追放王子の異世界開拓!~魔法と魔道具で、辺境領地でシコシコ内政します

武蔵野純平

第29話 領地開発会議4~人集め

「それでみんなにお願いしたい仕事だけれど……。ルーナ先生は、俺と一緒に土魔法で家や壁などの整備をお願いします」


「わかった」


 本拠地の建物作りに、港の整備、村の防壁もやらなきゃいけない。
 どこかから水を引いて可能なら水路も……。
 俺とルーナ先生は、しばらく大忙しになる。
 ルーナ先生には感謝の気持ちを込めて、何か地球世界の料理を紹介しよう。


「じいとジョバンニは、人の手配を頼む。商業都市ザムザに転移魔法で送るから、商業ギルドを中心に当たってくれ」


「承りました。それでどのような人材をお探しでございますか?」


 必要な人材は職人が中心だ。
 飛行機開発とウイスキー造りで、まず絶対必要なのは……。


「まず、すぐに欲しいのは、鍛冶師だ。飛行機開発でもウイスキー造りでも重要な仕事を任せる事になる。腕が良くて新しい物好きの人物が良い」




 ウイスキーを造るには、蒸留器が必要だ。俺の日本での記憶や知識を基に蒸留器を作ってくれる鍛冶師が必要になる。
 もちろん、飛行機開発でも活躍してもらう。


「となると、ドワーフですかな」


 ドワーフは名鍛冶師を多数排出している種族だ。
 人族の鍛冶師もいるけれど、ドワーフの鍛冶師には到底及ばない。


「そうだね。ドワーフが良い。鍛冶師は最優先でお願い」


「承りました」


「それから次に必要なのは……、酒造り職人と樽作り職人。ウイスキー造りに必要な人材だ」


 ウイスキーは蒸留酒だ。蒸留する大本になる酒が必要になるが、この世界ではエールと呼ばれるビールがあればオーケーだ。ビールが醸造できる酒造り職人が欲しい。


 そして、ウイスキーは樽に入れて寝かせて熟成させる。
 俺の領地にはナラの木があった。ナラはオーク材の事で、ウイスキーを熟成させる樽でオーク樽と言うのがあった。
 自分の領地の大麦でウイスキーを造り、自分の領地のナラの木から作ったタルで熟成させてみたい。だから、樽職人も欲しい。


「ふむふむ、酒造り職人と樽作り職人」


 ジョバンニがじいの隣でメモを取っている。
 若い商人のジョバンニと色々な部署で働いた経験のあるじいのコンビは、バランスが良いかもしれない。


「それから後は……、もし、いればスカウトして欲しい人材は、木こりと製材職人かな。ナラの木があったから、伐採して木材にする作業は早めに始めたい」


 木材はね。伐採して切り出してもすぐには使えない。
 切り出した後にしばらく屋外で寝かせておかないといけない。
 領内でウイスキー用の樽を作るにも木材は必要になるから、木材の生産体制を整えておきたい。


「あの……、雑用をする者を雇ってもよろしいでしょうか? 本拠地で荷下ろしなどをする者が必要ですので」


「ああ、じいに任せるよ。本拠地を建てたら、使用人が必要だろうから。雇ってかまわない」


 メモを取っていたジョバンニが顔を上げた。
 遠慮がちな口調で聞いて来た。


「アンジェロ様、奴隷ではいけませんか?」


「うーん……。前も話したと思うけれど、俺は奴隷制度自体が好きじゃない。出来れば自分の領内では禁止したいと思っている」


「アンジェロ様のお気持ちは、わかりました。しかし、この領地に働きに来てくれる者がおりましょうか?」


 ジョバンニは、手を広げて周りを見渡した。
 荒れ地と山と森、人もほとんど住んでおらず、商店も居酒屋もない。


 うーん、商人のジョバンニとしては、『人材を探して雇え』と言われても、達成が難しい仕事、無茶ぶり仕事になってしまうのか。
 それも申し訳ないな。


「確かに、働きたい人はいないかも……」


「商人ギルドにあたってはみますが、正直なかなか厳しいと思います」


「そこで奴隷か……」


「はい、その通りです。奴隷なら主人の所有物ですので、働く場所がここでも問題ありません」


「確かに……」


 その理屈はわかるな……。
 でも、元日本人の俺としては、『人間を所有する』、『人間を物として扱う』ってのが、受け入れられない。


「それでは、よく働いたら将来奴隷から解放して、領地に住まわせるつもりでお買いになったらいかがでしょうか?」


 じいがジョバンニに助け舟を出した。


「それでしたら、我々は領民が増えて嬉しいし、奴隷にも嬉しい事ですよね」


 ジョバンニが、すかさずじいの話に乗っかったな。
 まあ、でもそうだな。現実問題として俺の領地に来てくれる人は、なかなかいないだろう。
 じいの提案で妥協しよう。


「わかった。奴隷も許可するよ。ただし、殴るとか酷い扱いをしない事が条件だ」


「かしこまりました」
「そういった事がないように、配慮いたします」


 二人はホッとした様子だ。
 顔を見合わせて、少し笑顔になっている。


 後は、黒丸師匠だな。


「アンジェロ少年。それがしは、どうすれば良いであるか?」


「黒丸師匠には、ちょっと特殊なお願いがあります。落ちこぼれの冒険者やうまく行ってない冒険者を紹介してください」


「え!? それはどういう意味であるか? 落ちこぼれ? うまく行ってない?」


 黒丸師匠が目を白黒させている。
 まあ、そりゃビックリするよね。


「普通は凄腕の冒険者を探せと頼まれるのである。アンジェロ少年の考えを聞きたいのである」


「そりゃ、凄腕の土魔法を使える魔法使いが来てくれれば、良いですけど無理ですよね?」


「そうであるな。土魔法を使えて腕が良い魔法使いは、だいたい軍にスカウトされてしまうのである」


 土魔法の『土操作』や『石化』を使うと、魔法で防壁を作ることが出来るし、逆に防壁を崩すことも出来る。
 軍は土魔法使いを見つけると、必ず好条件でスカウトする。


「さっきジョバンニが言った通り、アンジェロ領にはなかなか人が来てくれないと思います。だったら来てくれる人にあわせて仕事を振れば良いと」


「なるほど、そうであるか。確かに、商業都市ザムザでうまく行っていない冒険者なら……。そうであるな。長期出張の依頼を出すという事で良いであるか?」


「それでお願いします。食事はこちらで出せるようにしますし、住むところも用意します。細かい条件は、黒丸師匠にお任せします。とりあえず面接してから、お互い決めると言う事で話を持って行って下さい」


「わかったのである!」


 俺は転移魔法で商業都市ザムザに、じい、ジョバンニ、黒丸師匠を送り届けた。
 良い人が見つかると嬉しいな。



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