【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
4-6 ★ 下着泥棒の貴重なご意見
「いつぞやだったか、私の至らない点を、奥様から諭された後、思い立って自分探しの旅に出ましたの」
「それは知ってる。急に姿が見えなくなったものだから、エロイーズに聞いたわ。パムは諸国漫遊の旅に出たって話していたわよ」
「はい! 私の後学の為ならと、父が快く送り出してくれましたわ」
「貴女のお父様はさぞお嘆きでしょうね。こんなことになって」
「そうなんです。実は旅の最中に、山賊たちの野営地を見つけましてね。くすねた金銀財宝を、誰が隣町の質屋に持って行くのか、あくどい相談をしていました。勿論私はすぐに届け出ようと思いましたが、お腹が空いて空いて……。彼らのご飯を盗み食いをしていたら、捕まって」
――そんなこったろうと思った。無銭飲食で山賊の御用になったらわけないな。
「それで私、勢いで嘘をついてしまいましたの。私は探偵だ。おまえたちの顔は質屋に割れているぞ。買取査定の間に裏口からこっそり警察を呼ばれて、逮捕だ御用だ、と」
――なんとまぁ。天晴れな虚言癖だ。
「どの質屋なら顔が割れずに金品を取引できるのか教えろ。探偵のおまえなら知っているだろうということで、私、捕まっちゃいました」
――アホ過ぎる。ギメラの嘘を信じた山賊たちもな。
「それが三日前でした。この要塞にはまだ換金できていない盗品が結構あるみたいですよ」
「どんな要塞なの?」
ミミが聞き返す。
「旧王政時代の建物ですわ。中央の建物を、高い塀が四方囲んでいます。そんなに大きくありません。ヴェルノーンの王城の二十分の一くらいですわね」
うちの王城は無駄に大きいからな。築城に五百年をかけただけはある。
「要塞の上の階に、お頭や腰巾着が寝ていて、その他は下の階で雑魚寝です。台所とお便所は一階ですわ。建物の玄関、勝手口、塀の表口と裏口にも、交替で見張りがいます」
「ちょっと待って、パム。三日前に捕まったばかりという割に、貴女どうしてそんなに詳しいのよ?」
「ちょくちょく抜け出しましたから」
「なんですって?」
「牢屋の鍵はここに」
ギメラの手には小さな鍵が握られていた。
「どこでそれを! いや、どうやって手に入れたの?」
「ふっふっふっ。長年培ってきた経験によるものですわ、奥様」
――ギメラが俺の私物を盗んでいたのは本当だな。確信犯だ。
「鍵束に合鍵が五つもぶら下がっていたら、一本くらい拝借しても分かりませんよ。だってここの山賊、お馬鹿さんの集まりですから」
山賊たちも下着泥棒に見下されているとは思うまい。
「この牢屋はどの鍵で開けても同じですわ」
「今すぐ、私たちの牢屋を開けなさい」
「そう急かさないで奥様。物事には好機がございます。私、脱走の機会を虎視眈々とうかがっておりましたの」
得意げな表情のギメラ。妄想癖と虚言癖、手癖も悪いようだが、下着泥棒で身につけた経験を活かし、牢屋の鍵を盗んだことには感謝、現在唯一の希望だ。ここは下着泥棒改め鍵泥棒ギメラの貴重な意見を聞かねばなるまい。
「見回りはいつも昼のご飯時です。昼食は先程終わってしまったので、次のご飯は明日ですわね。見張りが、ふら~っと来ることもあるかもしれませんがその時はその時」
――その、ふら~っと来る時が一番危なくないか。予測不可能じゃないか。
「私が考えていた脱出方法はこうです。真夜中、山賊たちが酒盛りをしている最中に、塀の裏口からこっそり脱出するんですよ。食料などを出し入れする場所からね。最大の問題である裏口の見張りは気絶させます」
「その気絶させる方法は?」
「司祭様。こういう時は力業ですよ。後ろから頭をガツンと一発やるのが最善ですわ」
「それで死ぬ人もいるんですよ、ギメラさん」
「だから私、パメ……」
「後頭部殴打以外の方法にしましょう。力業ありきで計画を立てると、時と場合によっては失敗する恐れがあります。殴りかかった方が殴られ、酷い目に遭わされることも考え得る」
「では他に何か良い考えがあると?」
「今考えています。山賊たちは毎晩、お酒を飲んでいるのですか?」
「はい。盗んだ酒を浴びるように飲んでいますよ。地下牢まで下手くそな歌声が聞こえてくるくらいですもの」
「なるほど。賊の酩酊時を狙うのが良いですね。彼らの冷静な判断力が鈍っているところを突いて、より安全に脱出するなら内側に仕掛けを施しましょう」
「内側に仕掛け、というと?」
ギメラが聞き返す。
「例えば、小火騒ぎとか?」
火事場泥棒ならぬ火事場脱出だ。
「あちらはまず火元を確認するでしょう。そして俺たちは、煙を利用して逃げます。暗くなって、山賊が酒盛りを始めたら、早速抜け出しましょう」
