【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
3-5 ★ 教皇区へ
「そう、それだ! チャールズのおかげでひらめいた!」
「へ? チャールズのおかげ?」
「旅程を考えてくれた弟に感謝。ミミ、急いで宿に戻ろう」
「えっ、ええ? ちょっとアル!」
私たちは急ぎ宿へと駆け戻った。
宿に着くと、女将さんに御礼を言い、王女様の待つ屋根裏へ駆け上がった。
「ああ、良かった。お二人が無事に帰ってこられて。それで……どうでした?」
王女様はカタカタと震え、目に涙を溜めた。
「一から話します。よく聞いて」
警察が取り合ってくれなかったことを含め、アルは過不足なく王女様に情報を伝えた。
「ど、どうしたら良いのでしょう。どこで真実を訴えれば? お先真っ暗ですわ!」
マーガレット王女様は机にゴトンと頭をのせた。
「打開策はあります。弟チャールズが考えてくれた旅程に沿って、俺たちは今日、教皇区へ向かう予定でした」
「教皇区へ?」
王女様は目をぱちくりとした。
「警察が相手にしてくれないとなれば、他に信用のおける機関といえば一つしかありません。王女様、今すぐに俺たちと教皇区へ向かいましょう」
教皇区はザルフォーク連合国の中に存在する世界最小の国家。北のモンスーン王国、東のエデン王国の国境沿いに位置する為、各国から様々な人が訪れ、時に救いを求めて教皇の慈悲と施しを受ける場所だ。中立の立場を守る教皇の膝元で国際会議が開かれることもしばしばである。
「エデン警察も、ザルフォーク警察も信用できない。黒幕が誰かは分からないですが、王女様をおとしめようとする罠がどこに仕掛けられているか分かりません」
「確かに……そうでございますね」
「教皇のお膝元ならば、さすがの黒幕も手出しできません。あそこはザルフォークの中に存在する別の国も同然です。行方不明者や難民の手続きも、時には罪人すらも面倒を見てくれる場所です」
さすが国教会の司祭ね。かつてヴェルノーン王国は宗教面において教皇の傘下であったけれど、国王の結婚問題で袂を分かつことになり、国教会が誕生した。アルフレッドは自分の所属する機関だけでなく、教皇側の宗派についても広く学んでいる。
――多元主義的で、万事に寛容な姿勢だからこそ、アルは博識なのね。
「冤罪を着せられ、受難を被った高貴な御方とあらば、必ず救済措置をとってくれるはずだ。ひょっとすると王女様は、教皇様もしくは高位の聖職者と面識があるのでは?」
アルが訊ねると、王女様は「はい!」と首を二度盾に振った。
「教皇様とも、教皇区の皆様とも、幾度か面識がございます」
「それならより好都合だ。貴女が間違い無く本物の王女様だと分かってくださる方が必ずおられるはずです」
聖職者のアルフレッドらしい発想、最善の打開策だわ。
「私の旅券は偽物で、ビアンカ・シュタインの名が記されています。本当に入ることができるのでしょうか?」
「ザルフォーク側からの入国ならば、旅券の提示は必要ありません」
アルは旅行本の付箋が貼ったページを開いて私と王女様に見せた。
ザルフォーク連合国がまだ君主制であった時、教皇は王様と蜜月な関係にあり、様々な特権を与えられていた。君主制解体後も、教皇区だけはザルフォークの政治的干渉を殆ど受けない、いわば独立地帯となっており、信徒と聖職者の熱烈な運動を経て、地位・特権・優遇措置を維持したまま現在に至る。
「そうですか。このビアンカ・シュタインの偽造旅券をもう使わなくて済むのですね」
マーガレット王女は目を三角にして、偽の旅券を握りしめた。
「まるで呪いの御札ですわ。東から西へ国境を越える時には、私の指名手配はされていなかったので問題なく使えましたが、こんなもの二度と人に見せられませんわ。ビリビリに引き裂きましょう」
「待ってください。お気持ちは分かりますが、貴女が騙された証拠になるかもしれない。その旅券を、もう一度見せていただけますか」
アルは偽造旅券を受け取ると、ランプの光にかざす。ヴェルノーン王国で発行された自分の旅券と並べて見比べた。
「ヴェルノーンが発行する旅券とは、紙の材質や塗り、判の押し方もかなり異なるようですね。偽造された旅券には、偽札同様に、本物と明らかに違う点があったりするものなのです。発行機関、発行日、偽造防止の特殊な印刷。この手に詳しい者に見せて鑑定した方が良い」
「分かりましたわ。教皇区に着くまで、誰にも見られないように致します」
マーガレット王女は偽の旅券を、鞄の奥にしまった。
「善は急げ。さあ、すぐに出発しましょう」
王女様は「お世話をかけます」と深々と頭を下げた。
【つづく】
★お知らせ★
まんが王国様にて【リンドバーグの救済:単行本版:第1巻】が発売されました。第1話~第5話が収録されています。ぜひお手にとってみてください。
