【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
2-1 ★ 貴方の意識していないところに
【第2章】は、アルが語り手です。
贈り物に関して、ミミは相当の目利きである。男性が「女性が喜ぶ」と思うものと、女性が「男性が喜ぶ」と考えるものは異なるので、選ぶのは難しいと思ったが、
「悩む時間がもったいない。花が一番よ。ただし植木鉢はダメ。白い籠に秋の花がいいわね。それから日持ちする焼き菓子を揃えましょう」
ということだったので、宿屋の近くにあった花屋で上等な花籠を作ってもらうことにした。町を一通り観光がてら贈答のお菓子を買い求める。夕方、花屋へ頼んでいたものを取りにうかがうと、手持ちの付いた白籠に、紅と黄を基調とした秋の花々が盛られていた。ミミが花屋に希望した通りのものだ。これで誕生日会に手ぶらで参加する心配は無くなった。
俺とミミは夜会用の衣装を身に纏った。旅程には服装に指定のある場所があったので、あらかじめ旅行鞄に詰めておいたのだ。花籠を携え、チーズマン美術館へ向かうと、すでにお客さんが列をなしており、メラニーは城の入り口で一人一人と挨拶を交わしていた。
「まあ! リンドバーグさん!」
メラニーは俺たちの姿を見つけると、深紅のドレスを翻し、足早にやってきた。「リンドバーグ?」「噂の?」と参列客のささやき声が聞こえる。あんまり注目されるのは御免だ。
「本日はご足労いただき感謝申し上げますわ」
「お誕生日おめでとうございます」
「こちら、ささやかな物ですが、どうぞ」
俺とミミが花籠と菓子の包みを差し出すと、メラニーは頬を紅潮させ「ありがとうございます」と一礼した。
「リンドバーグ夫妻からお花とお菓子をいただけるなんて今日はなんて嬉しい日でしょう。さあ、どうぞ中へお入りください」
メラニーは世話係らしき男に、花束とお菓子を預けた。「持ち運びしやすい形で」とミミが言ったのは正しかった。花籠なので置きやすく、お菓子も箱入りなので整理と保管がしやすい。受付の机には転げやすい贈り物がところ狭しと置いてある。
「ミミの贈り物で正解だったね。選んでくれてありがとう」
大広間へ続く通路を歩きながら、俺は隣のミミに囁いた。
「社交上、いろいろいただいたからね。自分がもらったらどう思うかを考えるのが一番なの。お金持ちは、贈り物がどれくらいの価格か判別をつけるわ。花や菓子は当たり障りが無いけれど、安いもので量だけ見せようとするとすぐに気付かれちゃうのよね」
「なるほど、勉強になる」
大広間から音楽が聞こえてくる。磨かれた大理石の間に一歩入ると、俺とミミの靴が同時にコトンと音を立てた。弦楽五重奏の優雅な音色が鳴り響く中、招待客たちは各々会話と食事を楽しんでいる。立食形式で好きなものを皿に取り分けて良いようだ。女中が忙しなく料理のおかわりやお酒を広間へ運んでくる。
「お飲み物はいかがですか」
そばにいた女中から炭酸酒を薦められた。俺は二人分いただいてミミと乾杯した。
「こういう華やかな宴は初めてだ」
「国教会の祭礼でも? 祝祭に招かれる主教を見たことがあるわ」
「大聖堂の主教や、主要教区担当の人はね。晩餐会には不慣れだから、俺に至らないところがあれば、教えて」
「大丈夫よ。貴方は貴方のままで。私が教えることは何もないわ」
「本当に?」
「ええ。立ち姿が綺麗だもの。まずはそこから満点。お酒の飲み方も美しいわ。貴方の意識していないところに教養と品性がある」
「お褒めにあずかり光栄です」
俺はミミの手をすくいとって、甲にキスをする。音楽が変わり、招待客たちが舞踏を始めた。
「踊る? アルフレッド」
