転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情
68
「お邪魔しまーす……」
こっそりと寝室経由でディルミックの私室を訪れる。部屋の主は不在なので、当然返事はないのだが。
書庫を勝手に使っていい、と許可を貰っていたので使いに来たのだが、なんとなく気まずいものがあって声をかけたのだ。
随分と信用されているのか、それとも見られて困るものがないのか……盗られて困るものがないことはないと思うので、多分前者か。
わたしはすすすっと手早く書庫の扉の前まで行く。あれこれじろじろ見るのは失礼な気がして。失礼、というか、ディルミックがわたしを信用して部屋を貸してくれたのなら、何も見ないのがわたしが返せる行動だと思うのだ。信用ばかりはお金で買えない数少ないものだかしっかりしておきたい。
借りていた鍵を使い、扉を開けて書庫の中へと入る。パーティーに行くことが決まってから足を踏み入れていないので、実に二か月ぶりくらいか。相変わらず、少しだけほこりっぽい。でも、誰も出入りしていないというさびれた感じは全くない。
わたしは机について、さっそく義叔母様から渡された宿題を広げる。四日後までに、単語の書き取りをして全て覚えないと行けないのだ。単語自体は全てイラストつきなのだが、ひたすら書き写して覚える、というのも大変なものなのだ。
ノートの三分の一を消費した辺りで、ふと、集中力が尽きる。ディルミックに貰った小さな置時計を見てみれば、丁度一時間が経過したところだった。わたしは集中力が強い方じゃないので、大体一時間に一度くらいは休憩が欲しくなる。
でも、今から部屋に戻ってお茶を淹れ出したら、宿題を再開するまでに時間がかかって、随分と長い休憩になってしまいそうだ。
わたしは伸びをして、立ち上がる。
折角これだけ本があるのだから、とわたしは本の背表紙を眺め始めた。
義叔母様に渡された参考書に載る単語はどれも日常づかいするものなので、使う頻度が高い単語のはずだ。
本の背表紙を見て、何か読める単語がないかな、と流し読みしていく。
――と。
「スウィンベリー、の……何とかの、作る……作り方、かな?」
農業系の本だろうか。スウィンベリーの栽培方法とか? でも、お貴族様の書庫になんで栽培方法の本が?
まあ、でも知識なんて全く関係ないところでも意外と役に立つ時もあるものだし、貴族の屋敷だからこそ、ジャンルにこだわりなくいろいろ置いてあるのかもしれない。
「あ、特産品?」
そう言えばグラベイン名物なんだったっけ、スウィンベリー。もしかしたら、幅広い活用法とか、安定して育てられる栽培方法とか、そういうののために置いてあるのかもしれない。特産品の安定供給を考えるためなら、確かに領主の書庫にあってもおかしくないだろう。
わたしは本をとってぺらりとページをめくる。ジャムを食べて、ジュースを飲んだけれど、実際のスウィンベリーをわたしは知らない。ディルミックに教えてもらったので、木に果実が実る、というのは知っているのだが、前世の果物だと何が近いんだろうか。
そこまで堅苦しい本じゃなさそうだし、絵が載ってないかあ、とぺらぺら流し読みしていると……。
「これ……もしかしてレシピ本?」
料理のレシピ特有の書き方をされている本だった。スウィンベリー自体の絵は載っていないが、図説らしき部分には調理器具が描かれている。
お菓子文化が昔に廃れたとは聞いていたが、確かに本自体、古臭い。丁寧に扱われていたのか、綺麗に残っているのですぐには気が付かなかったが。本の最後のページ、奥付を確認すると、確かにかなり昔の本だった。
ぺらぺらとめくり――わたしはジャムクッキーらしきレシピを見つけた。一緒に載っている絵もそれっぽい。
意外なところで予想外な物を見つけてしまった。幸い、数字は万国共通で、マルルセーヌにいた頃から数字だけは読めるので、分量を読み解くことは簡単だ。
そして手順もなんとなくだが分かる。少なくとも食べられないレベルものは生成しなかったのだから。美味しくなかったけど。
「これは……頑張れば、クッキーのレシピが手に入るのでは!?」
わたしは俄然やる気になり、手にしていた本を持って再び机に戻った。
