【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
8-6 ★ 教会首長とて許しがたいのは
「チャールズが亡くなれば、アルフレッドが得をすると君は語った。アルフレッドが犯人でないならば、誰がチャールズの命を狙ったと思う?」
ギョーム陛下は真犯人を見つめながら訊ねた。
「アルフレッドを除いて、他に得をする人物は誰だろう」
トーマ殿下は沈黙した。
聖堂に集まった貴族たちも気付いただろう。
「ではこう考えてみようか。アルフレッドとチャールズがどちらも、親の私を置いてこの世を去ってしまったら。次の玉座を継承するのは誰だろう」
疑いと非難のまざった視線が、トーマ親子に集まる。威圧感を察したヒース殿下はおびえた。青ざめた彼を、イメルダ夫人が抱き寄せる。
――トーマ親子、とうとう詰んだな。
親子の社会的地位は、今この時を以て崩れたのだ。
「トーマ、君が雇った柄の悪い連中は、信頼を置く私の兵士たちが身柄を捕らえたよ」
「な……なんのことでしょう?」
「君は昨夜、チャールズを殺そうとしたね? 攫ったのはアルフレッドだったけれど」
トーマはぎょっとして俺に見入る。
「王国の未来に不穏をもたらす者を看過できない」
衛兵たちがトーマ殿下の背後に集まり、逃げ道をふさいだ。
「他国の教皇は、自分の命を狙った暗殺者すらも赦したという。教皇に倣い、私は国教会の首長として、君の出過ぎた言動を度々赦してきた。だが、不敬も過ぎた。王子の命を狙ったことで、君は一線を越えたのだ」
ギョーム陛下は一つ息を落とすと、トーマ殿下を見据えた。
「君とイメルダを大逆罪として告訴する」
大逆罪を科された以上は死を免れない。
ヴェルノーン王国は不敬罪を撤廃したが、王族の命が物理的に狙われた時には大逆罪が適用される。たとえ犯人が、王族の一員であったとしても。
「あ、兄上。お待ちください。私は……」
「ヒースは然るべき機関にて観察下に置く」
ヒース殿下は急激の展開に呆然としている。
「赤の他人ならまだしも、身内を裁くことになるとは非常に残念だ。さらに聖職者まで断罪することになろうとは。人殺しを画策する者が愛を説いていたなど、国教会の恥。そうですよね、ペトロ主教?」
壁際にいたペトロ主教は身を竦ませた。
「貴方はトーマの本心をよくご存じでしょう?」
「い、いいえ、陛下。私には全く……」
「貴方を聖職から解くよう大主教に打診をした。トーマと同じ罪に問う」
ペトロ主教は「そんな」と膝をつく。大主教は黙って彼を見下ろしていた。
「誰を信用できないかは、今回の件でとくと分かりました。エリオット叔父上やルイーズ叔母上、パトリシア叔母上。皆々様が、チャールズの大事と駆け付けてくださるとは、夢にも思いませんでしたよ」
陛下の口調は淡泊で、そこに微塵の感謝も無い。貴族達が集まった前で、丁寧な言葉に皮肉を忍ばせながら親族を名指しで断罪したのだ。貴族たちは疑いの眼差しを彼らに向け、記者たちは「これはご馳走」と言わんばかりに筆を走らせている。
「一同、しばしご静聴いただきたい」
  ささやき声が満ちていた聖堂は、陛下の一言で沈黙に伏した。
「教会首長とて許しがたいのは、家族の安寧が脅かされることである。王族とて一般信徒とて家族を思う心は同等。信心に制約は非ずとも、排他すべきは排他である。我が息子をはじめ、我と近しい者に害なす愚者あれば、棺をいくらでも用意しよう」
貴族たちが一斉に腰を低くし、頭を垂れる。
俺とミミ、チャールズも周囲に倣った。
