【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
5-4 ★ 僕が参ります
山賊たちは、兄上とミミを人質に身代金を要求している。
――と、とんでもないことになってしまった。
「陛下には報告をあげたのか?」
「私は陛下より言伝を承ったのです。チャールズ殿下をお呼びでございます。すぐに陛下のお部屋へ向かいましょう」
「分かった。行こう」
僕は秘書のジーニーと一緒に執務室を飛び出した。
「殿下。リンドバーグ夫妻の他にもう一名、人質の情報が入っております」
「もう一名? 誰だ?」
階段を駆け上がりながら訊ねる。
「アリス・キャベンディッシュ。ミミ様の親戚でございますか?」
「アリス・キャベンディッシュだって!」
「ご存じなのですか!」
「知っているが会ったことはない。他国の貴族に嫁いだ親戚だと聞いた。でも……」
僕の記憶が正しければ、確か。
「御年八十は超えるご婦人だったはずだが」
まだ存命とは知らなかった。
――どこで合流したのだろうか。なぜ山賊などに? 兄上の馬車に同乗したとか?
「他に具体的な情報は?」
「いいえ。なにせまだ身代金の具体的な額も呈示されていないようなので。早馬で飛ばしても、情報に時間差が……」
「現地へ赴く必要があるな。分かった。とにかく人質の身の安全を確保することが最善だ」
僕は陛下の執務室に辿り着いた。
「陛下。チャールズでございます」
「は……入りなさい」
陛下は覇気が無く、木枯らしが吹いているような雰囲気だ。
「ああ、チャールズ。来てくれてありがとう」
「兄上とミミが山賊に捕まったと伺いました」
「そうらしい。ジーニー、どこまで話した?」
「陛下からうかがいましたことは全て」
「そう……そうかい」
――陛下がこんなに気を落とされるなんて。
兄上とミミを深く愛しているからだろう。
「父上。一刻も早く現地へ赴く必要があると思います」
「そうだね。身代金はいくらかかっても構わん。アルフレッドとミミさんの無事と引き換えになるのなら……ああ、まったく! シモンは何をやっているんだ。本来ならあの男から、まず一番に報告が届くはずなのに」
兄上とミミには、シモンを報告役としてこっそり同行させていたのである。僕の暗殺事件では、さよなら委員会の尾行と偵察で暗躍していたという。アラベラさんの話だと、天井裏にまでのぼって委員会の会合をうかがっていたというから驚きだ。
「シモン氏も山賊たちに攫われたのでは?」
ジーニーの言葉に、陛下は否定の仕草をした。
「あの男がそんなヘマをするものか。国外逃亡などと、ふざけた真似をしていたら、地の果てまで探し出す」
陛下を怒らせると怖い。
もしも裏切りならば彼の命は無いだろう。
――怪しい報告役でなく、きちんと護衛をつけるべきだったな。
今夏、僕がマイケル・ツルリンとして匿ってもらっている間、二人に散々水を差してしまった為「今回は夫婦水入らずにするべきだ」と護衛案は没になった。けれども王の子供として世間に周知された以上、身辺の警備を怠ってはいけなかったのだ。
「陛下。僕がザルフォークへ向かいます」
「チャールズ。おまえが?」
「兄上を心配される気持ちは陛下と同じでございます。陛下は国を離れるべきではございません。ですから僕が兄上を迎えに参ります」
陛下の目蓋の端に涙が浮かぶ。陛下が僕の前で涙を見せたのは初めてだ。
「チャールズ。おまえに頼もう。路銀と……身代金はいくらになるか現段階では分からないが多めに用意しよう。準備ができ次第、出立してくれ。おまえが来ることに関してはザルフォークへ早馬を出しておく」
「ありがとうございます。ではすぐに身支度を調えて参ります」
「くれぐれも気をつけて」
気をつけてと陛下にこの身を心配されたことが少しだけ嬉しかった。「万全を期します」と僕は一礼し、陛下の執務室を退出した。
【つづく】
――と、とんでもないことになってしまった。
「陛下には報告をあげたのか?」
「私は陛下より言伝を承ったのです。チャールズ殿下をお呼びでございます。すぐに陛下のお部屋へ向かいましょう」
「分かった。行こう」
僕は秘書のジーニーと一緒に執務室を飛び出した。
「殿下。リンドバーグ夫妻の他にもう一名、人質の情報が入っております」
「もう一名? 誰だ?」
階段を駆け上がりながら訊ねる。
「アリス・キャベンディッシュ。ミミ様の親戚でございますか?」
「アリス・キャベンディッシュだって!」
「ご存じなのですか!」
「知っているが会ったことはない。他国の貴族に嫁いだ親戚だと聞いた。でも……」
僕の記憶が正しければ、確か。
「御年八十は超えるご婦人だったはずだが」
まだ存命とは知らなかった。
――どこで合流したのだろうか。なぜ山賊などに? 兄上の馬車に同乗したとか?
