士、つまり貴族たちだ。
 メロビクス王大国を背負ってきた自負もあるのだろう。
 投降してくれない者もいる。


 ギュイーズ侯爵の呼びかけに、一人の騎士が激発した。


「おのれ! 裏切り者め!」


「止せ! もう、勝負はついている! 無益な争いをするな!」


「おためごかしを! 死ねい!」


 剣を抜いてギュイーズ侯爵に迫るが、こちらは数が多い。
 騎士はあっという間に包囲され、ボコボコにされ、縄で縛られた。


 こうして軽微な抵抗はあったが、問題なく『謁見の間』にたどり着いた。


 謁見の間に踏み込む。
 同時に、俺は息をのんだ。


 なんと豪奢で美しいのか!


「こりゃすげえな……」


 隣でシメイ伯爵が、感嘆する。


 音楽ホールのように広々とした部屋で、調度品は上品……。
 部屋の隅に並ぶ椅子や机は、ロココ調に似た様式で作られていて、足がクリンとカーブを描く。


 金、銀、宝石、シルクが、室内装飾に惜しみなく使われ、天井には神々を称える天井画が描かれていた。


「むう……さすがは大国……」


 俺の後ろに控えるじいも、思わずうなり声を上げる。


 そんな美麗な謁見の間の奥が一団高くなり、ぽつんと一人で椅子に座る人物がいた。
 その人は、美しい部屋に似つかわしくない、痩せこけ、くたびれた老人だった。


「国王……キルデベルト八世……?」


 俺は、その人物がメロビクス王大国国王かどうか、確信が持てなかった。
 ギュイーズ侯爵の方をチラリと見ると、無言でうなずいた。


 俺は一歩進み出て、メロビクス王大国国王に向かって名乗りを上げた。


「キルデベルト八世陛下。フリージア王国第三王子アンジェロです」


「ハッ……!」


 国王は、ビクリと肩を震わせ怖々と俺の方を見ている。


(こんなモノか……)


 俺は激しく落胆した。


 大国メロビクス!
 大陸の雄メロビクス王大国!
 文化の中心、大陸北西部の中心メロビクス王大国!


 その強大な国のリーダーが、こんな『じいさん』だったとは……。


 もっと、強い敵であって欲しかった。
 もっと、尊大であって欲しかった。


 だが、目の前には、怯えた老人が一人いるだけだ。
 俺はどこかで敵を過大評価し、美化していたのだろう。


 大国の最後とは、案外寂しいモノなのかもしれない。


 俺は気を取り直して、メロビクス国王に向き直る。
 俺の後ろには、ルーナ先生と黒丸師匠がピタリとついて、万一に備えて警戒を欠かさない。


 フリージア王国の諸将、そしてギュイーズ侯爵をはじめとするメロビクス王大国の諸将も、じっと成り行きを見守っている。


 俺は腹に力を入れて、低い声で、子供と侮られないように堂々と宣告した。


「メロビクス王大国国王キルデベルト八世陛下。あなたには、罪を償っていただく」


 国王は、ゆっくりと顔を上げ、『わからない』といった風に首を横に倒した。


「罪だと? 一体何の事だ?」


「あなたの行いです。あなたには……死んでいただく!」


「死! 死……。死か!」


 俺が死を宣告すると、国王は呼吸を荒げ憎悪に満ちた目で俺をにらみだした。


「フリージアの小僧! 汚らわしい平民の血をひく偽物の王族が、何を言うか! 歴史ある我が国を奪い! この玉座を汚すつもりか!」


「何とでも、お好きに申されよ。お覚悟を!」


「ふざけるな! ワシに何の罪があると言うのか! 小国が大国に従うのは必然! 我らはメロビクス王大国! 世界に冠たる輝かしい文化を誇る大国ぞ! ひかえよ! 小僧!」


「状況をご理解いただけないようで残念です」


「うるさい! フリージアを呑み込まんとして何が悪い! 戦を仕掛けて何が悪い!」


「一連の戦でどれだけの将兵が命を落としたと……。少しは、哀悼の意でも口にしてみては?」


「平民の兵士がいくら死のうが、知った事ではない。そんな事で罪に問われるなど、おかしいではないか!」


 最後の最後で、醜く騒ぎ立てるか……。
 この人にとっては血筋や血統……、そういったご立派なモノが大切なのだろう。


 世界が違うと価値観が違うのはわかっているが……。
 この人にとって他人の命など、部屋に舞うチリよりどうでも良い存在なのだろう。


 何か急に、この豪奢な部屋が、白々しく感じられてきた。
 安物の映画で見た撮影セットのように、そこに実体を感じられないのは何故だろう。






 ――ああ、早く終わらせてしまおう。






「キルデベルト八世陛下。あなたは勘違いをしている」


「勘違いだと?」


「ええ。メロビクス王大国が、どこに戦争を仕掛けようと、それは貴国の自由だ。国王としての裁量、国王として判断した結果でしょう。その事に罪を問うのではありません」


「なに……?」


 国王は、意外そうな顔をした。


 そう、俺は戦争犯罪人として、国王を裁くつもりはない。
 そんな立派な死に方は……させてやるものか!


「ミオ! 前へ!」


「……」


 ハジメ・マツバヤシに仕えていた女魔法使いミオが、後ろから進み出た。


「キルデベルト八世陛下。あなたに、死を与える者です」

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