追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第177話 王都メロウリンクの混乱

 ――メロビクス王大国の王都メロウリンク。


 メロビクス王大国の王宮は、混乱していた。


 フリージア王国軍の進撃は止まらず、王都まで馬で二日の地点まで来ている。
 かろうじてかき集めた兵二千を出し、にらみ合いに持ち込む事に成功したが、形勢不利である。


『このまま何とか粘り、各地から兵を集めて……』


 王宮の軍人たちは、そんな事を考えていた。


 しかし、ホッとしたのもつかの間、メロビクス王宮に衝撃が走る。


『ギュイーズ侯爵が謀反! フリージア王国軍別働隊と共に、王都へ進撃中!』


『フォーワ辺境伯が謀反! 王都へ進撃中!』


『なっ!?』


 メロビクス王宮は、混乱した。


 三方向からの攻撃に対処するには、兵力が足らない。
 王都へ兵力を送るように各地に早馬を出したが、いつ、どれくらいの兵力が到着するかわからない。


 そこで、王都でも緊急の兵士採用を行う事になった。


 採用担当の騎士たちは、まず、従軍経験のある元兵士から、あたってみる事にした。
 つまり即戦力から採用しようという作戦だ。


 軍部で作成したリストを元に、採用担当の騎士たちは王都内を訪ね歩いた。


 騎士ジャンも、そんな採用担当者の一人である。


 騎士ジャンは、下町に建つ一軒の家を訪問した。
 ここには、つい最近まで軍にいた兵士が住んでいるという。


「喜べ! 軍は君を必要としている!」


 騎士ジャンが、元兵士の青年に声をかけると、青年はすげなく答えた。


「俺は必要ないね……。軍には行かないよ」


 眉根を寄せ、不機嫌になる騎士ジャン。
 だが、グッと堪えて青年を説得しようと試みる。


「なあ、今は国の危機だ! フリージア王国が王都へ攻め込んでくるのだ! 共に戦おう!」


「嫌だね」


 青年の態度に騎士ジャンもさすがに我慢が出来なくなった。
 青年をにらみつけ、強い言葉を投げかける。


「おい! 国を守るのは、男の義務だ!」


 すると青年は騎士ジャンをにらみ返した。
 そして、語気荒く反論する。


「俺はもう義務を果たした! フリージア王国の王都まで行って、ボロ負けして来たんだ! 帰る時は、下半身丸出しだったぞ! あんな思いは二度とゴメンだ!」


「あの……」


「チクショウ! みんなで笑いものにしやがって! ウウウ……」


 泣き崩れる青年を見て、騎士ジャンは物凄く悪い事をしてしまった気がした。


「なんか……スマン……」


 騎士ジャンは、撤退した。


 次は、下町の小さな商店に訪問した。
 この商店の三男坊が、つい最近まで軍にいたのだ。


 騎士ジャンは、三男坊に優しく声をかけた。


「どうだ? 軍に戻らないか?」


 だが、三男坊は、苦笑いだ。


「いや、騎士様……。あの……、私はフリージア王国王都から、脱出作戦に参加しました」


「それは大変だったな……」


「ええ。大変でした。敵の魔法使いが、化け物みたいなヤツで、こう……石壁を作られて……。宰相ミトラル様もお亡くなりになりましたしね……」


「う、うむ……大変な戦いだったと聞いている」


 騎士ジャンは、王宮勤めの騎士なので、戦いに参加した事がない。
 実戦経験者を前に、ちょっと居心地の悪い思いをしていた。


「騎士様。幸い私は無事に帰れました。この拾った命を大切にして、これからの人生は家業を手伝って参ります」


「そ……そうか……」


 三男坊は、非常に晴れやかな顔で答えた。
 騎士ジャンは、スカウトをあきらめた。


 その日の午後。
 採用担当の騎士たちは、集まって情報交換をした。


「ダメだ……。みんな軍に戻ってくれない」
「うむ。こちらも断られてしまった」
「まったく同じだ。軍に戻るくらいなら、国を出るとまで言われてしまった」
「一体どうすれば……」


