転生守銭奴女と卑屈貴族男の結婚事情

ゴルゴンゾーラ三国

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 グラベイン文字。
 ざっとみた感じでは、アルファベットに近い……と思う。
 ただ、男女差や地域差があり、ただ単にA~Zに対応している文字が大文字小文字ひとつづつでは済まない。アルファベットの癖に拗音の概念もあるようで、アルファベットのように二十六(大文字小文字を考えると五十二)種類を覚えればいいというわけでもなさそうだ。


 男女差ってなんだよ、とは思ったけれど、日本語でも文章に男女差あるしな。俺と私、とか。
 常用漢字数に比べたらかわいいもんなので、きっと覚えられる……はず。単語なんかは完全に暗記しないといけないわけだが。


 見よう見まねでわたしはノートにグラベイン文字を書く。女性用の南部グラベイン文字を。ここの屋敷やカノルヴァーレはグラベイン王国の南部に属しているので、覚えるならこれから覚えた方がいいだろう。
 ディルミックがくれた教本は、主に文字の一覧と、それに対応した単語が載っているものだった。日本語で例えるなら、「あ。ありんこ」みたいな。
 ページの最後の方には、「おはよう」「こんにちは」「ありがとう」などと言った簡単な挨拶の言葉が載っている……のだと思う。正直文字だけでよくわからないけど、その辺は絵が描かれているので想像力でカバーだ。


 本当に初歩の初歩である教本を渡してくれたらしい。下手に例文が載っているようなものより、こっちの方がありがたい。「これはペンですか?」「はい、これはペンです」みたいな、中学生英語程度の会話文ですら理解できないわけだし。
 一週間後には教本が届くらしいし、それまでに教本を見なくとも、女性南部グラベイン文字を読み書きできるのを目標にしよう。


「あ、いや男性のも読めないと駄目じゃん」


 わたしは思わず独り言ちた。うっかりしていた。今のわたしの目標は、ディルミックと文通することである。だから、男性用のグラベイン文字を書けなくても読めるようにならないといけない。
いちいち教本や辞書を引いて読むよりは、何もないで読めた方がいいだろう。


 ディルミックには仕事があるので、そう筆は早くならないだろうし、わたしまで解読や書くのに時間をかけていたら、往復するのにかなり時間がかかってしまうはずだ。
 来週までに、女性南部グラベイン文字を書けるようになって、男性南部グラベイン文字を読めるようになりたいな。単語は覚えられないだろうけど、文字がどれで、順番が分かるだけで辞書がぐっと引きやすくなるはずだ。


「いける……か?」


 勉強をするのは一体何年ぶりだろうか。今、わたしは二十二歳。前世は三十手前で命を落としたので、高校卒業以来はろくに勉強をしなかったので、三十年強ぶりといったところか。仕事で必要な勉強はしていたけれど、ノートを取っての勉強と言うのは、本当にそのくらいぶりだ。
 というかわたし、精神年齢だけ見たら五十超えてるのか……やば……。
 こうして数字だけ見るとおばあちゃんである。こちらに生まれ直ってからは、精神年齢が体に引っ張られているのか、二十二歳としての自覚しかない。
 まあ、余計なことは考えなくていい。


 必要な勉強で、目標があって。誰かに強制された勉強でなく、自ら学ぶものであれば、きっと楽しいだろうから。

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