俺たちは日が暮れるのを待った。こんなに時間が長く感じたことは無い。
【つづく】
「それは知ってる。急に姿が見えなくなったものだから、エロイーズに聞いたわ。パムは諸国漫遊の旅に出たって話していたわよ」
「はい! 私の後学の為ならと、父が快く送り出してくれましたわ」
「貴女のお父様はさぞお嘆きでしょうね。こんなことになって」
「そうなんです。実は旅の最中に、山賊たちの野営地を見つけましてね。くすねた金銀財宝を、誰が隣町の質屋に持って行くのか、あくどい相談をしていました。勿論私はすぐに届け出ようと思いましたが、お腹が空いて空いて……。彼らのご飯を盗み食いをしていたら、捕まって」
――そんなこったろうと思った。無銭飲食で山賊の御用になったらわけないな。
「それで私、勢いで嘘をついてしまいましたの。私は探偵だ。おまえたちの顔は質屋に割れているぞ。買取査定の間に裏口からこっそり警察を呼ばれて、逮捕だ御用だ、と」
――なんとまぁ。天晴れな虚言癖だ。
「どの質屋なら顔が割れずに金品を取引できるのか教えろ。探偵のおまえなら知っているだろうということで、私、捕まっちゃいました」
――アホ過ぎる。ギメラの嘘を信じた山賊たちもな。
「それが三日前でした。この要塞にはまだ換金できていない盗品が結構あるみたいですよ」
「どんな要塞なの?」
ミミが聞き返す。
「旧王政時代の建物ですわ。中央の建物を、高い塀が四方囲んでいます。そんなに大きくありません。ヴェルノーンの王城の二十分の一くらいですわね」
うちの王城は無駄に大きいからな。築城に五百年をかけただけはある。
「要塞の上の階に、お頭や腰巾着が寝ていて、その他は下の階で雑魚寝です。台所とお便所は一階ですわ。建物の玄関、勝手口、塀の表口と裏口にも、交替で見張りがいます」
「ちょっと待って、パム。三日前に捕まったばかりという割に、貴女どうしてそんなに詳しいのよ?」
「ちょくちょく抜け出しましたから」
「なんですって?」
「牢屋の鍵はここに」
ギメラの手には小さな鍵が握られていた。
「どこでそれを! いや、どうやって手に入れたの?」
「ふっふっふっ。長年培ってきた経験によるものですわ、奥様」
――ギメラが俺の私物を盗んでいたのは本当だな。確信犯だ。
「鍵束に合鍵が五つもぶら下がっていたら、一本くらい拝借しても分かりませんよ。だってここの山賊、お馬鹿さんの集まりですから」
山賊たちも下着泥棒に見下されているとは思うまい。
「この牢屋はどの鍵で開けても同じですわ」
「今すぐ、私たちの牢屋を開けなさい」
「そう急かさないで奥様。物事には好機がございます。私、脱走の機会を虎視眈々とうかがっておりましたの」
得意げな表情のギメラ。妄想癖と虚言癖、手癖も悪いようだが、下着泥棒で身につけた経験を活かし、牢屋の鍵を盗んだことには感謝、現在唯一の希望だ。ここは下着泥棒改め鍵泥棒ギメラの貴重な意見を聞かねばなるまい。
「見回りはいつも昼のご飯時です。昼食は先程終わってしまったので、次のご飯は明日ですわね。見張りが、ふら~っと来ることもあるかもしれませんがその時はその時」
――その、ふら~っと来る時が一番危なくないか。予測不可能じゃないか。
「私が考えていた脱出方法はこうです。真夜中、山賊たちが酒盛りをしている最中に、塀の裏口からこっそり脱出するんですよ。食料などを出し入れする場所からね。最大の問題である裏口の見張りは気絶させます」
「その気絶させる方法は?」
「司祭様。こういう時は力業ですよ。後ろから頭をガツンと一発やるのが最善ですわ」
「それで死ぬ人もいるんですよ、ギメラさん」
「だから私、パメ……」
「後頭部殴打以外の方法にしましょう。力業ありきで計画を立てると、時と場合によっては失敗する恐れがあります。殴りかかった方が殴られ、酷い目に遭わされることも考え得る」
「では他に何か良い考えがあると?」
「今考えています。山賊たちは毎晩、お酒を飲んでいるのですか?」
「はい。盗んだ酒を浴びるように飲んでいますよ。地下牢まで下手くそな歌声が聞こえてくるくらいですもの」
「なるほど。賊の酩酊時を狙うのが良いですね。彼らの冷静な判断力が鈍っているところを突いて、より安全に脱出するなら内側に仕掛けを施しましょう」
「内側に仕掛け、というと?」
ギメラが聞き返す。
「例えば、小火騒ぎとか?」
火事場泥棒ならぬ火事場脱出だ。
「あちらはまず火元を確認するでしょう。そして俺たちは、煙を利用して逃げます。暗くなって、山賊が酒盛りを始めたら、早速抜け出しましょう」
俺たちは日が暮れるのを待った。こんなに時間が長く感じたことは無い。
【つづく】
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