追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第134話 ギュイーズ侯爵からの婚姻祝い

 ――九月中旬。


 キャランフィールドの執務室で仕事をしていると、ウォーカー船長がやって来た。


「おーい! 王子様! 船が入れないぞ! 港を広げてくれよ!」


「船が入れない?」


 おかしいな?
 今日は商船二隻しかいないはずだけれど?


 港に移動すると沖合に船団が停泊していた。


「なっ!?」


 俺が言葉を失うと、港で仕事をしていたジョバンニが側に来た。


「ジョバンニ! あの船団は!?」


「ウォーカー船長が引き連れてきた商船です! 十隻もいます!」


「ええ!?」


 今までキャランフィールドに訪れた商船は、一隻単位、単独行動をしている商船だ。


 今、沖合に停泊しているのは十隻の船。
 こんな大船団は見たこともない。
 大迫力だ!


 問題は波止場だ。
 キャランフィールドの波止場には五隻までしか係留できない。


 港は大騒ぎになっている。
 キャランフィールドの住人、外国商人も大興奮だ!


「ウォーカー船長! あの船団は?」


「ギュイーズ侯爵からだ。食料やら婚姻の祝いの品やらタンマリ載せているぜ! まさに! 宝船ってヤツさ! ムフッ!」


 ウォーカー船長は、そう言うと胸を反らした。


 ムフじゃないでしょう!
 それなら一隻だけ先行して事前連絡してくれ……。
 頼むよ……。


「というわけで、王子様! 港の拡張を頼むよ! この前みたいに魔法でパパッとさ!」


「アンジェロ様。それでしたら、このようにしてみてはいかがでしょう?」


「アリーさん!」


 騒ぎを聞きつけたのか、アリーさんもやって来た。
 ウォーカー船長が、姿勢を正してアリーさんに挨拶をする。


「アリー様。ご機嫌麗しゅう」


「ウォーカー船長。ご苦労様ですね。いつもありがとう」


「もったいないお言葉です」


 なんだかなあ。
 ウォーカー船長は、俺とアリーさんで態度が違いすぎるだろう。
 まあ、良いけど。


 俺はアリーさんが差し出した羊皮紙を広げると、横からウォーカー船長とジョバンニがのぞき込んできた。


「これは……港の設計図ですか?」


「はい。寄港する商船が増えておりますわ。それに伴って、港の倉庫、商人や船員の宿泊施設、港湾作業員の作業場などが不足していますわ」


「なるほど……。この図面左側のエリアですね? これ、右側は――」


「軍港施設ですわ」


「……」


「アンジェロ様なら、いずれ海軍をお持ちになりましょう? それも独自の船を開発なさるでしょう?」


 凄いな。
 そこまで読んで設計したのか!


 横からのぞき込んでいたウォーカー船長とジョバンニも賞賛する。


「さすがはアリー様! 完璧です!」


「使いやすいそうな港ですね。この商業会館がありがたいです。港の商談場所に出来ます」


「ありがとうございます。喜んで頂けて嬉しいですわ! では、アンジェロ様。魔法で工事をお願いいたします」


「わかりましたー」


 アリーさんにガッツリ尻に敷かれる未来しか見えません。
 まあ、女房の尻に敷かれてみせるのも、男の甲斐性だよね!




 *




 俺は土魔法と豊富な魔力に物を言わせて、港の整備を行う。


 半日かけて、とりあえず商業用の波止場と倉庫を増設した。
 商船二十隻が寄港できる立派な港だ。


 アリーさんの設計では、まだまだ増設工事があるし、軍事用の設備もある。
 これは明日以降に持ち越そう。


 ウォーカー船長が、ゴブリンの肉を口の中に突っ込まれたような顔をして、俺に聞いてきた。


「なあ。王子様の魔力に限界はあるのか? 何でこんな大規模工事を半日で済ませられるんだ?」


「限界はあると思いますよ。どれくらいが限界かは、わかりません。浚渫もしてあるので、沖の船を入港させてください」


「浚渫も終わらせたのか……。相変わらず非常識な魔力だぜ!」


 港を造っても深さがないと、大型の船は入港できない。
 そこで浚渫という作業を行う。
 日本でなら大型のクレーンを使って、港の底にある土砂をすくい取るのだ。


 俺の場合は土魔法を使って、底にある土砂を移動させ波止場を造成する材料にする。
 魔力と混ぜ合わせれば、コンクリートっぽい石が出来上がるのだ。


 ウォーカー船長が、『愛しのマリールー号』の船員に指示をすると、マストの上で船員が旗信号を送った。
 やがて、沖合いにいた商船十隻が入港し、次々と荷物が商船から荷揚げされた。


