【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
6-5 ★ 王子が危ない!
「私はリンドバーグ夫婦の身辺を調査しております」
――ザビエルが身辺の調査を? 一体何の為に?
「ほう。あの出しゃばり司祭の鼻をくじけるネタはあったかね?」
暴言を吐いたのは、ペトロ主教だった。
「今のところ、何も」
「何も? トーマ殿下、この若造は本当に信用できるのですか」
「できますとも」
トーマ殿下はザビエルに視線を移した。
「最近、リンドバーグ司祭と接触はあったかね、ザビエル?」
「婚約者のアラベラとリンドバーグ司祭のお宅へうかがいました。アラベラがミミさんの友人なので、容易くお邪魔できましたよ」
――やっぱり私を利用したな、ザビエル! この腐れ外道!
「ご報告と確認をしたい件があります。リンドバーグ司祭の家に見慣れない神学生がいるんです。先日の結婚式では司祭の手伝いをしておりました。名前はマイケル・ツルリン。事前にいただいた資料に名前が無い男だったので気になりまして。眼鏡をかけた、冴えない顔の茶髪の優男ですが」
「年はいくつくらいだ? 目の色は?」
エリオット殿下が訊ねた。
「年は……リンドバーグ司祭より下には見えました。碧眼でしたよ」
「碧眼だと? ど、どうしてその神学生は、リンドバーグ司祭の家にいるのだ?」
「夏期休暇を利用して、研修中だそうですが」
「リンドバーグ司祭の元に、研修生? マイケル・ツルリンなんて名前、聞いたこともありませんぞ」
ペトロ主教は首を左右に傾げた。
――マイケル・ツルリンさんの研修は非公式ということ?
「怪しい。とにかく一刻も早く調査を進めてくれ。ヒースを未来の王にする為に、チャールズを殺してあの男に容疑をかける計画が狂ってしまう」
――あの男?
この頭のおかしな集団は、悲願を達成した後は、第三者に罪をなすりつけようとしているようだ。
「我々が先か、馬鹿共が先かは分かりませんが、チャールズ亡き後の段取りは皆様心得ておいでですね?」
参加者一同は肯いた。チャールズ殿下を殺めた後に「ヒースを次の王にするために」動く計画を立てているということか。その後の会話も一言一句聞き逃さないように耳を澄ましたが、チャールズへの怒りをぶちまけるエリオット殿下が口うるさく、話し出すとそれは長いので、他の参加者はうんざりと言った様子だ。
エリオット殿下は、まとまりのないことを好きなだけ語った後「そろそろ時間じゃないか」とトーマ殿下を見た。欠伸をかみ殺していた司会のトーマ殿下は「今日のところはお開きにしましょう」と席を立った。
トーマ殿下とイメルダ夫人は入り口で一人一人と握手を交わし、笑顔で彼らを見送った。やがて夫妻だけとなる。
「くだらない会議だったわ。こんなの開く価値があったの、あなた?」
「そう言うな、イメルダ。なかなか計画が進まないものだから、しびれを切らした叔父上が会議に参加すると言って聞かなかったのさ。今日は形だけとらせただけさ」
「口うるさいジジィね。二度と呼ばないで。建設的な話題が出来ない老人は嫌いよ」
イメルダは「フンッ」と鼻を鳴らした。
「あなた、帰りましょう。ヒースの剣のお稽古が終わった頃よ」
「頑張ったご褒美に、ヒースの好きなお菓子をお土産に買って帰ろう」
――殺人を企てながら、自分の息子は溺愛なんて。この腐れ親ああ!
トーマ殿下とイメルダ夫人は寄り添いながら部屋を後にした。
「良くて一週間とは思っていたけど、さすがに二週間は隠し通せなかったようですね」
シモンは頭をくしゃりと撫でて、皺のよった眉間を指でこねる。
「すぐにブロンテ執事に伝えないと。急を要する事態だ。スチュワートさん、貴女にはリンドバーグ司祭へ伝言をお願いしたい」
「私に?」
「一刻の猶予もありません。僕の代わりにリンドバーグ家へ飛んで〝王子の居場所がばれる〟と伝えてください。ここで見たことを、あの夫婦にだけはあらいざらい話して構いません」
「王子ってチャールズ殿下のこと? 彼は今どこにいるの?」
「は? 貴女は気付かなかったのですか。鈍いですねぇ」
皮肉節に腹が立つけれど、分からないものは分からない。
「マイケル・ツルリンがチャールズ殿下ですよ」
――余計に意味が分からない。
「貴方、何言っているの? あの優しいツルリンさんがチャールズ殿下なわけないじゃない。この大嘘吐き」
「ええ、ええ、そうです、そうですよ。悪名を馳せた大嘘吐きのシモン・コスネキンは自分です。でも、これだけは正直に言います。――ツルリンはチャールズ殿下だ、と」
法廷で裁かれた法螺吹きとは思えない、真っ直ぐな眼差しだった。
「自分はチャールズ殿下の命を救うため〝シモンは獄中で死んだ〟ことにされて、豚箱から出してもらったんです。とある御方の飼い殺しですけどね。チャールズが本当に死んだら、自分は頭と胴を切り離されてしまう。ご協力を願います、スチュワートさん。ザビエルの正体を見せてあげたでしょう?」
シモンは天井板の隙間をトンッと指先でつつく。
「すぐにアンダンテ教会区へ戻って、リンドバーグ司祭に伝えてください。自分はブロンテ執事やチャールズ擁護派の方々に報告をしなければならない。頼みましたよ」
――これは一大事だわ。王子が危ない!