空の棺からあふれんばかりの花の香りが漂う。棺に収められたのはチャールズ排他を目論んだ愚者だ。聖堂に手向けられた献花は、駑馬への餞であった。
【つづく】
ギョーム陛下は真犯人を見つめながら訊ねた。
「アルフレッドを除いて、他に得をする人物は誰だろう」
トーマ殿下は沈黙した。
聖堂に集まった貴族たちも気付いただろう。
「ではこう考えてみようか。アルフレッドとチャールズがどちらも、親の私を置いてこの世を去ってしまったら。次の玉座を継承するのは誰だろう」
疑いと非難のまざった視線が、トーマ親子に集まる。威圧感を察したヒース殿下はおびえた。青ざめた彼を、イメルダ夫人が抱き寄せる。
――トーマ親子、とうとう詰んだな。
親子の社会的地位は、今この時を以て崩れたのだ。
「トーマ、君が雇った柄の悪い連中は、信頼を置く私の兵士たちが身柄を捕らえたよ」
「な……なんのことでしょう?」
「君は昨夜、チャールズを殺そうとしたね? 攫ったのはアルフレッドだったけれど」
トーマはぎょっとして俺に見入る。
「王国の未来に不穏をもたらす者を看過できない」
衛兵たちがトーマ殿下の背後に集まり、逃げ道をふさいだ。
「他国の教皇は、自分の命を狙った暗殺者すらも赦したという。教皇に倣い、私は国教会の首長として、君の出過ぎた言動を度々赦してきた。だが、不敬も過ぎた。王子の命を狙ったことで、君は一線を越えたのだ」
ギョーム陛下は一つ息を落とすと、トーマ殿下を見据えた。
「君とイメルダを大逆罪として告訴する」
大逆罪を科された以上は死を免れない。
ヴェルノーン王国は不敬罪を撤廃したが、王族の命が物理的に狙われた時には大逆罪が適用される。たとえ犯人が、王族の一員であったとしても。
「あ、兄上。お待ちください。私は……」
「ヒースは然るべき機関にて観察下に置く」
ヒース殿下は急激の展開に呆然としている。
「赤の他人ならまだしも、身内を裁くことになるとは非常に残念だ。さらに聖職者まで断罪することになろうとは。人殺しを画策する者が愛を説いていたなど、国教会の恥。そうですよね、ペトロ主教?」
壁際にいたペトロ主教は身を竦ませた。
「貴方はトーマの本心をよくご存じでしょう?」
「い、いいえ、陛下。私には全く……」
「貴方を聖職から解くよう大主教に打診をした。トーマと同じ罪に問う」
ペトロ主教は「そんな」と膝をつく。大主教は黙って彼を見下ろしていた。
「誰を信用できないかは、今回の件でとくと分かりました。エリオット叔父上やルイーズ叔母上、パトリシア叔母上。皆々様が、チャールズの大事と駆け付けてくださるとは、夢にも思いませんでしたよ」
陛下の口調は淡泊で、そこに微塵の感謝も無い。貴族達が集まった前で、丁寧な言葉に皮肉を忍ばせながら親族を名指しで断罪したのだ。貴族たちは疑いの眼差しを彼らに向け、記者たちは「これはご馳走」と言わんばかりに筆を走らせている。
「一同、しばしご静聴いただきたい」
  ささやき声が満ちていた聖堂は、陛下の一言で沈黙に伏した。
「教会首長とて許しがたいのは、家族の安寧が脅かされることである。王族とて一般信徒とて家族を思う心は同等。信心に制約は非ずとも、排他すべきは排他である。我が息子をはじめ、我と近しい者に害なす愚者あれば、棺をいくらでも用意しよう」
貴族たちが一斉に腰を低くし、頭を垂れる。
俺とミミ、チャールズも周囲に倣った。
空の棺からあふれんばかりの花の香りが漂う。棺に収められたのはチャールズ排他を目論んだ愚者だ。聖堂に手向けられた献花は、駑馬への餞であった。
【つづく】
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