転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情

ゴルゴンゾーラ三国

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 わたしからの手紙と、義叔母様のメッセージカードを大切そうにしまうと、ディルミックは立ち上がる。


「久々に、一緒に朝食を食べないか?」


 確かに、最後にいつ一緒に食べたか分からないくらい、朝食を共にしていない。まあ、元々ディルミックの朝が早く、生活リズムが微妙に合わないので、夕飯以外は別々に取ることが多いのだが。


 とはいえ、残念ながらわたしはその誘いにのることが出来ない。


「今日は丁度、ペルタさんが健診に来るので……。残念ですけど、また今度誘ってください」


 ペルタさんとは、カノルーヴァ家に常駐しているカノルーヴァ家お抱えの治癒師である。今年で何歳なのか分からないほどのおばあちゃん。動きはよぼよぼしていて、杖をつかないと足元がおぼつかないらしいのだが、しかし、仕事の際の手際だけは年齢を感じさせないほどテキパキとしていて、長年の経験を感じさせるお人だ。
 彼女は、基本的に本館の方の屋敷にいるのだが、月に一度、この別館にわたしの体調を見にやってくるのだ。


 まあ、病気云々の体調チェックではなく……平たく言えばわたしが妊娠しているか、チェックしにくるのである。
 ペルタさんが健診に来るときは、朝食の時間を少しずらすのだ。彼女の健診が終わってから、軽く朝食を済ませるのがいつものこと。
 一応、今日は健診が終わったら、そのまま一般公開に行くつもりなのだが。


 先に一般公開へ休憩時間を使って少し遊びに行ったチェシカが、すごく美味しいパンがあるのだと、教えてくれたので、それを買いに行こうと思うのだ。お金はディルミックが好きに使えと、渡してくれたお小遣いの余りが溜まっているので問題ない。定期的にくれるお小遣いの額が結構高いというか、そもそも使わなくても生活出来てしまう環境にいるので、地味に溜まっていくというか。


 実は結構頻繁にディルミックはお小遣いをくれるのだ。月に二度か三度くらいだろうか。生活費には使わないので、本当はもう少し頻度が少なくてもいいのだが……まあ、貰えるものは貰う主義なので。
 ノートやインク、茶葉などしか買わない現状だと、結構余る。使い終わった紅茶の茶葉缶にちゃりちゃりと貯めて、その重みが増えていくのが楽しい。


 わたしが断ると、少し残念そうにしたものの、相手がペルタさんなので、「仕方ないな」とあっさり引き下がった。


「一応、健診が終わったら一般公開へ遊びに行く予定です」


「そうか。……まあ、僕は仕事としての見回りだし、あまり僕と親し気に話しているところを見られるのはまずいから、外で会話が出来るかは分からないが……楽しんでくれると嬉しいよ」


「一杯遊んできますから、また夜にでも感想を聞かせますよ」


 そう言ってから、ディルミックとの夜を想像してしまい、一人でこっそり、勝手にダメージを食らった。まだ微妙に、羞恥心に負けているらしい……。

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