【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
1-5 ★ いいや、おまえは絶対やらかす
「この教会に匿う以上、おまえには働いてもらうからな」
「はい、兄上! なんでもやります」
「その心意気だけは買うが、期待はしていない」
「いや、ちょっとは期待して欲しいのですが!」
期待できない理由は、私にも察しがつく。
――だってチャールズは、筋金入りの箱入り王子だもの。
「神学校に入った時に、嫡子でない貴族のお坊ちゃま方と過ごした。親のすすめるがまま聖職者を目指した者たちに共通して言えることは家事が一切できないということだ。誰かがやってくれる、とな。汚れた皿を片付けもしない」
皿洗いや掃除にせっせと勤しむ、昔のアルの姿が目に浮かぶ。
「チャールズ、おまえは皿を洗ったことがあるか?」
「ないです」
「だろう? 絶対割る。俺には未来が見える」
――私にも見えた。
「家事の人手は足りている。家政婦のナンシーも、ミミもいてくれる。いいか? おまえは皿は洗わなくていいから、掃除をしろ。司祭の家というのは、この住まいだけでなく、礼拝堂、庭も含めて掃除をするところが多いんだ。家の中は掃除するな、物を壊されたらたまらない」
「そ、そんな。僕、壊しませんよ?」
「いいや、おまえは絶対やらかす」
――私もそう思う。チャールズが何もやらかさないわけがないわ。
「じゃあ僕は、どこをすればいいんですか?」
「外回り全部だ。ひたすら庭の雑草を抜いてくれ。夏の雑草は侵略者だ。頼むぞ」
「はい、兄上! 分かりました!」
「あっ、そうだ! チャールズ。おまえ、馬の世話ならできるか?」
「ああ、それなら。馬は好きです」
「じゃあ、オスカルの面倒を任せよう。俺たちの大事な家族なんだ。というわけでおまえの仕事場は基本、厩に決定」
「う、厩ですか?」
「何か文句あるのか?」
「いえ、何もありません、兄上!」
「うちで一番歴史ある建物なんだぞ。お宝が眠っているとの噂もある。――そうそう、アレをおまえに」
アルはそう言うと、居間を出た。ガタガタゴットンと戸棚を開けるような音が聞こえる。居間へ戻ってきたアルは、白い学ランと、謎の木箱を抱えていた。
「箪笥で眠っていた俺のお古だけど。神学校の制服だ。司祭である俺の手助けをする為に来た、執事候補の研修生だと言えば良い」
国教会には、主に三つの階級がある。
主教、司祭、執事。
さらに詳しく言えば、教会首長の国王陛下、大主教、主教、司祭、執事、神学生の順だ。
司祭の下が執事である。
――チャールズが執事候補の神学生、良い考えね。
「制服の襟に、ちゃんと記章をつけるんだぞ。これが身分証明になるからな」
アルは羽の形の記章と制服をチャールズに渡す。普段着や制服の襟につける記章で、国教会内の職位を示しているのだ。アルは鳩と王冠をつけているので司祭だとすぐに分かる。
「さて、おまえの名前はどうしようか。チャールズとは人前で呼べないしな。例えばマイケル……そうだ、マイケル・ツルリンなんてどうだ?」
「えっ、アル……本気?」
――略したら【丸つるり】じゃない。
「マイケル・ツルリン。いいですね、それにしましょう、兄上」
「チャールズ。あ……貴方、本当にそれで良いの?」
「素晴らしい名前だ。僕、とっても気に入りました!」
「だろう? 即席で考えたにしては、我ながら良い名前だな~と」
――この二人、美的感覚が欠けているわ。
「でも、良いのでしょうか、兄上? 勝手に身元を偽っても?」
「たかが二週間だろう。後々のことが心配ならば、俺が信頼を置いている主教に、おまえを匿う為にという理由で内密に許可を取るが? 国教会の首長は父上だし、その息子であるおまえなら便宜が図れるだろう。ただしこれは極秘事項、表沙汰にはしない」
「はい、兄上! どうかお願いします!」
「ではすぐに手紙を書く。いいか、絶対にばれるなよ。ばれたらおまえの命は無いと思え」
――ばれたら命はないと思え、って……怖っ。
「それから、これをおまえに授けよう」