こっそりと寝室経由でディルミックの私室を訪れる。部屋の主は不在なので、当然返事はないのだが。
書庫を勝手に使っていい、と許可を貰っていたので使いに来たのだが、なんとなく気まずいものがあって声をかけたのだ。
随分と信用されているのか、それとも見られて困るものがないのか……盗られて困るものがないことはないと思うので、多分前者か。
わたしはすすすっと手早く書庫の扉の前まで行く。あれこれじろじろ見るのは失礼な気がして。失礼、というか、ディルミックがわたしを信用して部屋を貸してくれたのなら、何も見ないのがわたしが返せる行動だと思うのだ。信用ばかりはお金で買えない数少ないものだかしっかりしておきたい。
借りていた鍵を使い、扉を開けて書庫の中へと入る。パーティーに行くことが決まってから足を踏み入れていないので、実に二か月ぶりくらいか。相変わらず、少しだけほこりっぽい。でも、誰も出入りしていないというさびれた感じは全くない。
わたしは机について、さっそく義叔母様から渡された宿題を広げる。四日後までに、単語の書き取りをして全て覚えないと行けないのだ。単語自体は全てイラストつきなのだが、ひたすら書き写して覚える、というのも大変なものなのだ。
ノートの三分の一を消費した辺りで、ふと、集中力が尽きる。ディルミックに貰った小さな置時計を見てみれば、丁度一時間が経過したところだった。わたしは集中力が強い方じゃないので、大体一時間に一度くらいは休憩が欲しくなる。
でも、今から部屋に戻ってお茶を淹れ出したら、宿題を再開するまでに時間がかかって、随分と長い休憩になってしまいそうだ。
わたしは伸びをして、立ち上がる。
折角これだけ本があるのだから、とわたしは本の背表紙を眺め始めた。
義叔母様に渡された参考書に載る単語はどれも日常づかいするものなので、使う頻度が高い単語のはずだ。
本の背表紙を見て、何か読める単語がないかな、と流し読みしていく。
――と。
「スウィンベリー、の……何とかの、作る……作り方、かな?」
農業系の本だろうか。スウィンベリーの栽培方法とか? でも、お貴族様の書庫になんで栽培方法の本が?
まあ、でも知識なんて全く関係ないところでも意外と役に立つ時もあるものだし、貴族の屋敷だからこそ、ジャンルにこだわりなくいろいろ置いてあるのかもしれない。
「あ、特産品?」
そう言えばグラベイン名物なんだったっけ、スウィンベリー。もしかしたら、幅広い活用法とか、安定して育てられる栽培方法とか、そういうののために置いてあるのかもしれない。特産品の安定供給を考えるためなら、確かに領主の書庫にあってもおかしくないだろう。
わたしは本をとってぺらりとページをめくる。ジャムを食べて、ジュースを飲んだけれど、実際のスウィンベリーをわたしは知らない。ディルミックに教えてもらったので、木に果実が実る、というのは知っているのだが、前世の果物だと何が近いんだろうか。
そこまで堅苦しい本じゃなさそうだし、絵が載ってないかあ、とぺらぺら流し読みしていると……。
「これ……もしかしてレシピ本?」
料理のレシピ特有の書き方をされている本だった。スウィンベリー自体の絵は載っていないが、図説らしき部分には調理器具が描かれている。
お菓子文化が昔に廃れたとは聞いていたが、確かに本自体、古臭い。丁寧に扱われていたのか、綺麗に残っているのですぐには気が付かなかったが。本の最後のページ、奥付を確認すると、確かにかなり昔の本だった。
ぺらぺらとめくり――わたしはジャムクッキーらしきレシピを見つけた。一緒に載っている絵もそれっぽい。
意外なところで予想外な物を見つけてしまった。幸い、数字は万国共通で、マルルセーヌにいた頃から数字だけは読めるので、分量を読み解くことは簡単だ。
そして手順もなんとなくだが分かる。少なくとも食べられないレベルものは生成しなかったのだから。美味しくなかったけど。
「これは……頑張れば、クッキーのレシピが手に入るのでは!?」
わたしは俄然やる気になり、手にしていた本を持って再び机に戻った。
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