追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第91話 旗を掲げろ! メロビクス王大国軍戦3

 フリージア王国国王レッドボット三世は、後悔していた。


(なぜだ! なぜ、ニアランド王国が裏切るのだ!)


 レッドボット三世は、隣国ニアランド王国から妻を迎えていた。
 妻は第一王妃として迎え、ニアランド王国と婚姻同盟を結んだ。
 
 それからはフリージア王国とニアランド王国の軍事衝突はなくなり、領主貴族同士の揉め事も話し合いで解決するようになった。


 外交を主導した宰相エノー伯爵の手柄だ。


 宰相エノー伯爵によってもたらされた平和。
 誰にとっても喜ばしいはずの平和。


 しかし、平和と引き換えに、レッドボット三世の発言力は衰えた。
 宰相エノー伯爵率いる外交族の力が増し、フリージア王国内でニアランド王国の息のかかった貴族が増え、ニアランド大使は徐々に態度が傲慢になった。


 そして、この出兵である。


 婚姻同盟に基づいて、ニアランド王国防衛の為に軍を率いてきてみれば、なぜかフリージア王国が攻められている。


(ワシが主導権を取った途端にこれか!)


 あのまま宰相エノーに主導権を握られていた方が、良かったのだろうか?


 あのまま宰相エノーの言うがままにしていた方が、良かったのだろうか?


(いや……)


 レッドボット三世は、思い出していた。
 軍議で自分の為に怒ってくれた息子たち、アンジェロとアルドギスルの事を。


(あれは嬉しかった……)


 息子たちの思いに、自分は奮い立ったのだ。
 今さら何を後悔しようか。


 レッドボット三世は後悔をやめ、毅然と前を向いた。


 右からは、裏切ったニアランド王国歩兵が、剣を振り回し迫り来る。
 左からは、メロビクス王大国軍の重装騎兵が地面を揺らし駆けて来る。


(ここで命尽きるか……)


 レッドボット三世が死を覚悟した時、大音響と共に目の前に迫り来る敵が吹き飛んだ。


「な……何事だ!」


 レッドボット三世が驚き目を見張る。


 そこに愛する息子アンジェロが、空から舞い降りた。


「父上! ご無事ですか!」




 *




 危ないところだった。


 俺が父上の所――国王本営に飛ぶと、メロビクス王大国軍の重装騎兵と裏切ったニアランド王国歩兵が本営に迫っていた。


「アンジェロ少年! やるのである!」


「エクスプロージョン!」


 俺は黒丸師匠の指示に即応し、火属性爆裂魔法エクスプロージョンを発動させる。


 ファイヤーボールより大きな火の玉が、敵兵に向かって飛び爆発した。


 強力な爆発に敵の重装騎兵すら吹き飛び、強烈な爆風が敵味方お構いなしに吹きつけ、周りにいた兵士が腰を抜かす。


 一撃で地面が抉りとられ、土煙が高く舞い上がった。


 味方への悪影響を抑える為に、込める魔力を少なめにしたが、上級魔法を放ったのだ。
 本営に突撃してきた敵はひとたまりも無いだろう。


 俺は地面に降り立ち、辺りを警戒しながら父上に声をかける。


「父上! ご無事ですか!」


「おお! アンジェロ!」


 間に合った!
 父上は無事だ!


「エクスプロージョン! エクスプロージョン! メイクストーン! メイクストーン!」


 続けざまに前方に火属性爆裂魔法を放ち、後続の敵を吹き飛ばす。
 同時に1メートル高の石壁を、連続で生成し国王本営の守りを固める。


 本営を守る騎士が、俺の魔法を見て驚きの声を上げた。


「なっ! 上級魔法を連続で!」
「敵が吹き飛んだ!」


 並の魔法使いしか見たことがないのだろう。
 俺の魔力は女神ミネルヴァ様仕込みだから、並の魔法使いは比較対象にならないのだ。


 ルーナ先生が空から降り、サラとボイチェフ、豹族の少女二人も駆けつけてきた。


「オイ! アンジェロ! 来たぞ! お父さんは無事か?」


「サラ、ありがとう。父上は無事だよ」


「そうか、良かったな!」


 サラがニパリと笑った。


 俺は振り返り父上に告げる。


「父上……。もう、よろしいでしょう。私は、力を抑えず戦います」


 他の貴族に手柄を立てさせるようにと、父上から言われていた。
 だから、俺は、この戦いで単独行動をせず、周りに合わせて行動してきた。


 しかし、ニアランド王国が裏切った今の状況では、そんな悠長な事をしていられない。
 強烈な魔法を連発して、敵を倒さないとフリージア王国が敗走する羽目になる。


 父上も状況は理解しているようで、すぐに許可を出してくれた。


「うむ。アンジェロ、頼む! メロビクスと裏切り者のニアランドを退けよ!」


「王命承りました」


 ひざまずいて父からの命を受ける。


 立ち上がり、周りを見ると本営の大天幕は傾き、旗は地面に散乱していた。
 俺は、近くにいる騎士に命じる。


「第三王子アンジェロが命じる! 旗を掲げろ! フリージアの旗を!」


「は……はっ! 旗だ! 本営の旗を掲げろ!」


「「「はい!」」」


 近くにいる兵士が、地面に散らばったフリージア王国の旗を、再び本営に掲げた。
 フリージアの青い旗が、風を受け力強くひるがえる。


 これで他の部隊が見ても国王本営が健在とわかるだろう。


 国王本営が落ち着いた様子を見て、ルーナ先生が戦闘指示を出す。


「私とアンジェロは、空から魔法攻撃! 黒丸とサラたちは、右手のニアランド王国兵を蹂躙せよ!」


「「「「了解!」」」」


 俺とルーナ先生が空に上がると同時に、黒丸師匠がニアランド王国歩兵につっかけた。


「王国の牙! 黒丸! 推参である!」


 黒丸師匠がオリハルコンの大剣を、右から左に思いきり振り抜く。
 黒丸師匠の前にいたニアランド王国歩兵が次々に倒れ、血しぶきが舞い上がる。


 両脇をサラとボイチェフが固め、最後方を豹族の少女二人が守る。


 黒丸師匠が一歩進むたびに、ニアランド王国兵の死体が十人単位で増えていく。
 撃ち漏らしは、サラとボイチェフが片付け、後方に回ろうとした兵は豹族の少女二人が抑える。


 ニアランド王国兵の足は、完全に止まった。
 これから裏切りの代償を、血で支払うのだ。

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