追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第165話 グンマー・テイマーになったルーナ

「アンジェロ少年! いるであるか?」


「黒丸師匠ー! ここでーす!」


 俺は王都の西にある魔の森で、メロビクス王大国軍を罠にはめる作業をしていた。
 すると、黒丸師匠が、俺を探しに空を飛んで来た。


 暗くなってきたし、そろそろ晩ご飯かな?


「ルーナからである! メロビクス王大国軍が動き出したのである!」


「脱出ですか!」


 敵に動きがあると、ルーナ先生から報告が入った。


 王宮に閉じ込めたメロビクス王大国軍もバカじゃない。
 食料がなく、友軍が来援しないとなれば、当然脱出をする。


 脱出作戦は行われると予想していたが、思ったより早かった。
 俺たちは、二、三日後と予想していたが、どうやら敵軍の主将は決断が早いようだ。


「アンジェロ少年。打ち合わせ通りであるか?」


「はい。王都からあえて脱出させます」


 王宮や市街地の被害を軽減する為に、王都からメロビクス王大国軍をあえて脱出させることにした。


 そして、ここ魔の森で仕留める……。


 メロビクス王大国軍が通った魔の森の間道は、既にわかっている。
 情報部のエーベルバッハ男爵から、情報提供があったのだ。


 入り口は、木が密集して分かりづらいが、人が通れる道があった。


「眠気は大丈夫であるか?」


「なんとか! これが終わったらゆっくり寝ますよ」


 今日は、午前中に軽く仮眠をとって、午後から魔の森で準備をしていた。


 準備していたのは、またも壁だ。
 土魔法で魔の森の間道近くに、四メートルほどの壁を作っておいた。


 メロビクス王大国側の魔の森出口は、既に我が軍が抑えてある。
 間道を逃げても、魔の森を逃げても、敵兵は我が軍の前に誘導されるのだ。


 そこで武装解除するか……。
 それとも、殲滅するか……。


 メロビクス王大国軍の出方次第だ。


 黒丸師匠が、ニヤリと笑う。


「アンジェロ少年は、こういう悪い事の準備には抜かりないのである」


 俺もニヤリと笑って、言葉を返す。


「黒丸師匠に言われたくないです」


 本当に、ルーナ先生と黒丸師匠は、こういうイタズラが大好きだ。
 今日も一日中、二人で交代しながら降伏勧告を行っていた。


「心理作戦は、下ごしらえがキモなのである」


「心理作戦という名の『イタズラ』や『嫌がらせ』ですけどね」


 俺は肩をすくめ、おどけてみせた。


「「「グアアアア!」」」


 俺のすぐ横で、大木につながれた三匹のグンマークロコダイルが鳴き声をあげた。
 この三匹は、シメイ伯爵領でルーナ先生が捕まえてきたのだ。


 このクソ忙しいときに、ワザワザ転移させられた。


「グンマークロコダイルたちも、やる気である!」


「これ……本当に大丈夫ですか? 昨日のヤツより大きいですよ……」


 そうなのだ。
 昨日、ルーナ先生が振り回していたグンマークロコダイルは、二メートル級だった。


 ところが、今日ルーナ先生が捕まえてきた三匹は、いずれも四メートル級。
 グンマークロコダイルじゃなくて、もう、亜竜と呼んでも良い迫力だ。


「ルーナ先生は、テイム出来るようになったと言っていましたが……。これ、テイム出来るモノでしょうか?」


「「「グアアアア!」」」


 グンマークロコダイルが、三匹揃って俺に吠える。
 俺が魔法を発動すれば、一発で倒せるけれど、それでもちょっと怖い。


「ルーナは、グンマー・テイマーになったのである!」


「……変な二つ名をつけるのは止めましょう」


 俺たちは、メロビクス王大国軍の脱出に備える為、王宮近くへ戻った。




 *




 一方、王宮に閉じ込められたメロビクス王大国軍は、脱出の準備が整っていた。
 彼らも、上空から監視されていることは、既に気が付いていた。


 そこで、策を立て、王宮を囲む壁の東西南北四カ所に、等しく兵士を配置していた。


 副官が宰相ミトラルに作戦開始を告げる。


「宰相閣下! それでは、脱出作戦を開始いたします!」


「うむ、始めよ」


 副官の合図で、伝令が四方へ散った。


 王宮を囲う石壁の内側、東西南北の四カ所でほぼ同時に鎚やノミで、石壁を削る音が聞こえ始めた。