アルフレッドは謎の木箱を開けた。
【つづく】
「はい、兄上! なんでもやります」
「その心意気だけは買うが、期待はしていない」
「いや、ちょっとは期待して欲しいのですが!」
期待できない理由は、私にも察しがつく。
――だってチャールズは、筋金入りの箱入り王子だもの。
「神学校に入った時に、嫡子でない貴族のお坊ちゃま方と過ごした。親のすすめるがまま聖職者を目指した者たちに共通して言えることは家事が一切できないということだ。誰かがやってくれる、とな。汚れた皿を片付けもしない」
皿洗いや掃除にせっせと勤しむ、昔のアルの姿が目に浮かぶ。
「チャールズ、おまえは皿を洗ったことがあるか?」
「ないです」
「だろう? 絶対割る。俺には未来が見える」
――私にも見えた。
「家事の人手は足りている。家政婦のナンシーも、ミミもいてくれる。いいか? おまえは皿は洗わなくていいから、掃除をしろ。司祭の家というのは、この住まいだけでなく、礼拝堂、庭も含めて掃除をするところが多いんだ。家の中は掃除するな、物を壊されたらたまらない」
「そ、そんな。僕、壊しませんよ?」
「いいや、おまえは絶対やらかす」
――私もそう思う。チャールズが何もやらかさないわけがないわ。
「じゃあ僕は、どこをすればいいんですか?」
「外回り全部だ。ひたすら庭の雑草を抜いてくれ。夏の雑草は侵略者だ。頼むぞ」
「はい、兄上! 分かりました!」
「あっ、そうだ! チャールズ。おまえ、馬の世話ならできるか?」
「ああ、それなら。馬は好きです」
「じゃあ、オスカルの面倒を任せよう。俺たちの大事な家族なんだ。というわけでおまえの仕事場は基本、厩に決定」
「う、厩ですか?」
「何か文句あるのか?」
「いえ、何もありません、兄上!」
「うちで一番歴史ある建物なんだぞ。お宝が眠っているとの噂もある。――そうそう、アレをおまえに」
アルはそう言うと、居間を出た。ガタガタゴットンと戸棚を開けるような音が聞こえる。居間へ戻ってきたアルは、白い学ランと、謎の木箱を抱えていた。
「箪笥で眠っていた俺のお古だけど。神学校の制服だ。司祭である俺の手助けをする為に来た、執事候補の研修生だと言えば良い」
国教会には、主に三つの階級がある。
主教、司祭、執事。
さらに詳しく言えば、教会首長の国王陛下、大主教、主教、司祭、執事、神学生の順だ。
司祭の下が執事である。
――チャールズが執事候補の神学生、良い考えね。
「制服の襟に、ちゃんと記章をつけるんだぞ。これが身分証明になるからな」
アルは羽の形の記章と制服をチャールズに渡す。普段着や制服の襟につける記章で、国教会内の職位を示しているのだ。アルは鳩と王冠をつけているので司祭だとすぐに分かる。
「さて、おまえの名前はどうしようか。チャールズとは人前で呼べないしな。例えばマイケル……そうだ、マイケル・ツルリンなんてどうだ?」
「えっ、アル……本気?」
――略したら【丸つるり】じゃない。
「マイケル・ツルリン。いいですね、それにしましょう、兄上」
「チャールズ。あ……貴方、本当にそれで良いの?」
「素晴らしい名前だ。僕、とっても気に入りました!」
「だろう? 即席で考えたにしては、我ながら良い名前だな~と」
――この二人、美的感覚が欠けているわ。
「でも、良いのでしょうか、兄上? 勝手に身元を偽っても?」
「たかが二週間だろう。後々のことが心配ならば、俺が信頼を置いている主教に、おまえを匿う為にという理由で内密に許可を取るが? 国教会の首長は父上だし、その息子であるおまえなら便宜が図れるだろう。ただしこれは極秘事項、表沙汰にはしない」
「はい、兄上! どうかお願いします!」
「ではすぐに手紙を書く。いいか、絶対にばれるなよ。ばれたらおまえの命は無いと思え」
――ばれたら命はないと思え、って……怖っ。
「それから、これをおまえに授けよう」
アルフレッドは謎の木箱を開けた。
【つづく】
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