 騎士たちは、採用活動があまりにも不調なので、頭を抱えてしまった。
 しかし、フリージア王国軍は、すぐそこまで来ている。


 謀反を起こしたギュイーズ侯爵とフォーワ辺境伯も、やがて王都に攻め上がってくる。
 兵力が必要なのだ。


 やがて一人の騎士がアイデアを出した。


「広場で民衆に呼びかけてみては、どうだろうか?」


「なるほど!」
「うむ! 国の危機を訴えれば、立ち上がる者もいよう!」
「そうだ! 広く呼びかけてみよう!」
「演説なら任せておけ! 私がやろう!」


 騎士たちは、早速、王都の広場で演説を始めた。


「――というわけで、現在我が国は危機に瀕している! 立て! 我がメロビクスの人々よ! 今こそ、祖国を救うのだ! 共に戦おう!」


 騎士の熱い演説が終わったが、民衆の反応が悪い。


 ザワザワと小声で話しているだけで、『俺も戦うぞ!』といった、騎士たちが期待していた声は上がらない。


 やがて、一人の中年男性が手を上げた。


「騎士様。一つ質問をよろしいでしょうか?」


「うむ! 何なりと聞くが良い!」


「その……敵国のフリージア王国ですが……。何度も和平を申し込んで来ていたそうじゃないですか! どうして和平を結んでおかなかったのですか!」


「うっ……それは……」


 騎士は答えに詰まった。


 てっきり『給料はいくらか?』とか、『装備は支給されるのか?』とか、待遇面の質問をされると思っていたのだ。


 予想外の質問……というより非難の声に、上手い返しが出来なかった。


 なにより、フリージア王国が、何度も使節を派遣してきたのは事実なのだ。


 質問した男の近くにいた、別の男が声をあげた。


「そりゃ本当かい? だったら、今、苦境にあるのは、王宮が悪いんじゃないのか?」


 また、別の男が声をあげた。


「その話は、本当だぞ! 俺は宿屋で働いているが、フリージアの使用人たちが何度も泊まっていたぞ!」


 こうなると民衆たちは、止まらない。
 口々に王宮を非難し始めた。


「何だよ! 悪いのは、王宮じゃねえか!」
「そうだ! そうだ! 今になって、戦え! とか言うなよ!」
「おい! 重い税を払っているんだぞ!」
「偉そうにしやがって! ふざけるな!」


 騎士たちが民衆をなだめようとするが、エキサイトした一人が騎士に殴りかかった。
 殴りかかられた騎士は、やむなく男を蹴り飛ばし、地面に抑え付けた。


「「「「「「やっちまえ!」」」」」」


 民衆は騎士たちに襲いかかり、暴動が発生した。


 王宮が騒ぎを聞きつけ、騎士の増援を送り込んで鎮圧したが、民衆と王宮の間にヒビが入ったのは間違いない。


 広場の隅で、一人の男がニヤリと笑った。
 隠居した商人に変装した『じい』ことコーゼン男爵である。


 コーゼン男爵の元に、先ほど騎士に質問した男や騒ぎ立てた男たちが集まってきた。
 彼らは、フリージア王国情報部の現地工作員――エルキュール族である。


 そして、『広場で演説をしよう』とアイデアを出した騎士まで、コーゼン男爵の元にやって来た。


「ご苦労じゃったのう。これは、当座の礼じゃ」


 コーゼン男爵は、騎士に金貨を握らせた。


「ありがたく……。それで……仕官の件は?」


「安心せい! 戦が終われば、お主を採用しよう。死なないように、上手く立ち回るのじゃぞ」


「はっ!」


 騎士は、人目を気にしながら王宮へ戻っていった。
 立ち去る騎士を見送るとコーゼン男爵は立ち上がり、王都メロウリンクの雑踏に消えた。

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