「へ? チャールズのおかげ?」
「旅程を考えてくれた弟に感謝。ミミ、急いで宿に戻ろう」
「えっ、ええ? ちょっとアル!」
私たちは急ぎ宿へと駆け戻った。
宿に着くと、女将さんに御礼を言い、王女様の待つ屋根裏へ駆け上がった。
「ああ、良かった。お二人が無事に帰ってこられて。それで……どうでした?」
王女様はカタカタと震え、目に涙を溜めた。
「一から話します。よく聞いて」
警察が取り合ってくれなかったことを含め、アルは過不足なく王女様に情報を伝えた。
「ど、どうしたら良いのでしょう。どこで真実を訴えれば? お先真っ暗ですわ!」
マーガレット王女様は机にゴトンと頭をのせた。
「打開策はあります。弟チャールズが考えてくれた旅程に沿って、俺たちは今日、教皇区へ向かう予定でした」
「教皇区へ?」
王女様は目をぱちくりとした。
「警察が相手にしてくれないとなれば、他に信用のおける機関といえば一つしかありません。王女様、今すぐに俺たちと教皇区へ向かいましょう」
教皇区はザルフォーク連合国の中に存在する世界最小の国家。北のモンスーン王国、東のエデン王国の国境沿いに位置する為、各国から様々な人が訪れ、時に救いを求めて教皇の慈悲と施しを受ける場所だ。中立の立場を守る教皇の膝元で国際会議が開かれることもしばしばである。
「エデン警察も、ザルフォーク警察も信用できない。黒幕が誰かは分からないですが、王女様をおとしめようとする罠がどこに仕掛けられているか分かりません」
「確かに……そうでございますね」
「教皇のお膝元ならば、さすがの黒幕も手出しできません。あそこはザルフォークの中に存在する別の国も同然です。行方不明者や難民の手続きも、時には罪人すらも面倒を見てくれる場所です」
さすが国教会の司祭ね。かつてヴェルノーン王国は宗教面において教皇の傘下であったけれど、国王の結婚問題で袂を分かつことになり、国教会が誕生した。アルフレッドは自分の所属する機関だけでなく、教皇側の宗派についても広く学んでいる。
――多元主義的で、万事に寛容な姿勢だからこそ、アルは博識なのね。
「冤罪を着せられ、受難を被った高貴な御方とあらば、必ず救済措置をとってくれるはずだ。ひょっとすると王女様は、教皇様もしくは高位の聖職者と面識があるのでは?」
アルが訊ねると、王女様は「はい!」と首を二度盾に振った。
「教皇様とも、教皇区の皆様とも、幾度か面識がございます」
「それならより好都合だ。貴女が間違い無く本物の王女様だと分かってくださる方が必ずおられるはずです」
聖職者のアルフレッドらしい発想、最善の打開策だわ。
「私の旅券は偽物で、ビアンカ・シュタインの名が記されています。本当に入ることができるのでしょうか?」
「ザルフォーク側からの入国ならば、旅券の提示は必要ありません」
アルは旅行本の付箋が貼ったページを開いて私と王女様に見せた。
ザルフォーク連合国がまだ君主制であった時、教皇は王様と蜜月な関係にあり、様々な特権を与えられていた。君主制解体後も、教皇区だけはザルフォークの政治的干渉を殆ど受けない、いわば独立地帯となっており、信徒と聖職者の熱烈な運動を経て、地位・特権・優遇措置を維持したまま現在に至る。
「そうですか。このビアンカ・シュタインの偽造旅券をもう使わなくて済むのですね」
マーガレット王女は目を三角にして、偽の旅券を握りしめた。
「まるで呪いの御札ですわ。東から西へ国境を越える時には、私の指名手配はされていなかったので問題なく使えましたが、こんなもの二度と人に見せられませんわ。ビリビリに引き裂きましょう」
「待ってください。お気持ちは分かりますが、貴女が騙された証拠になるかもしれない。その旅券を、もう一度見せていただけますか」
アルは偽造旅券を受け取ると、ランプの光にかざす。ヴェルノーン王国で発行された自分の旅券と並べて見比べた。
「ヴェルノーンが発行する旅券とは、紙の材質や塗り、判の押し方もかなり異なるようですね。偽造された旅券には、偽札同様に、本物と明らかに違う点があったりするものなのです。発行機関、発行日、偽造防止の特殊な印刷。この手に詳しい者に見せて鑑定した方が良い」
「分かりましたわ。教皇区に着くまで、誰にも見られないように致します」
マーガレット王女は偽の旅券を、鞄の奥にしまった。
「善は急げ。さあ、すぐに出発しましょう」
王女様は「お世話をかけます」と深々と頭を下げた。
【つづく】
★お知らせ★
まんが王国様にて【リンドバーグの救済:単行本版:第1巻】が発売されました。第1話~第5話が収録されています。ぜひお手にとってみてください。
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