私に王子の命がかかっている。急いでアンダンテへ戻らなければ。
【つづく】
――ザビエルが身辺の調査を? 一体何の為に?
「ほう。あの出しゃばり司祭の鼻をくじけるネタはあったかね?」
暴言を吐いたのは、ペトロ主教だった。
「今のところ、何も」
「何も? トーマ殿下、この若造は本当に信用できるのですか」
「できますとも」
トーマ殿下はザビエルに視線を移した。
「最近、リンドバーグ司祭と接触はあったかね、ザビエル?」
「婚約者のアラベラとリンドバーグ司祭のお宅へうかがいました。アラベラがミミさんの友人なので、容易くお邪魔できましたよ」
――やっぱり私を利用したな、ザビエル! この腐れ外道!
「ご報告と確認をしたい件があります。リンドバーグ司祭の家に見慣れない神学生がいるんです。先日の結婚式では司祭の手伝いをしておりました。名前はマイケル・ツルリン。事前にいただいた資料に名前が無い男だったので気になりまして。眼鏡をかけた、冴えない顔の茶髪の優男ですが」
「年はいくつくらいだ? 目の色は?」
エリオット殿下が訊ねた。
「年は……リンドバーグ司祭より下には見えました。碧眼でしたよ」
「碧眼だと? ど、どうしてその神学生は、リンドバーグ司祭の家にいるのだ?」
「夏期休暇を利用して、研修中だそうですが」
「リンドバーグ司祭の元に、研修生? マイケル・ツルリンなんて名前、聞いたこともありませんぞ」
ペトロ主教は首を左右に傾げた。
――マイケル・ツルリンさんの研修は非公式ということ?
「怪しい。とにかく一刻も早く調査を進めてくれ。ヒースを未来の王にする為に、チャールズを殺してあの男に容疑をかける計画が狂ってしまう」
――あの男?
この頭のおかしな集団は、悲願を達成した後は、第三者に罪をなすりつけようとしているようだ。
「我々が先か、馬鹿共が先かは分かりませんが、チャールズ亡き後の段取りは皆様心得ておいでですね?」
参加者一同は肯いた。チャールズ殿下を殺めた後に「ヒースを次の王にするために」動く計画を立てているということか。その後の会話も一言一句聞き逃さないように耳を澄ましたが、チャールズへの怒りをぶちまけるエリオット殿下が口うるさく、話し出すとそれは長いので、他の参加者はうんざりと言った様子だ。
エリオット殿下は、まとまりのないことを好きなだけ語った後「そろそろ時間じゃないか」とトーマ殿下を見た。欠伸をかみ殺していた司会のトーマ殿下は「今日のところはお開きにしましょう」と席を立った。
トーマ殿下とイメルダ夫人は入り口で一人一人と握手を交わし、笑顔で彼らを見送った。やがて夫妻だけとなる。
「くだらない会議だったわ。こんなの開く価値があったの、あなた?」
「そう言うな、イメルダ。なかなか計画が進まないものだから、しびれを切らした叔父上が会議に参加すると言って聞かなかったのさ。今日は形だけとらせただけさ」
「口うるさいジジィね。二度と呼ばないで。建設的な話題が出来ない老人は嫌いよ」
イメルダは「フンッ」と鼻を鳴らした。
「あなた、帰りましょう。ヒースの剣のお稽古が終わった頃よ」
「頑張ったご褒美に、ヒースの好きなお菓子をお土産に買って帰ろう」
――殺人を企てながら、自分の息子は溺愛なんて。この腐れ親ああ!
トーマ殿下とイメルダ夫人は寄り添いながら部屋を後にした。
「良くて一週間とは思っていたけど、さすがに二週間は隠し通せなかったようですね」
シモンは頭をくしゃりと撫でて、皺のよった眉間を指でこねる。
「すぐにブロンテ執事に伝えないと。急を要する事態だ。スチュワートさん、貴女にはリンドバーグ司祭へ伝言をお願いしたい」
「私に?」
「一刻の猶予もありません。僕の代わりにリンドバーグ家へ飛んで〝王子の居場所がばれる〟と伝えてください。ここで見たことを、あの夫婦にだけはあらいざらい話して構いません」
「王子ってチャールズ殿下のこと? 彼は今どこにいるの?」
「は? 貴女は気付かなかったのですか。鈍いですねぇ」
皮肉節に腹が立つけれど、分からないものは分からない。
「マイケル・ツルリンがチャールズ殿下ですよ」
――余計に意味が分からない。
「貴方、何言っているの? あの優しいツルリンさんがチャールズ殿下なわけないじゃない。この大嘘吐き」
「ええ、ええ、そうです、そうですよ。悪名を馳せた大嘘吐きのシモン・コスネキンは自分です。でも、これだけは正直に言います。――ツルリンはチャールズ殿下だ、と」
法廷で裁かれた法螺吹きとは思えない、真っ直ぐな眼差しだった。
「自分はチャールズ殿下の命を救うため〝シモンは獄中で死んだ〟ことにされて、豚箱から出してもらったんです。とある御方の飼い殺しですけどね。チャールズが本当に死んだら、自分は頭と胴を切り離されてしまう。ご協力を願います、スチュワートさん。ザビエルの正体を見せてあげたでしょう?」
シモンは天井板の隙間をトンッと指先でつつく。
「すぐにアンダンテ教会区へ戻って、リンドバーグ司祭に伝えてください。自分はブロンテ執事やチャールズ擁護派の方々に報告をしなければならない。頼みましたよ」
――これは一大事だわ。王子が危ない!
私に王子の命がかかっている。急いでアンダンテへ戻らなければ。
【つづく】
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