【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
1-8 ★ 自慢話が長い!
「私、メラニー・チーズマンと申します。城主であり、当美術館の館長を務めております」
メラニーはしなやかにお辞儀をした。
「アルフレッド・リンドバーグです」
「ミミ・リンドバーグですわ」
「お目にかかれて誠に光栄です」
私とアルは、メラニーと握手を交わした。
「お二人は芸術に造詣が深いのですね。お気に入りの名画はございました?」
「はい。こちらの絵に心奪われておりました」
アルが修道士の絵を示すと、メラニーは「まぁ」と表情をほころばせた。
「こちらは先々代の当主が大事にしていた絵画でございます。我が城には代々の当主が集めた名品珍品が眠っておりましてね。誕生日の贈り物に、この城に纏わる権利をいただきましたの」
メラニーはこの城を美術館にした経緯について饒舌に語り始めた。気になったのは、美術館経営に関する諸事を「全て私が始めた」と彼女がやたら主張することだ。
――自慢話が長い人は苦手よ。
旧城の管理は、現在の領主つまりは彼女の父親の負担になっていたそうだ。そこで娘の彼女が管理をすることになり、現在は観光資源として活かしているというだけの経緯なのに、話題があっちこっちへ逸れる。
「遠路はるばるこの地へいらしたのですから、どうぞおくつろぎください。そうだわ、今晩だけでも、お二人のお時間をいただくことはできないでしょうか」
私とアルは顔を見合わせる。旅行に来てまで人に気を遣うのは御免だが……相手はこの地をかつて治めていた元領主の子孫。アルの実父が国王陛下だと世間に知れた以上、他国の領主や名家からの歓待を無下にするのは良くないかもしれない。勝手に仲良くしてはならない一族もいるけれど。
「ギョーム国王陛下も以前、チャールズ殿下とこの地へご滞在なさったことがございます。その際には、この城ではなく、我が一族が現在暮らしている屋敷にてお招き致しましたわ。ご子息であるアルフレッド殿下と奥方のミミ様に、ぜひおくつろぎいただきたいのです」
――ますます断りにくい。いや断りにくいように会話を誘導しているわね。
ヴェルノーン王国の社交界でもよくみられるやりとりね。下心を以て賓客を招待するのだ。
――どんなもてなしを? あまり派手にされると目立つし困るわ。後日、御礼をするのも大変だし。
「今夜、私の誕生日会が開かれますの」
――貴女の……誕生日会ね。へぇ。
「本日は、私が城を受け継いだ日から三周年なのです。この城の大広間で宴を開く予定ですの。リンドバーグご夫妻にご参席いただけたら、素晴らしい夜になりますわ、きっと。ご招待を受けていただけないでしょうか」
――断りにくいわ。
今夜は、宿でアルと過ごすくらいしか予定は無かったけれども。アルと二人きりの方が絶対に楽しいし、気を遣わないだろう。
だがチーズマン家は以前、ギョーム陛下とチャールズを屋敷に招いてまで歓待してくれたという。一族の令嬢の誕生日会ともなれば「後々面倒くさいことにならないよう」避ける為に参加しておくのが最善かしら。ギョーム陛下とチャールズに迷惑がかからないように。
――チャールズが、私たちの旅先にこの土地を薦めたのは、歓待を受けて良い印象を抱いていたからかもしれないわ。取って食われることは無いでしょう。
アルと目配せし、私たちは同時にメラニーへ会釈した。
「喜んでご招待にあずかります」
「ご厚意に深く感謝申し上げますわ」
ただで招待にあずかるわけにはいかないし、町でお祝いの花束か、ささやかな贈り物を用意しなければならないわ。面倒だけど、贈り物をアルと選ぶのは楽しそうね。
【2章につづく】
メラニーはしなやかにお辞儀をした。
「アルフレッド・リンドバーグです」
「ミミ・リンドバーグですわ」
「お目にかかれて誠に光栄です」
私とアルは、メラニーと握手を交わした。
「お二人は芸術に造詣が深いのですね。お気に入りの名画はございました?」
「はい。こちらの絵に心奪われておりました」
アルが修道士の絵を示すと、メラニーは「まぁ」と表情をほころばせた。
「こちらは先々代の当主が大事にしていた絵画でございます。我が城には代々の当主が集めた名品珍品が眠っておりましてね。誕生日の贈り物に、この城に纏わる権利をいただきましたの」
メラニーはこの城を美術館にした経緯について饒舌に語り始めた。気になったのは、美術館経営に関する諸事を「全て私が始めた」と彼女がやたら主張することだ。
――自慢話が長い人は苦手よ。
旧城の管理は、現在の領主つまりは彼女の父親の負担になっていたそうだ。そこで娘の彼女が管理をすることになり、現在は観光資源として活かしているというだけの経緯なのに、話題があっちこっちへ逸れる。
「遠路はるばるこの地へいらしたのですから、どうぞおくつろぎください。そうだわ、今晩だけでも、お二人のお時間をいただくことはできないでしょうか」
私とアルは顔を見合わせる。旅行に来てまで人に気を遣うのは御免だが……相手はこの地をかつて治めていた元領主の子孫。アルの実父が国王陛下だと世間に知れた以上、他国の領主や名家からの歓待を無下にするのは良くないかもしれない。勝手に仲良くしてはならない一族もいるけれど。
「ギョーム国王陛下も以前、チャールズ殿下とこの地へご滞在なさったことがございます。その際には、この城ではなく、我が一族が現在暮らしている屋敷にてお招き致しましたわ。ご子息であるアルフレッド殿下と奥方のミミ様に、ぜひおくつろぎいただきたいのです」
――ますます断りにくい。いや断りにくいように会話を誘導しているわね。
ヴェルノーン王国の社交界でもよくみられるやりとりね。下心を以て賓客を招待するのだ。
――どんなもてなしを? あまり派手にされると目立つし困るわ。後日、御礼をするのも大変だし。
「今夜、私の誕生日会が開かれますの」
――貴女の……誕生日会ね。へぇ。
「本日は、私が城を受け継いだ日から三周年なのです。この城の大広間で宴を開く予定ですの。リンドバーグご夫妻にご参席いただけたら、素晴らしい夜になりますわ、きっと。ご招待を受けていただけないでしょうか」
――断りにくいわ。
今夜は、宿でアルと過ごすくらいしか予定は無かったけれども。アルと二人きりの方が絶対に楽しいし、気を遣わないだろう。
だがチーズマン家は以前、ギョーム陛下とチャールズを屋敷に招いてまで歓待してくれたという。一族の令嬢の誕生日会ともなれば「後々面倒くさいことにならないよう」避ける為に参加しておくのが最善かしら。ギョーム陛下とチャールズに迷惑がかからないように。
――チャールズが、私たちの旅先にこの土地を薦めたのは、歓待を受けて良い印象を抱いていたからかもしれないわ。取って食われることは無いでしょう。
アルと目配せし、私たちは同時にメラニーへ会釈した。
「喜んでご招待にあずかります」
「ご厚意に深く感謝申し上げますわ」
ただで招待にあずかるわけにはいかないし、町でお祝いの花束か、ささやかな贈り物を用意しなければならないわ。面倒だけど、贈り物をアルと選ぶのは楽しそうね。
【2章につづく】
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