転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情
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どいてください、と言おうとして、一瞬立ち止まってしまったものの、ここでそいう余裕を見せているから今みたいなことになっているのだ、と思い当たり、無理やりにでも男性の横を通り抜けようとする。
しかし、男性に腕をひっぱられ、わたしはそのまま尻もちをついてしまった。女性の力ならいざしれず、男性に引っ張られてしまえば、わたしなんか簡単によろけてしまう。
わたしを見下す男性は、かなり美しい男性だった。まあディルミックの方が美形だとは思うが……とまで考えたところで、ということは、こちらの世界では逆になるのか、と気が付く。
「この女が、あのカノルーヴァに嫁いだ女か」
男性は婚約者さんに声をかける。婚約者さんは、話したくもない、という様子で「……そうよ」と答えていた。これはまぎれもなく、ディルミックと同じような待遇の中生きてきた人だ。婚約者さんの反応で分かる。
「お前に明日の式に出られたら困るんだ。おとなしくしていて貰おう」
男性の手がこちらへ伸びてくる。ぎりぎりのところでかわし、逃げようとしたところで足を引っ掻けられてしまい、転んで再び床へと伏す。
「お前は、うちに来て、オレの子を孕んで貰わないと行けない」
何言ってんだこいつ。わたしにそんな義理はない――と怒りがわいてくる。そして、この相手が、誰だか、ようやく分かった。
直接会うのは初めてだからすぐに分からなかったが、この物言い。ボーディンラッド家の人なんだろう。この婚約者さんが何故協力しているかまでは分からないが、少なくとも、脅されてではなく、積極的に協力していることが分かる。
つまり、この二人は、明日、私に結婚式に出ないようにするため、ここにいるのだ。
うかつについてきてしまったわたしが馬鹿すぎて情けない。
「カノルーヴァにあれこれ言われても面倒だからな。表には出せないが、好きなものを好きなだけ与えてやろう」
つまりは飼い殺し、というわけか。ディルミックが選ばなかった、わたしの可能性。
「……嫌、絶対嫌」
ディルミックに体を許すのはそこまで抵抗がなかったのに、この男には普通の接触ですら嫌気がさす。それは、当時まだ惚れた相手がいなかったからか、ディルミックがこの男のように、わたしを見下す目をしていなかったからか。……多分、両方だ。
「金だって、いくらでもくれてやる」
「じゃあ純金貨十万枚!」
絶対に払えないような金額を、思いついたままに言った。ちなみに純金貨は一枚、日本円で五千万円だ。咄嗟に言ったにしては、相当な金額である。
いくらでも、と言った手前、払えない、とは言いたくないのだろうが、到底無理な金額だ。男はその美しい顔をしかめた。
「……君に、そこまでの価値があると?」
「そんなわけないじゃない」
流石にそこまでうぬぼれてはいない。
純銀貨五枚、それがわたしの価値だ。
「純金貨十万枚の価値があるのはディルミックの方よ。わたしは絶対、明日、あの人と結婚式を挙げるの。名実共にわたしの夫になるのは、ディルミック=カノルーヴァ、ただ一人なんだから!」
わたしはそう言うと、腹の底から、ありったけの声で助けを呼んだ。
しかし、男性に腕をひっぱられ、わたしはそのまま尻もちをついてしまった。女性の力ならいざしれず、男性に引っ張られてしまえば、わたしなんか簡単によろけてしまう。
わたしを見下す男性は、かなり美しい男性だった。まあディルミックの方が美形だとは思うが……とまで考えたところで、ということは、こちらの世界では逆になるのか、と気が付く。
「この女が、あのカノルーヴァに嫁いだ女か」
男性は婚約者さんに声をかける。婚約者さんは、話したくもない、という様子で「……そうよ」と答えていた。これはまぎれもなく、ディルミックと同じような待遇の中生きてきた人だ。婚約者さんの反応で分かる。
「お前に明日の式に出られたら困るんだ。おとなしくしていて貰おう」
男性の手がこちらへ伸びてくる。ぎりぎりのところでかわし、逃げようとしたところで足を引っ掻けられてしまい、転んで再び床へと伏す。
「お前は、うちに来て、オレの子を孕んで貰わないと行けない」
何言ってんだこいつ。わたしにそんな義理はない――と怒りがわいてくる。そして、この相手が、誰だか、ようやく分かった。
直接会うのは初めてだからすぐに分からなかったが、この物言い。ボーディンラッド家の人なんだろう。この婚約者さんが何故協力しているかまでは分からないが、少なくとも、脅されてではなく、積極的に協力していることが分かる。
つまり、この二人は、明日、私に結婚式に出ないようにするため、ここにいるのだ。
うかつについてきてしまったわたしが馬鹿すぎて情けない。
「カノルーヴァにあれこれ言われても面倒だからな。表には出せないが、好きなものを好きなだけ与えてやろう」
つまりは飼い殺し、というわけか。ディルミックが選ばなかった、わたしの可能性。
「……嫌、絶対嫌」
ディルミックに体を許すのはそこまで抵抗がなかったのに、この男には普通の接触ですら嫌気がさす。それは、当時まだ惚れた相手がいなかったからか、ディルミックがこの男のように、わたしを見下す目をしていなかったからか。……多分、両方だ。
「金だって、いくらでもくれてやる」
「じゃあ純金貨十万枚!」
絶対に払えないような金額を、思いついたままに言った。ちなみに純金貨は一枚、日本円で五千万円だ。咄嗟に言ったにしては、相当な金額である。
いくらでも、と言った手前、払えない、とは言いたくないのだろうが、到底無理な金額だ。男はその美しい顔をしかめた。
「……君に、そこまでの価値があると?」
「そんなわけないじゃない」
流石にそこまでうぬぼれてはいない。
純銀貨五枚、それがわたしの価値だ。
「純金貨十万枚の価値があるのはディルミックの方よ。わたしは絶対、明日、あの人と結婚式を挙げるの。名実共にわたしの夫になるのは、ディルミック=カノルーヴァ、ただ一人なんだから!」
わたしはそう言うと、腹の底から、ありったけの声で助けを呼んだ。
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