転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情
86
わたしがもし、マルルセーヌで、この体験を別の人から聞いたら「えっそれ絶対好きじゃん」って言うと思う。客観的に見たら絶対ディルミックのこと好きじゃん、こんなの……。
マルルセーヌ人はお茶が好きだ。淹れるのが好きで、さほど仲良くない他人の為にもお茶を淹れる。むしろ淹れたお茶を一緒に飲んで仲良くなろう、という思考回路を持つくらいだ。
だから、わたしが他人の為に『ただ』お茶を淹れるというのは、別におかしくない。そんなの、義叔母様やチェシカ、エルーラにハンベル、ヴァランやベルトーニと、ここの屋敷で知り合った人間全員にふるまいたいくらいだ。ミルリはまあ……何度も断られて断られてしまっているのでどうしようもないが。
でも、モーニングティーは、本当に特別なのである。
特別な茶器で、特別な相手にだけ淹れるお茶。相手のことを想い淹れたのなら、それはもう、まぎれもく、恋情によって動かされている。
そもそも、そもそも!
嘘でもディルミックの悪口を言えない辺り、手遅れな感じがしないか……?
ディルミックと面と向かっては流石に言えないし、隠れても余り言いたくない。でも、さっきみたいな、ごまかしが聞かないような場面で、無理に誤魔化す必要なんて、あったのか……?
グラベインの美醜差別が酷いのは、わたし以上にディルミックがよく知っている。出会ったばかりの頃ならいざ知らず、こうして半年過ごしてきたのだから、彼だって、わたしから進んで言った悪口と、どうしようもない苦し紛れの言い分と、区別くらいつくだろう。
チェシカの話に合わせて、ディルミックの顔をどうこう言おう、なんて、全く思い浮かびもしなかった。いかにどう言葉を誤魔化して、言い逃れしようか、そればかり、無意識に考えてしまっていた。
もう、そういうのを無意識に考えてしまっている時点でアウトである。
「……奥様、あの、顔色が優れねえですけど、本当に大丈夫ですが?」
ぐるぐると考え込んでいたら、いつの間にか、昼食を食べる手が止まっていたらしい。チェシカが心配そうに声をかけてきた。
「だ、大丈夫よ、大丈夫……」
わたしは適当に返事をし、ご飯を口に運ぶ。味なんて、分かりやしない。何かを食べている感覚が、全くない。あごを上下に動かしている自信も、しっかりとカトラリーを持っている自信も、あんまりない。
――次から、ディルミックにどんな顔をしたらいいのか、分からない。
でも、ただ、この想いは墓場まで持っていこう。
彼に想いを告げるのが――この恋を認めてしまうのが、どうしようもなく怖かった。
マルルセーヌ人はお茶が好きだ。淹れるのが好きで、さほど仲良くない他人の為にもお茶を淹れる。むしろ淹れたお茶を一緒に飲んで仲良くなろう、という思考回路を持つくらいだ。
だから、わたしが他人の為に『ただ』お茶を淹れるというのは、別におかしくない。そんなの、義叔母様やチェシカ、エルーラにハンベル、ヴァランやベルトーニと、ここの屋敷で知り合った人間全員にふるまいたいくらいだ。ミルリはまあ……何度も断られて断られてしまっているのでどうしようもないが。
でも、モーニングティーは、本当に特別なのである。
特別な茶器で、特別な相手にだけ淹れるお茶。相手のことを想い淹れたのなら、それはもう、まぎれもく、恋情によって動かされている。
そもそも、そもそも!
嘘でもディルミックの悪口を言えない辺り、手遅れな感じがしないか……?
ディルミックと面と向かっては流石に言えないし、隠れても余り言いたくない。でも、さっきみたいな、ごまかしが聞かないような場面で、無理に誤魔化す必要なんて、あったのか……?
グラベインの美醜差別が酷いのは、わたし以上にディルミックがよく知っている。出会ったばかりの頃ならいざ知らず、こうして半年過ごしてきたのだから、彼だって、わたしから進んで言った悪口と、どうしようもない苦し紛れの言い分と、区別くらいつくだろう。
チェシカの話に合わせて、ディルミックの顔をどうこう言おう、なんて、全く思い浮かびもしなかった。いかにどう言葉を誤魔化して、言い逃れしようか、そればかり、無意識に考えてしまっていた。
もう、そういうのを無意識に考えてしまっている時点でアウトである。
「……奥様、あの、顔色が優れねえですけど、本当に大丈夫ですが?」
ぐるぐると考え込んでいたら、いつの間にか、昼食を食べる手が止まっていたらしい。チェシカが心配そうに声をかけてきた。
「だ、大丈夫よ、大丈夫……」
わたしは適当に返事をし、ご飯を口に運ぶ。味なんて、分かりやしない。何かを食べている感覚が、全くない。あごを上下に動かしている自信も、しっかりとカトラリーを持っている自信も、あんまりない。
――次から、ディルミックにどんな顔をしたらいいのか、分からない。
でも、ただ、この想いは墓場まで持っていこう。
彼に想いを告げるのが――この恋を認めてしまうのが、どうしようもなく怖かった。
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