追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第161話 実食! マール子爵

 俺たちは、夜の王宮を空から観察した。
 王宮をぐるりと囲む防壁には各所に門があり、敵兵が警備に立っている。


 しかし、王宮の中は警備が緩い。
 巡回もしていないし、見張りも少ない。
 奇襲攻撃で敵兵も疲れているのだろう。


 俺たちは事前の打ち合わせ通り、母上の宮――橙木宮に忍び込むことにした。
 橙木宮は、俺とルーナ先生も生活していたので、暗くても何がどこにあるのか分かる。


 橙木宮近くの建物の陰に降り立つ。
 三人でそっとのぞき込むと、橙木宮の入り口で見張りの兵士がウツラウツラしていた。


 俺とルーナ先生が、ヒソヒソ声で会話を交す。


『居眠りしていますよ……』


『よし! そっと忍び込む!』


 その時だ――。


「ヘックション!」


 黒丸師匠が派手にクシャミをした。


『黒丸ー!』


『黒丸師匠ー!』


『す、すまないのである!』


 クシャミはダメでしょう!
 クシャミは!
 タイミング悪すぎだろう!


 見張りの兵士が目を覚まし、キョロキョロと辺りを警戒しだした。
 俺たちは、息を殺して兵士の様子をうかがう。


 これなら橙木宮の中に転移した方が良かったか?
 いや、そこで兵士と鉢合わせしたら、大騒ぎになる。
 確実に忍び込もう。


 見張りの兵士が、橙木宮の入り口から離れた。
 どうやら用を足したいらしい。


 俺たちは、そっと橙木宮に忍び込んだ。


 橙木宮に忍び込むと、あちこちからいびきが聞こえてきた。
 敵兵のみなさんは熟睡中だ。


 俺たちは、廊下の安全を確認しつつ、手で合図を送り合いながら、橙木宮の奥へと進む。


 目指すのは、母上の寝室だ。
 あそこは、この橙木宮の中で一番立派な寝台がある。
 そこそこ偉い敵の士官が、ふんぞり返って寝ているだろう。


『いた……』


 母上の寝室に入ると、寝台の上でいびきをかくおっさんがいた。
 寝台の側の椅子に、着ていた服が掛けてある。


 おっさんの服は、貴族服で仕立ても良い。
 それなりの地位にある人だろう。
 つまり、このおっさんは、情報を持っている。


『ゴー!』


『『オーケー!』』


 ルーナ先生が、慣れた手つきでおっさんをふん縛り、黒丸師匠が、身動きのとれないおっさんを担ぎ上げる。
 俺が転移魔法で開いたゲートにおっさんを放り込み――撤収!




