【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
2-1 ★ 僕の為に?
【第2章】は、アルが語り手です。
司祭の朝は早い。神学校は六時起床が鉄則だった。
養父ポール・リンドバーグは朝五時に起床していた。
養父曰く「どんな職業であろうとも、一流の人間は早起きだ」とのこと。遅起きでも、恵まれた環境と地位を手に入れた人間はいると思うが。
「起きろ、朝だ」
例えばコイツとか。王子チャールズは枕に涎を垂らして、ぐーすかと気持ち良さそうに熟睡していた。おそらく昨日の葬儀の疲れが出ているのだろうが、そんなの知ったこっちゃない。
「起きんか、こら」
「はへ?」
俺はベッドのシーツを抜いて、弟を床に転がした。
「ここはどこですか?」
「阿呆、寝ぼけるな。仕事の時間だぞ」
「今、何時ですか?」
「五時」
「まだ夜中じゃないですかー」
「阿呆、朝だ。今日は日曜、礼拝で人が集まる。信徒さんの前で自己紹介してもらうからな。おまえの名前は?」
「チャールズ・ヴェルノーン」
「阿呆。おまえはマイケル・ツルリンだ! 本名を言ってどうする!」
「あっ、そうでした!」
――まったく。命を狙われているというのに。
「そうだ、これ。おまえを匿う件について【アレックス・スミス主教】に出す手紙だ。読んでみろ」
チャールズは寝ぼけ眼をこすりながら、机上のランタンに手紙を近付けた。
アレックス・スミス様
お元気ですか。いつも誠にお世話になっております。
お忙しいところ恐れ入りますが、至急スミス主教に許可をいただかねばならないことがあります。
チャールズ・ヴェルノーンが、例の暗殺予告の件で、救いを求めています。
夏期休暇の二週間のみ我が家へ置くことにしましたが、教会区の皆さんに詮索されるとも知れず、チャールズ殿下と分かると迷惑がかかる恐れがあるので「神学生」の変装をさせています。一連の事件での自身の行為を猛省し、教会の奉仕活動を通して贖罪したいと彼は申しております。主教様にはご一報入れねばと思い、筆を執った次第です。
いずれ国教会首長となるチャールズ殿下の後学の為にも、短い間ではありますがこの奉仕活動は彼に良い影響をもたらすと確信しております。主教様の慈悲深く寛大な御心の下に、彼の意志を快諾していただきたいのです。このことは主教様だけにお伝えしております。教会区の皆様そしてチャールズ殿下の御身を危険に晒さぬ為にも、どうか内密にお願い致します。
 アルフレッド・リンドバーグ
「こ、これは、兄上が僕の為に書いてくださったのですか! 嬉しいです!」
「そりゃ良かった。返事が来るまで数日かかるだろう。俺の判断で【神学生】の変装をさせていることを忘れるな。ここでもう一度確認だ。おまえの名前は?」
「マイケル・ツルリンです!」
「よし、マイケル。おまえはこの二週間、チャールズのチャの字も口にしてはならない、分かったな。俺たちも、マイケル、もしくはツルリン呼びを徹底する。何事も形からだ。今日、おまえが自己紹介しやすいように、挨拶の下書きをした」
手紙とは別にこさえた、一枚の紙切れを弟に渡す。
「こ、これも兄上が、僕の為に? ありがとうございます! 僕、感激です!」
「大したことは書いていないが、おまえがそれなりに立派に見える言葉を連ねておいた」
「そ……それは、どうも」
「とりあえず。声に出して読んでみろ」
「は、はい! ではっ」
チャールズはごくりと唾を飲み込む。
「私は、神学生のマイケル・ツルリンと申します。司祭様を支える執事候補生として研修に参りました。夏期休暇の短い期間ですが、司祭様、教会区の皆様のお力になれるよう、真心を尽くして奉仕させていただきます。どうぞよろしくお願いします」
――一文字も間違えずに読めているだと!
今までチャールズのことを阿呆だと思っていて悪かったな。やる時にはやるじゃないか。
「どうでしょうか?」
「朗読が上手とは思わなかった」
「そ、そうですか? 一応、話す訓練だけは受けたので。書くのは大の苦手ですが」
――なぜ神様は、片方だけ才能を与えたのだろう。
「礼拝まで時間はあるし、何度か声に出して練習しておくように。俺は礼拝の準備と、説教の校正をする。何かあったら礼拝堂に来てくれ。オスカルを任せた」
「オスカルって誰ですっけ?」
「うちの馬だと言っただろう。水を飲ませて、えさをやって、糞を集めて、毛並みをとくんだ」
「喜んでやらせていただきます! そ、それじゃあ、早速、オスカルのところに……」
「おいおい待て待て。変装! 昨日ナンシーに、カツラの固定の仕方を習っただろう?」
「あ、そうでした。危ない危ない」
――本当に大丈夫だろうか。
【つづく】
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