 兵士たちは交代しながら目の前の石壁を削る。


「人一人が這い出る隙間があれば良い!」
「手が痺れるから、無理をするな!」
「交代する人員はいるのだ!」


 指揮官たちは兵を鼓舞する。


『魔法がダメなら物理で、どうだ?』


 メロビクス王大国軍の努力は結ばれるかにみえた。
 だが……。


「ああ! チクショウ! 穴を魔法でふさぎやがった!」


 上空で監視をしている異世界飛行機グースが、メロビクス王大国軍の位置をエルフたちに教えていた。


 エルフたちは、魔道具士であるが、初級の土魔法が使える者もいる。
 グースから教えられた場所で石壁に耳をつければ、石を削る音がする。


 エルフたちが、音のする方向へ向けて土魔法を発動した為、開けられた穴はすぐにふさがれたのだ。


「あきらめるな!」
「時間は、まだある!」
「我慢比べだ! 一晩中、掘ってやれ!」


 メロビクス王大国軍は、兵をこまめに交代し、士官が兵を励ます。
 そして、穴を掘り出すと、魔法で穴がふさがれる。


 その様子は、メロビクス王大国軍の伝令がすぐに副官に伝えた。


 この一見すると無駄にみえる穴掘り作業は、メロビクス王大国軍の欺瞞工作、囮である。


 伝令からの報せを聞いて、副官はニヤリと笑った。


「宰相閣下。敵は、穴掘りに注意を向けています」


「計画通りだな!」


「はい……。それでは、一気に行きます!」


「ヨシッ! やれ!」


 建物に隠れていた百人の魔法使いが、一斉に駆け出す。


 目標は西門近くの石壁。
 穴を開ければ、魔の森まで逃げやすい場所が狙いだ。


 兵士たちが、穴を掘る場所から、少し離れた場所で魔法使いたちが、三人並んで次々に魔法を発動する。


「砂化!」
「砂化!」
「砂化!」


 魔法使いが土魔法『砂化』を発動すると、石壁内に埋め込まれた魔石が反応して淡い光が漏れる。


 魔法使いは、自分の魔力が切れるまで連続して『砂化』を発動し、次々にレジストされる。


「もう、魔力がない!」
「交代だ!」
「頼む!」


 前列が終わると、次の魔法使いが石壁に手をつき『砂化』の魔法を発動する。


 こうして魔法使いが交代し連続して魔法を石壁に撃ち込むことで、石壁に埋め込まれた魔石があっという間に減ってしまった。


 そしてついに――。


「空いたぞ!」
「脱出だ!」
「急げ!」


 人が三人並んで出られる程度の、横幅三メートル、高さ三メートル程度の穴が石壁に出現した。
 石壁のごく一部を砂化することに成功したのだ。


 開けられた穴に、メロビクス王大国軍精鋭部隊が突撃した。
 防壁外部に出た精鋭部隊は、壁際で魔法を発動するフリージア王国軍のエルフたちを発見した。


「蹴散らせ!」
「エルフだ! 魔法が来るぞ!」
「ミスリルの盾を前に出せ!」


 フリージア王国軍のエルフたちは、ファイヤーボールなどの属性魔法で応戦したが、ミスリルの盾に弾かれてしまう。


「おお! 相手は数が多いな! 接近戦はこちらに不利……。ここは撤退だ!」


 フリージア王国軍エルフ部隊のラッキー・ギャンブルは、即座に撤退を指示した。


『敵が石壁を破ったら撤退』


 アンジェロが事前に指示した通りだった。


 空からブラックホークが舞い降り、次々とエルフを収容して空に舞い上がる。


「クソッ! エルフに逃げられた!」
「逃げた敵に! 構うな! 脱出口を確保せよ!」


 精鋭部隊は脱出口を守り、壁の内部から次々にメロビクス王大国軍兵士が逃げ出してきた。


「お先に!」
「ご武運を!」
「おう! おまえらもな!」


 挨拶を交し、王都の市街地へと消えるメロビクス兵たち。
 目指すは母国メロビクス。
 そこへ通じる魔の森にある間道である。


 結局、メロビクス王大国軍は、西側の石壁に五カ所の脱出口を作る事に成功した。
 東西南北に分かれていた兵士は、西側に集合し五カ所の脱出口から外に出た。


 王都の市街地を駆け抜け、魔の森に向かう。


「やった!」
「魔の森だ!」
「あの道を進めば、故郷に帰れるぞ!」


 兵士たちは、口々に喜び叫んだ。


 ――魔の森の中に、ルーナ・ブラケットたちが待ち構えているとも知らずに。

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