転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情
34
茶葉の販売店に来るのはいつぶりだろうか。カノルーヴァ領に嫁いで来てから半月くらい経ったが、一度も来なかったし、こっちに来ることが決まってからは準備に忙しくて、行っている暇がなかったし、一か月半くらいは来てなかっただろうか。
元々、マルルセーヌにいた頃も、月に一度か二度くらいしか訪れなかったものの、こうしてお茶から離れた生活をしていたら、新しい店でもなんだか懐かしさを感じるから不思議なものだ。
ずらりと並ぶ、サンプルの茶葉が入った半透明の窓が付いた丸い紅茶缶に、カウンター奥にはずらりと並ぶ、量り売り用の大きな紅茶缶。ティーパックや茶器も並んでいて、かなり品ぞろえのいい、大きな店だ。
あれもこれも、と買いたくなる衝動を、必死に抑える。紅茶は意外と賞味期限が長いのだが、かといって、調子に乗って買いすぎると、棚に収まりきらなくなるし飲み切れなくなる。
目的はファーストティーでふるまう茶葉だ。今後しばらく、お茶請けのお菓子の問題が解決するまではわたしが飲むだけだから、茶葉は二、三種類もあれば充分だろう。
わたしの好きな茶葉と、無難な茶葉を一つ、あとは……季節のフレーバーティーとか。ああ、でもオリジナルブレンドも気になるなあ。グラベインでどんなお茶が呑まれているのかすごく気になる。
わたしがどれにしよう、とあちこち行ったり来たりしていると、ふと強い視線を感じた。――ミルリだ。
「どうかした?」
わたしが彼女に聞くと、相変わらずの無表情ながらも、少し驚いたように肩を跳ねさせる。
「い、え……。なんでもありません」
なんでもありません、って反応じゃないけれど。露骨にさっと目をそらされた。
ミルリは基本的に無表情で分かりにくいが、感情が表に出にくいだけで、無感情というわけではないらしい。
なにか気まずいことでもあるのだろうか。
「あ、もしかして疲れた?」
確かに、あちこち無駄に行ったり来たり、しすぎたかもしれない。夢中になってて、後ろをついてくるミルリのことを考えていなかった。
しかし、違うようで、「そうではありません」と言われてしまった。そうでは、ということは、やはり何かしら思うものがあるというのか。なんだろう、気になる。
でも、ミルリは口を割りそうにない。彼女は何を気にしているというのか。
つい先日までは、いつも通り、普通だった。今日あったことと言えば、ミニキッチンが完成したことと、純銀貨五枚を貰ったことだ。
うーん。
「ミニキッチンの管理はわたしがするから、掃除とかもしなくていいし。ミルリの仕事は増えないよ?」
「……そうですか」
スンッと顔がいつもの無表情に戻る。急に何言ってんだろう、とか思ったんだろうか。どうやら外したらしい。
じゃあ、純銀貨五枚の方? どこに入れたか気になるとか? いやまあ、そりゃあ、金庫の中ですけど。
ちなみに金庫はダイヤル式の金庫で、中に、さらに鍵をかけることができる引き出しがついている。ダイヤルはわたしがここに来た日付にした。
あまりにも適当だと忘れそうだし、かといってわたしの誕生日とかは安直すぎだし。誕生日や連続した数字は暗証番号にするには不用心過ぎる。
でもそんなこと聞いてどうするんだろう。パクるとか? いや流石にそれはないだろう。雇い主の妻のお金を盗むために、直接暗証番号を聞き出そうとする使用人がどこにいる。
本気で分からないな。
結局、ミルリの隠し事は聞けないまま、紅茶を買って、屋敷へと戻った。
元々、マルルセーヌにいた頃も、月に一度か二度くらいしか訪れなかったものの、こうしてお茶から離れた生活をしていたら、新しい店でもなんだか懐かしさを感じるから不思議なものだ。
ずらりと並ぶ、サンプルの茶葉が入った半透明の窓が付いた丸い紅茶缶に、カウンター奥にはずらりと並ぶ、量り売り用の大きな紅茶缶。ティーパックや茶器も並んでいて、かなり品ぞろえのいい、大きな店だ。
あれもこれも、と買いたくなる衝動を、必死に抑える。紅茶は意外と賞味期限が長いのだが、かといって、調子に乗って買いすぎると、棚に収まりきらなくなるし飲み切れなくなる。
目的はファーストティーでふるまう茶葉だ。今後しばらく、お茶請けのお菓子の問題が解決するまではわたしが飲むだけだから、茶葉は二、三種類もあれば充分だろう。
わたしの好きな茶葉と、無難な茶葉を一つ、あとは……季節のフレーバーティーとか。ああ、でもオリジナルブレンドも気になるなあ。グラベインでどんなお茶が呑まれているのかすごく気になる。
わたしがどれにしよう、とあちこち行ったり来たりしていると、ふと強い視線を感じた。――ミルリだ。
「どうかした?」
わたしが彼女に聞くと、相変わらずの無表情ながらも、少し驚いたように肩を跳ねさせる。
「い、え……。なんでもありません」
なんでもありません、って反応じゃないけれど。露骨にさっと目をそらされた。
ミルリは基本的に無表情で分かりにくいが、感情が表に出にくいだけで、無感情というわけではないらしい。
なにか気まずいことでもあるのだろうか。
「あ、もしかして疲れた?」
確かに、あちこち無駄に行ったり来たり、しすぎたかもしれない。夢中になってて、後ろをついてくるミルリのことを考えていなかった。
しかし、違うようで、「そうではありません」と言われてしまった。そうでは、ということは、やはり何かしら思うものがあるというのか。なんだろう、気になる。
でも、ミルリは口を割りそうにない。彼女は何を気にしているというのか。
つい先日までは、いつも通り、普通だった。今日あったことと言えば、ミニキッチンが完成したことと、純銀貨五枚を貰ったことだ。
うーん。
「ミニキッチンの管理はわたしがするから、掃除とかもしなくていいし。ミルリの仕事は増えないよ?」
「……そうですか」
スンッと顔がいつもの無表情に戻る。急に何言ってんだろう、とか思ったんだろうか。どうやら外したらしい。
じゃあ、純銀貨五枚の方? どこに入れたか気になるとか? いやまあ、そりゃあ、金庫の中ですけど。
ちなみに金庫はダイヤル式の金庫で、中に、さらに鍵をかけることができる引き出しがついている。ダイヤルはわたしがここに来た日付にした。
あまりにも適当だと忘れそうだし、かといってわたしの誕生日とかは安直すぎだし。誕生日や連続した数字は暗証番号にするには不用心過ぎる。
でもそんなこと聞いてどうするんだろう。パクるとか? いや流石にそれはないだろう。雇い主の妻のお金を盗むために、直接暗証番号を聞き出そうとする使用人がどこにいる。
本気で分からないな。
結局、ミルリの隠し事は聞けないまま、紅茶を買って、屋敷へと戻った。
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