いつでも側に〜一途な両片想い〜

せいとも

成長⑦

 直ぐに、鈴と母親の暮らすマンションに行ったが、そこでも驚く。

 鈴の収入があれば、それなりのマンションに住めるはずだが、オートロックもない質素なハイツだ。

「……。いつからここに?」

「お母さんに彼氏が出来てから……」

「最近?」

「元々住んでたマンションに彼氏と住むから、お母さんの借りてた衣装部屋に……」

「はあ?元々母親の衣装部屋だったのか?」

 中に入って更に驚く。

 ワンルームに直に敷かれた布団。いるものだけを持って行ったのか、散乱したたくさんの服。鈴の物は、隅に少しあるだけで、後は冷蔵庫と洗濯機くらいしかない。

 もっと早く気づいていればと悔やまれる。


 鈴が直人の実家に住み始めて一カ月くらい経ったころ、鈴の母親が社長室に乗り込んできた。

「鈴を返して」

「今頃ですか?やっと、鈴さんが住んでた衣装部屋に顔を出されたと?」

 直人は鈴を預かると手紙を残していたが、今頃なのかと呆れる。

「煩いわね。鈴を誘拐したって訴えるわよ」

「では、こちらは育児放棄で訴えさせていただきます」

「なっ!?もう、育児放棄と言われるような年齢じゃないわよ。自分で仕事に行って買い物もできるんだから」

「買い物できる費用も置かずに?鈴さんが仕事して稼いだ給料はどこに?育児放棄は十八歳未満の子供に当てはまります」

「……」

「彼氏と別れて鈴さんと一緒に住むつもりですか?」

「はあ?あなたに言われたくないわ」

「それでしたら、お返しできません」

「もういいわ!」

 都合が悪くなったのか出ていった。

 今すぐにでも、母親が管理している鈴の給料を別の口座に振り込みたいが、今ではない。

 直人は、悔しいが今は我慢するしかない。

 鈴は、直人の実家に住み、大切にされている。仕事にも女性マネージャーがついている。

 子役から第一線で活躍し続ける子は、ほとんどいない。成長と共に、イメージが変わったり、自我が出てくるからだ。鈴が、ずっと活躍しているのは、本人の努力の賜物だ。

 恵まれた容姿に生まれ、誰もが羨むかもしれないが、おむつのCMオーディションの時の純真な笑顔を思い出すと切なくなる。

 物心ついた時から無理しているのだろう。

 直人は自分の無力さを感じる。

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