「他に具体的な情報は?」
「いいえ。なにせまだ身代金の具体的な額も呈示されていないようなので。早馬で飛ばしても、情報に時間差が……」
「現地へ赴く必要があるな。分かった。とにかく人質の身の安全を確保することが最善だ」
僕は陛下の執務室に辿り着いた。
「陛下。チャールズでございます」
「は……入りなさい」
陛下は覇気が無く、木枯らしが吹いているような雰囲気だ。
「ああ、チャールズ。来てくれてありがとう」
「兄上とミミが山賊に捕まったと伺いました」
「そうらしい。ジーニー、どこまで話した?」
「陛下からうかがいましたことは全て」
「そう……そうかい」
――陛下がこんなに気を落とされるなんて。
兄上とミミを深く愛しているからだろう。
「父上。一刻も早く現地へ赴く必要があると思います」
「そうだね。身代金はいくらかかっても構わん。アルフレッドとミミさんの無事と引き換えになるのなら……ああ、まったく! シモンは何をやっているんだ。本来ならあの男から、まず一番に報告が届くはずなのに」
兄上とミミには、シモンを報告役としてこっそり同行させていたのである。僕の暗殺事件では、さよなら委員会の尾行と偵察で暗躍していたという。アラベラさんの話だと、天井裏にまでのぼって委員会の会合をうかがっていたというから驚きだ。
「シモン氏も山賊たちに攫われたのでは?」
ジーニーの言葉に、陛下は否定の仕草をした。
「あの男がそんなヘマをするものか。国外逃亡などと、ふざけた真似をしていたら、地の果てまで探し出す」
陛下を怒らせると怖い。
もしも裏切りならば彼の命は無いだろう。
――怪しい報告役でなく、きちんと護衛をつけるべきだったな。
今夏、僕がマイケル・ツルリンとして匿ってもらっている間、二人に散々水を差してしまった為「今回は夫婦水入らずにするべきだ」と護衛案は没になった。けれども王の子供として世間に周知された以上、身辺の警備を怠ってはいけなかったのだ。
「陛下。僕がザルフォークへ向かいます」
「チャールズ。おまえが?」
「兄上を心配される気持ちは陛下と同じでございます。陛下は国を離れるべきではございません。ですから僕が兄上を迎えに参ります」
陛下の目蓋の端に涙が浮かぶ。陛下が僕の前で涙を見せたのは初めてだ。
「チャールズ。おまえに頼もう。路銀と……身代金はいくらになるか現段階では分からないが多めに用意しよう。準備ができ次第、出立してくれ。おまえが来ることに関してはザルフォークへ早馬を出しておく」
「ありがとうございます。ではすぐに身支度を調えて参ります」
「くれぐれも気をつけて」
気をつけてと陛下にこの身を心配されたことが少しだけ嬉しかった。「万全を期します」と僕は一礼し、陛下の執務室を退出した。
【つづく】
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