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いつでも側に〜一途な両片想い〜

せいとも

未来を見据えて⑥ SIDE鈴

 そっと差し出されたハンカチで涙を拭いていたら、大きな温かいぬくもりに抱きしめられた。

「ウッ、ウッ」

 今まで辛くても、演技以外で泣いたことはない。泣き方がわからなかった。そもそも、何が泣くほど辛いことかがわからなかった。

 でも今は、直人お兄ちゃんに抱きしめられ、無意識に涙が出てきた。

 安心感からか、十八年分の涙が溢れ出したのか、涙が止まらない。

「鈴、泣きたいだけ泣いたらいいんだ。俺が全部受け止める」

 小さい子をあやすように、抱きしめて背中にある手を優しくトントンと叩いてくれる。

 どれくらい泣いていただろう。

 私が少しずつ落ち着いた頃、お兄ちゃんがお母さんとのことを話してくれた。


「もう、お母さんのために働かなくていいんだよ。鈴がしたい仕事を選べばいい。鈴は選べるほどの女優さんなんだから」

「えっ、でも。仕事があることに感謝しなさいって」

 お母さんが、仕事は断るなと言っていた。仕事があるうちに出演するのよと……。

「感謝は大事だよ。だけど、鈴は一人しかいない。鈴しか出来ない役もたくさんある。鈴でなくても出来る役もある。これからは、しっかり選んでいこう」

「うん」

「ただ、お母さんが今まで使ってしまった鈴の給料は戻って来ない。取り戻すことも出来るが、裁判になるだろうし……」

 そして、お父さんの存在も聞いた。お母さんは全く教えてくれなかったお父さん。

 弁護士になっていて、今回私を助けてくれた。私のことをずっと忘れずにいてくれた。


「お父さんに会ってみないか?」

「うん」

 私にはお母さんしかいないと思っていたから嬉しい。

 少しずつ、私の周りが変化していく。

 もう、大人になるんだと実感なく思う。

「何か心配事か?」

「えっ?」

「浮かない顔をしているから」

「ううん。十八歳になるって実感がなくて……。世間では大人と言われる年齢かもしれないけど、私の中ではいつからか止まってる気がする」

「鈴は、大人の世界に早くからいて、ずっと子供扱いだから気づいていないかもしれないが、同じ年の子達に比べたら、ずっと大人だよ。もっと子供でもいいくらいだ」

「まだ、間に合う?」

「ああ。鈴にはまだまだ未来がある」

「ありがとう」

 

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