 *




「き! 貴様ら! このマール子爵に対して無礼であろう!」


「マール子爵ではなく、丸出し子爵なのである」


 黒丸師匠の冷静な指摘に、丸出し子爵は顔を真っ赤にする。


 黒丸師匠のリクエストで、俺はゲートをシメイ伯爵領につないだ。
 ここはシメイ伯爵領にある魔の森の中だ。


 橙木宮から拉致したマール子爵は、下半身をスッポンポンにされてM字開脚状態で木に縛り付けられている。
 当然ながら、局部は丸出し……。


 いやあ……尋問の為とは言え、見たくないなあ……。


「ふざけおって! このような恥辱! 貴様ら覚えておれよ!」


「威勢が良くて結構な事である。ルーナ!」


「おう! 黒丸!」


 ルーナ先生が、両手でワニ型の魔物を抱えて進みでる。
 どうみても肉食です。


 黒丸師匠が得意げに説明を始める。


「ルーナが抱えているのは、グンマークロコダイルという魔物である。肉食で凶暴である」


「……」


 マール子爵の顔が青ざめる。
 黒丸師匠は、顎に手を当てて淡々とした口調で続ける。


「さて、それがしの質問に答えて欲しいのである。素直に答えてくれれば、何もしないのである。しかし、答えないと――」


「グンマー!」


 ルーナ先生が嬉しそうに、グンマークロコダイルをマール子爵に掲げてみせた。
 グンマークロコダイルの爬虫類アイが、月明かりに照らされ不気味に光る。


 俺なら悲鳴を上げて卒倒するよ。
 マール子爵は顔を青くしながらも意識を保っている。
 なかなかの胆力だと思う。


「解説すると、このルーナは回復魔法の名手であるな。ゆえに、グンマークロコダイルが、お主のポコチンをがぶりとやっても、回復魔法で回復してもらえるのである」


「グンマー!」


「……」


 マール子爵の汗が凄い。


 そう、この世界には回復魔法がある。


 極論だけれど、体が上下に切り裂かれても、ルーナ先生クラスの回復術士が、すぐ全力で治療すれば、元の体に戻るのだ。


 普通の回復術士でも、指一本を失っても回復できてしまう。


 つまりは、尋問――いや、拷問か。
 この世界の拷問は、前にいた世界よりも苛烈で、遠慮なく体を切り刻み、魔法で回復させ何度でも痛みと恐怖を与えられるのだ。


 それに前世のハーグ陸戦協定のような条約はない。
 捕虜に対する扱いは、慣習として無用に傷つけはしないが、必要とあれば拷問もあり得るのだ。


 結論としては、敵に捕まらない。
 捕まったら、早いとこゲロッた方が精神的なダメージは少ないから、決断はお早めに……。


「質問である。貴殿はマール子爵であるな?」


「そうだ……」


「マール子爵は、メロビクス王大国軍の所属であるな?」


「そうだ……」


 黒丸師匠は、答えやすい質問、回答のハードルが低い質問から始めた。
 マール子爵は、チラチラとルーナ先生が抱くグンマークロコダイルを見ながら、黒丸師匠の質問に答えた。


 敵の指揮官は、宰相ミトラル。
 王都の中央軍が中心で精鋭だそうだ。
 数は、一万五千。


 こりゃ正面から戦わない方が良いな……。


「メロビクス王大国軍の食料は、どこに保管しているのであるか?」


「……」


 マール子爵は答えない。


「フリージア人の捕虜は、どこにいるのであるか?」


「……」


 この質問にも、マール子爵は答えない。
 敵軍の備蓄食料の奪取とフリージア人捕虜の救出をしたかったのだが……。
 教えてくれないのか。


「答えてくれないのであるか……。残念であるなあ~。ルーナ!」


「グンマー!」


 ルーナ先生が、グンマークロコダイルをマール子爵の股間に近づける。
 マール子爵の縮み上がった逸物に、グンマークロコダイルが鼻面をくっつけて口を開く。


 パクリと行く瞬間に、ルーナ先生はグンマークロコダイルを引っ込める。


「答えるのである! 食料はどこであるか! 捕虜はどこであるか!」


「……」


「答えるのである!」


「……」


 マール子爵は、口を真一文字に結んで回答を拒否した。
 立派な態度だ。
 だが、賢い態度とは言えない。


「貴殿は立派である。貴族とは、こうありたいのである。忠誠の何たるかをマール子爵は示したのである。それがしは貴殿の態度に敬意を表して、とびきりの苦痛を与えるのである。ルーーーーーナ!」


「グンマーーーーーーーーー!」


「おのれら! そんな虚仮威しが、通用すると思うなよ!」


 マール子爵、ガッツあるなあ……。
 でも、俺は分かる。
 この二人は、やると言ったら躊躇なくやるのだ。


 ルーナ先生が、グンマークロコダイルをズイッと前に出した。


「では……いざ! 実食!」


「やめろー! やめてくれー! ぐああああああああ!」


 目を覆いたくなる光景だ……。
 おっさん……。


 マール子爵が、丸出し子爵になり、ついに夫人になってしまった……。


 合掌!


 拷問は続く。


「ヒール。実食!」


「ああああああああああ!」


「ヒール。実食!」


「ぬがああああああああ!」


 ルーナ先生は、淡々とマール子爵を回復しては、グンマークロコダイルをけしかけている。


 俺はこの女性と結婚生活を無事におくれるのだろうか?
 俺は、成人後の『生活』と『性活』に不安を覚えるのであった。


 何度目かの『実食』の後、マール子爵は食料の保管場所と捕虜の監禁場所を俺たちに告げた。


「捕虜の救出からやりましょう」


「そうであるな」
「了解」


 夜は長い。
 フリージア王国人捕虜を救出する時間はあるのだ!


 マール子爵は……うん、あまりにも可愛そうだから、彼は殺さないであげよう。
 根性あるから、ウチで働いてもらおうかな……。
 働いてくれるか?

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