転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情

ゴルゴンゾーラ三国

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 温室と庭園の一般公開が始まると、静かだった屋敷が、一気に賑やかになる。別館であるここにまで、騒ぐ声が聞こえてきた。
 一般公開が始まってすぐは外に出る気になれない。自室にいても、たくさんの人が来ているのはひしひしと伝わってくるので。あんまりにもごった返しているところに出向いたら、護衛の人も大変だろう。そもそも人混みが好きではないので、出かける気にはならないが。


 かといって、自室ですることは何もない。グラベイン国民の識字率が高そうな以上、おおっぴらに第三者のいるところで手紙の練習をするのは、どうにもはばかられる。


 なので、特に意味もなく、キッチンの掃除と茶器の手入れをしていた。


 今日の付き添いは、室内にチェシカ、廊下に護衛のヴァランだ。チェシカが一人でわたしに付くことに、エルーラは最後まで複雑そうな顔をしていた。とはいえ、今日のミルリとエルーラは一般公開の方の人手として回されているので仕方がない。


 チェシカは、茶器の手入れを手伝う、と言ってくれたのだが、わたしは丁重にお断りした。だって割りそうだし……。
 わたしはどちらかと言えば仕事はミスして覚えるもの、という風に思っているので、彼女が何かミスすることにあまり怒ることはないが、それとこれとは別である。
 まあ、そもそも茶器の手入れが楽しいので、手伝ってもらう必要がない、というのもあるのだが。


 わたしが茶器を拭いていると、チェシカから興味深い、と言わんばかりの視線を感じる。


「……気になる?」


 思わず聞けば、チェシカは慌てて謝りだした。ちょっと聞いただけなんだけども。


「お、奥様の手際がよかったもので、参考にならねえがと思いまして。おら……じゃない、わだし、この間、ティーカップを割っちゃって、先輩にも怒られて……」


 随分と訛りの激しい口調だった。田舎出身、とは聞いていたが、これほどまでとは。イントネーションも独特で、一瞬、なんて言っているのか理解できないときもある。
 わたしもわたしで、結構な田舎村に住んでいたのだが、どうにもそれ以上っぽい。訛り方が年寄りくさいというか……。限界集落にでも住んでいたんだろうか。


 いや、そんなことよりティーカップよ。手伝う、と言ってくれても、素直に断っておいてよかったわ。何度でもいうが、仕事をミスすること自体はそう悪くないと思うが、それはそれとして、茶器は割られたくない。絶対。


「まあ、マルルセーヌにいたら、小さい頃から茶器は扱うから。茶器は割らない自信があるけど、普通のお皿とかだと、わたしも割っちゃうかも」


 実際、マルルセーヌに飲食店に務めていたころ、ソーサーとは全然大きさの違う皿に慣れず、力をこめ過ぎて、手を滑らせてパリーン! とやったことが何度もある。懐かしいなあ。

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