【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
4-1 ★ 私って男気あふれてる?
【第4章】は、ミミが語り手です。
マイケル・ツルリンの人命救助は、翌日には町中の人に知れ渡ることとなった。とはいえチャールズは変装中で命を狙われている身。本人はあまり「大きな噂にはならないで欲しい」と言う。
チャールズが我が家に滞在して七日目。彼の夏期休暇、二週間のみ我が家に匿うというお約束だ。残り一週間。これまでに起こった数々の事件を振り返る。悩んでいるのは、私とアルが良い感じになった時に限って、彼がいろいろやらかすことだ。
――どうして邪魔をするのよ、ツルリン。
鏡に映る私は大層不機嫌そうな顔をしていた。
――ミミ、笑顔よ。笑顔が幸せの秘訣って、お母様に教わったでしょ? さあ、にっこり!
無理に笑おうとすると変顔だ。「美人で優しい司祭の妻」と噂になって欲しいのに、世論は動かそうとしても思い通りにいかないものだ。遺書をばらまいた過去と、アルが馬で法廷に乗り込む前、たった一人で裁判に臨んだ武勇伝が津々浦々に知れ渡り、私の評判は「男気あふれる元侯爵令嬢」のままである。
――男気って何よ、語弊があるわ!
「ミミ。鏡の前で何をしているの?」
表情筋を按摩していると、アルが不思議そうに顔をのぞかせた。
「アル。私の顔って、男気あふれてる?」
「え? 朝っぱらから、何を言い出すんだ。ミミの笑顔は綺麗だよ」
アルの言葉が嬉しくてにやけてしまう。
「そう、それ。俺が一番好きな顔」
「そ、そう? ありがとう」
「支度は済んだ? カリンさんのお見舞いに行こうよ」
「ツルリンは?」
「玄関で待っているよ」
私、アル、ツルリンの三人は病院へ向かった。チャールズのおかげで一命を取り留めたカリンさん。疲れが見て取れたけれど、意識はしっかりしているし、口調も明るい。早ければ今週中に退院できるそうなので安心した。
「昨日はありがとう、ツルリンさん」
「どういたしまして」
七歳の少女と握手を交わすチャールズことツルリンは誇らしげな表情だ。
「ツルリンさん、まるで絵本の中の王子様みたいだった」
「えっ……ぼ、ぼ、ぼぼぼ、僕が?」
――チャールズ、動揺し過ぎよ。
「ツルリンさんは王子様だわ。王子様は白い馬に乗っているけど、昨日のお馬さんは黒だった。絵本よりずっとステキ」
「あ、ああ、ありがとう。オスカルにも伝えておく」
「オスカル?」
「昨日の黒馬さ。僕や司祭様の家族だよ」
チャールズの口から「家族」の言葉が出たことに少なからず驚いたわ。
――まさかこんな形でチャールズと親類縁者になるとはね。自裁に臨んだ時には想像もしていなかった。
あの時私の頭にあったのは「死を以て無実を訴える」という愚かな考えだけ。自分を救ってくれたアルフレッド・リンドバーグが実はチャールズの腹違いの兄だと判り、事態は二転三転して現在に至る。
――運命って分からないわ。でも、昔のチャールズより、今の彼の方が幸せそう。
お見舞いを終えて家路に就くチャールズの嬉しそうな顔ときたら。私と婚約している時には一度も見せなかった表情だわ。執務室のチャールズはいつも何かに苛ついていた。
壁に囲まれた部屋より、自然豊かな田舎の方が彼の性質に合っているのかもしれない。彼に対していろいろ思うことはあるけれど、アルがチャールズに気を許し、目にかけているようなので、良しとしますか。私とアル、二人きりの時間を今度邪魔したら許さないけどね。
――私の顔も三度までよ。いやもうとっくに三度過ぎたわ。やれやれ。
帰宅すると私たちは次の仕事の準備を始めた。
一泊二日の小旅行、私、アル、ツルリンの三人は馬車で港町へ出かけなければならないのだ。チャールズが荷台とオスカルを繋げ、礼拝堂の前へ連れてきた。私たちは手分けして荷物を馬車に積む。
「こんな猛暑に出かけなきゃならないなんて」
長袖のアルは汗だくで真夏の太陽を見上げた。
【つづく】
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