転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情

ゴルゴンゾーラ三国

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 ディルミックが今日帰ってくるとは聞いていたが、到着時間は聞いていなかった。勝手に昼過ぎくらいには戻ってくるだろうか、と思っていたのだが、実際にディルミックが帰ってきたのは夕食前。
 久々にディルミックと夕食をとることになった。


 二人きりで、ご飯を食べる。あれこれ話したいことがあったのに、ディルミックの顔色を見ると、どうしても躊躇ってしまう。
 体調が悪そう、というわけではないのだが、流石に三週間の視察は疲れたのか、あんまり元気そうではない。まあ、それもそうか。


 かちゃかちゃと、食器が動く音だけが、食堂に響く。ちらちらとディルミックの様子を伺ってみるのだが、完全に話を切り出すタイミングを失ってしまった。
 折角帰ってきたのに、と思う反面、別に明日からもディルミックがいるのだから、今話さなくてもいいか、と思ってしまう。
 特に疲れているのなら、今後の予定をあれこれ考えたくないだろう。前世のわたしなら出張から帰ってきたらご飯食べてそのまま寝ていた。難しいことは考えたくないのである。


 ちょっとさみしいな、と思わないでもないが、仕方ない。今日はさっさと寝てもらおう、と思っていたが、ふと、ディルミックの手が止まる。食べるのすら疲れたのだろうか。


 と、思っていたのだが、ばち、と視線があった。なにか言葉を探すように視線を彷徨わせた後、「ロディナ」とわたしの名前を呼んだ。
 でも、名前を呼んだ後も、すぐに何かを言うわけではなかった。なんだろう、そんなに言いにくいことなのかな。
 先を促してもよかったが、余計に言いづらくなるのでは、と少し考え、おとなしく彼の言葉を待つことにした。
 ごくり、と彼の喉が動いた。口の中に入っていたものを嚥下したのではない。唾を飲み込んだんだろう。え、なに、そんなに勇気いること?


「――土産を、買ってきた、んだが……」


 何を言われるのだろう、とドキドキしていたが、ディルミックの口から出てきたのは、拍子抜けするようなものだった。


「お土産、ですか?」


「ああ。その――受け取ってくれる、か?」


 こちらを伺うような視線。何をそんなにビビっているのか――と思い、ふと、もしかして誰かにお土産を買うの、初めてなのか? と思い当たる。
 前世で、わたしは割と、「○○に行ってきました!」みたいな、分かりやすいお菓子を買って渡すことが多かったが、旅行好きの友達の中には、お前それどこで買ってきたの? と聞きたくなるような謎センスの子や、置き場に困る絶妙なセンスの置物を必ず買ってくる子がいた。


 つまり、お土産を買うことに慣れていないディルミックは、自分のセンスに自信がないのだろう。
 でも、今の私室は装飾がほとんどないこざっぱりしたもので、謎のお土産を貰ったとしても飾るスペースは一杯ある。
 もしディルミックのお土産センスが壊滅的でも、今回はありがたく受け取ろう。場所に困らなければ、置物の土産だって悪くない。


「お土産、嬉しいです。後で見せてください。あ、トードンロンの話も聞かせていただけるなら、是非」


 トードンロン、どんなとこか全く知らないですし、と言えば、ディルミックはホッとしたような表情を浮かべた。
 そんなにヤバい物を買ってきたんだろうか……。これは何を買ってきてくれたのか楽しみだ。

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