 ウォーカー船長が積み荷の説明を始める。


「えー、まず穀物だな。小麦、大麦、ライ麦を商船七隻分」


「商船七隻ですか!」


 ジョバンニが、裏返った声で驚く。
 ウォーカー船長は、得意げに話を続ける。


「ああ、ギュイーズ侯爵家の余剰穀物と市場に余っていた穀物を買い叩いて船に積んできた。ほれ、もうすぐ収穫シーズンだろう? 安くしてもらったぜ!」


「うーん。船だと取引ボリュームが大きいから、交渉もしやすそうですね」


「まあ、今回は大商いだからな。安く買い叩いたが、売る商人も在庫がはけて喜んでいたよ」


 穀物は助かるな。
 食い扶持が増えたけれど、商船七隻分……。
 山ほどパンが焼ける。


「次は家畜だ。乳牛、鶏、馬を商船一隻分。家畜のエサになる干し草や雑穀に商船一隻分」


「おっ! 乳牛と鶏! 牛乳と卵!」


「王子の所は色々食い物が美味いからな。以前、牛乳と卵の仕入れが面倒だって言っていただろう?」


「ウォーカー船長ありがとう!」


 フリージア王国は、魔の森が多く魔物が出やすい地域だ。
 家畜は魔物に襲われてしまうので、フリージア王国で家畜の飼育はあまり行われていない。


 これまで卵は、王都や違う国に行った時にまとめ買いして、アイテムボックスに入れておいたが、正直面倒だった。


 ウォーカー船長が乳牛と鶏を運んでくれたので、これから牛乳と卵が安定供給される。
 これでお菓子作りに着手出来るぞ!


 商船から次々に家畜が降ろされていく。
 鶏、乳牛、そして馬が続いた。


 一頭の美しい白馬を見てアリーさんが声をあげた。


「あら? あの馬は?」


「アリー様がギュイーズ侯爵家で乗っていた馬です。ギュイーズ侯爵様が、アリー様がお使いになるようにと」


「まあ! おじいさまが!」


 アリーさんは白馬に駆け寄り、首筋を撫でる。
 白馬はアリーさんになついているのか、鼻面をアリーさんにこすりつけ甘えているようだ。


「美しい馬ですね」


「あれはアンダルシアンって種類の馬さ。利口で乗り手の言うことをよく聞く」


「へえ」


「王子様にもあるぞ! ギュイーズ侯爵から、婚姻祝いの品だ。おーい! 王子の馬を連れて来い!」


「馬が祝いの品か! さすがメロビクス王大国は、騎兵の盛んな国ですね。じゃあ、俺の馬もアンダルシアン?」


「いや。王子の馬は、デストリアだ。ほれ、コイツだ!」


「ブルル!」


「!」


 そこには巨大な黒馬がいた。
 いや、これ、ホントに馬?
 大きさがトラックと変わらないけれど……。


「これは本当に馬ですか? 魔物?」


「ガハハ! 驚いたか! こいつは歴とした馬だよ! 重装騎兵をのせる軍馬なのさ!」


 馬体も大きいが、全体的にガッチリしていて力がありそうだ。
 なるほど、メロビクス王大国の重装騎兵が乗り回していたのは、この馬か。


「家畜の世話になれた人間も連れて来たから、世話はそいつらに任せておけ」


 凄いな!
 家畜の餌だけじゃなくて、世話している人間ごとか!
 さすがメロビクス王大国の大物貴族。
 やることが違う……。


「最後の一隻には、アリー様の嫁入り道具や今回移住希望の人間の家具やら荷物が載っている」


「移住希望?」


「ああ、ギュイーズ侯爵領や寄子の領地から、優秀な人材をかき集めてきたぞ! 領地経営がわかる人間やアリー様の身の回りの世話をする人間やらだ。ああ、丁度降りてきたな!」


 ウォーカー船長の『愛しのマリールー号』から、続々と人が降りてきた。


「じゃ! 確かにお届けしたぜ!」


 ウォーカー船長は、ニカリと笑った。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品