「いや。せっかくミミに褒めてもらったのに、俺は踊り方を教わったことが無いんだ」
「ふふ。アルに出来ないことを一つ知ったわ」
「良かったら、教えてくれないかい?」
「喜んで」
ミミは俺の手をすくい取った。彼女の腰に手をあて、周囲の客の見よう見まねで身体を揺らす。
「アル、とても上手だわ」
「ミミが上手なんだよ。チャールズはどうだった?」
「人並みにはね。でもこういうゆったりとした曲が苦手で、踊りながら今にも眠りそうな半眼なのよ。恥ずかしかったんだから」
「踊りながら寝るとは、流石は俺の弟。なかなか出来る芸当じゃない」
チャールズを起こしながら踊るミミの姿を頭に浮かべ、思わず笑ってしまった。とはいえ俺も人のことを言えたものじゃない。ミミが上手だから俺の不慣れさが際立っていないが、もう少し勉強しなければならない。音楽が切り替わると、ミミと食事を楽しみながら、他の人の舞踏を観察した。まずは目で見て勉強だ。
「リンドバーグさん」
メラニー・チーズマンが俺たちに声をかけてきた。
「先程はご挨拶も漫ろで申し訳ございませんでした。お集まりいただいた皆様に、お二人をご紹介したいのですが、構いませんか」
「そんな、お嬢様にご紹介いただくなど、恐れ多いです」
「貴方はギョーム陛下の長子。奥様は侯爵家のご令嬢ではございませんか。お声がけするのが恐れ多いのは当方です。せっかくお越しいただいたのですから、是非にもご紹介の任にあずからせてください。さあ中央へどうぞ」
促されるがままメラニーと広間の中央へ。
音楽が鳴り止み、招待客の視線が俺たちへ集まった。
【つづく】
2023年11月15日【いい遺言の日】より、まんが王国様にて、コミカライズが配信開始となりました。素晴らしい作品になっているので、ぜひお読みくださいませ!
▼URL
https://comic.k-manga.jp/title/188545/pv
贈り物に関して、ミミは相当の目利きである。男性が「女性が喜ぶ」と思うものと、女性が「男性が喜ぶ」と考えるものは異なるので、選ぶのは難しいと思ったが、
「悩む時間がもったいない。花が一番よ。ただし植木鉢はダメ。白い籠に秋の花がいいわね。それから日持ちする焼き菓子を揃えましょう」
ということだったので、宿屋の近くにあった花屋で上等な花籠を作ってもらうことにした。町を一通り観光がてら贈答のお菓子を買い求める。夕方、花屋へ頼んでいたものを取りにうかがうと、手持ちの付いた白籠に、紅と黄を基調とした秋の花々が盛られていた。ミミが花屋に希望した通りのものだ。これで誕生日会に手ぶらで参加する心配は無くなった。
俺とミミは夜会用の衣装を身に纏った。旅程には服装に指定のある場所があったので、あらかじめ旅行鞄に詰めておいたのだ。花籠を携え、チーズマン美術館へ向かうと、すでにお客さんが列をなしており、メラニーは城の入り口で一人一人と挨拶を交わしていた。
「まあ! リンドバーグさん!」
メラニーは俺たちの姿を見つけると、深紅のドレスを翻し、足早にやってきた。「リンドバーグ?」「噂の?」と参列客のささやき声が聞こえる。あんまり注目されるのは御免だ。
「本日はご足労いただき感謝申し上げますわ」
「お誕生日おめでとうございます」
「こちら、ささやかな物ですが、どうぞ」
俺とミミが花籠と菓子の包みを差し出すと、メラニーは頬を紅潮させ「ありがとうございます」と一礼した。
「リンドバーグ夫妻からお花とお菓子をいただけるなんて今日はなんて嬉しい日でしょう。さあ、どうぞ中へお入りください」
メラニーは世話係らしき男に、花束とお菓子を預けた。「持ち運びしやすい形で」とミミが言ったのは正しかった。花籠なので置きやすく、お菓子も箱入りなので整理と保管がしやすい。受付の机には転げやすい贈り物がところ狭しと置いてある。
「ミミの贈り物で正解だったね。選んでくれてありがとう」
大広間へ続く通路を歩きながら、俺は隣のミミに囁いた。
「社交上、いろいろいただいたからね。自分がもらったらどう思うかを考えるのが一番なの。お金持ちは、贈り物がどれくらいの価格か判別をつけるわ。花や菓子は当たり障りが無いけれど、安いもので量だけ見せようとするとすぐに気付かれちゃうのよね」
「なるほど、勉強になる」
大広間から音楽が聞こえてくる。磨かれた大理石の間に一歩入ると、俺とミミの靴が同時にコトンと音を立てた。弦楽五重奏の優雅な音色が鳴り響く中、招待客たちは各々会話と食事を楽しんでいる。立食形式で好きなものを皿に取り分けて良いようだ。女中が忙しなく料理のおかわりやお酒を広間へ運んでくる。
「お飲み物はいかがですか」
そばにいた女中から炭酸酒を薦められた。俺は二人分いただいてミミと乾杯した。
「こういう華やかな宴は初めてだ」
「国教会の祭礼でも? 祝祭に招かれる主教を見たことがあるわ」
「大聖堂の主教や、主要教区担当の人はね。晩餐会には不慣れだから、俺に至らないところがあれば、教えて」
「大丈夫よ。貴方は貴方のままで。私が教えることは何もないわ」
「本当に?」
「ええ。立ち姿が綺麗だもの。まずはそこから満点。お酒の飲み方も美しいわ。貴方の意識していないところに教養と品性がある」
「お褒めにあずかり光栄です」
俺はミミの手をすくいとって、甲にキスをする。音楽が変わり、招待客たちが舞踏を始めた。
「踊る? アルフレッド」
「いや。せっかくミミに褒めてもらったのに、俺は踊り方を教わったことが無いんだ」
「ふふ。アルに出来ないことを一つ知ったわ」
「良かったら、教えてくれないかい?」
「喜んで」
ミミは俺の手をすくい取った。彼女の腰に手をあて、周囲の客の見よう見まねで身体を揺らす。
「アル、とても上手だわ」
「ミミが上手なんだよ。チャールズはどうだった?」
「人並みにはね。でもこういうゆったりとした曲が苦手で、踊りながら今にも眠りそうな半眼なのよ。恥ずかしかったんだから」
「踊りながら寝るとは、流石は俺の弟。なかなか出来る芸当じゃない」
チャールズを起こしながら踊るミミの姿を頭に浮かべ、思わず笑ってしまった。とはいえ俺も人のことを言えたものじゃない。ミミが上手だから俺の不慣れさが際立っていないが、もう少し勉強しなければならない。音楽が切り替わると、ミミと食事を楽しみながら、他の人の舞踏を観察した。まずは目で見て勉強だ。
「リンドバーグさん」
メラニー・チーズマンが俺たちに声をかけてきた。
「先程はご挨拶も漫ろで申し訳ございませんでした。お集まりいただいた皆様に、お二人をご紹介したいのですが、構いませんか」
「そんな、お嬢様にご紹介いただくなど、恐れ多いです」
「貴方はギョーム陛下の長子。奥様は侯爵家のご令嬢ではございませんか。お声がけするのが恐れ多いのは当方です。せっかくお越しいただいたのですから、是非にもご紹介の任にあずからせてください。さあ中央へどうぞ」
促されるがままメラニーと広間の中央へ。
音楽が鳴り止み、招待客の視線が俺たちへ集まった。
【つづく】
2023年11月15日【いい遺言の日】より、まんが王国様にて、コミカライズが配信開始となりました。素晴らしい作品になっているので、ぜひお読みくださいませ!
▼URL
https://comic.k-manga.jp/title/188545/pv
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