【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
9-3 ★ 王室の恥
「君は人の命をなんだと思っているんだ!」
憤る陛下に気圧され、ダーシーは口籠もった。
「自裁にまで追い詰めた女性にそれを演技だと吐き捨てられるとは。人の生死を軽んじる言葉を、躊躇いなく口にできる貴女ならば出来ることかもしれないが、ミミはそんな人間ではない」
陛下はミミの右肩に手を置いた。
「酷いわ! 私は陛下とチャールズ殿下のお力になりたい一心で動いておりますのに。なぜミミの肩を持つのです?」
ダーシーは泣きながら、不平不満を叫ぶ。
――俺の一番苦手な人間だ。めんどくさい女。
ダーシーの隣にいるチャールズはというと、肩を震わせながら父親である陛下を見るばかりだ。
「ダーシー。私はね、すぐに泣き喚く女性は信用できないんだよ」
陛下はぴしゃりと言い放った。
「チャールズ殿下! 殿下から陛下にお伝えください。私は身も心も、陛下、殿下、この国に捧げる所存でございます」
ダーシーはさらに大粒の涙をこぼし、隣のチャールズへすがりついた。
「もう……やめてくれ、ダーシー!」
チャールズは、ダーシーの手を振り払った。
「ミミ」
チャールズはミミへ深々と頭を下げた。
「倒れた君のご両親に、謹んでお見舞い申し上げる」
これは驚いた。チャールズが自ら謝るとは。素直過ぎる馬鹿なのか?
「なぜミミに謝るのですか! 貴方は何も……」
「黙れ、ダーシー!」
チャールズは怒鳴ると、悲しげな面持ちを上げた。
「僕は本当に……何も知らなかったんだ。裁判を昨日の今日で仕掛けたことも。僕のあずかり知らぬ所で、全て動いていたようで」
チャールズは力なく肩を落とし、ダーシーと一人分の空間をとった。
「無知を理由に咎を赦されるわけではないぞ、チャールズ」
陛下が厳しい一言を放つと、チャールズは肩を跳ね上げた。
「このように公の場で、子を咎める親の気持ちがおまえには分かるまい。私が不在の時に限って、おまえは王室の恥をさらしてきたね。その一つが舞踏会でミミにかけた嫌疑の件だ。婚約破棄の理由を自信満々で私に話したが、疑いの証拠は取れたのかね?」
「ええ、勿論。取れましたとも!」
「ダーシー、君に訊ねたわけではない」
「お聞き下さい、陛下! アダム・アマンとの密会記録も、他の男性との仲、宝飾品の購入記録も。全て証言を取っています。ちょっと! なに、ぼけーっとしてんの! 資料の控えはまだあるでしょう? 今すぐ陛下にお見せなさい!」
弁護士が慌てて資料を取り出そうとした。
「ミミの不義の証拠はここに揃っていますわ!」
「ちょっとお待ちください。こちらも裏がとれていますよ」
ダーシーの言葉を無理矢理遮る。嘘吐きはもうたくさんだ!
「ダーシーさん、貴女の宝飾品の購入記録、恋愛遍歴、アダム・アマン氏への口止め料と称した多額の賄賂について」
「なん、ですって」
「裁判長、お確かめを。こちらが我々が収拾した資料でございます」
裁判長は無言で書類を熟読した。裁判長や裁判官が買収されていようと、確固たる証拠を突きつければ良いだけのこと。傍聴席には記者の目があるしな。
「これらの資料をどこで?」
裁判長が、俺、傍聴席、陛下を見ながら訊ねた。おいおい目が泳いでいるぞー。「聞いていた筋書きと違う」って言いたげだな。
「傍聴席にいらっしゃる記者の方々が調べてくださいました」
記者たちは誇らしげだ。うちに不法侵入した時には、どう煮て焼いてやろうかと思ったけど、これも奇縁である。
「驚きましたよ。チャールズ殿下の新しい婚約者になった途端に、ダーシーさんが殿下のツケで宝飾品を買い求めていたこともね。結婚式の披露宴の準備にしては経費が莫大過ぎる。記者の方々が、王室御用達の店主たちから情報を収集してくださいました」
俺は二束の書類を裁判長へ差し出した。
「店主たちの証言の資料はこちらです。ミミがチャールズ殿下の資金に一切手をつけていない証拠はこちら。弁護士会照会を通して王立銀行へ情報請求されたものです」
裁判長は渋い表情で資料へ目を通す。
「チャールズ殿下の公務に関わる経費は、想像以上に大きいのですね」
「その通りです、裁判長。経費の出し入れに直接関わっていたのは、前任秘書のシモン・コスネキンです」
批難がシモンへ集中した。シモンは書類挟みで顔を隠し、カタカタと震えた。
「火の無いところに煙は立ちません。必要経費として引き出されたものの中に、私的に流用されたものが混ざっていてもおかしくは無いでしょう。ミミは殿下の婚約者でしたが、婚前の立場では手をつけられませんし、キャベンディッシュ家の領地運営は安定しており、多額の資金を必要としていません」
「目に見えない赤字があるのですわ!」
「失礼ね! 私の実家が赤字ですって? どこにその証拠があるのよ!」
ミミが反論すると、ダーシーは「五月蠅い!」と叫んだ。
「王立銀行にはキャベンディッシュの親戚が勤めています。ミミと両親は親戚を懐柔して取引記録を偽造、私腹を肥やしたのですわ!」
「なぜそこまでして、他人の資産を頼る必要があるのですか?」
俺は声を張り上げてダーシーに問う。
――ミミとおまえを一緒にするな。
【つづく】
憤る陛下に気圧され、ダーシーは口籠もった。
「自裁にまで追い詰めた女性にそれを演技だと吐き捨てられるとは。人の生死を軽んじる言葉を、躊躇いなく口にできる貴女ならば出来ることかもしれないが、ミミはそんな人間ではない」
陛下はミミの右肩に手を置いた。
「酷いわ! 私は陛下とチャールズ殿下のお力になりたい一心で動いておりますのに。なぜミミの肩を持つのです?」
ダーシーは泣きながら、不平不満を叫ぶ。
――俺の一番苦手な人間だ。めんどくさい女。
ダーシーの隣にいるチャールズはというと、肩を震わせながら父親である陛下を見るばかりだ。
「ダーシー。私はね、すぐに泣き喚く女性は信用できないんだよ」
陛下はぴしゃりと言い放った。
「チャールズ殿下! 殿下から陛下にお伝えください。私は身も心も、陛下、殿下、この国に捧げる所存でございます」
ダーシーはさらに大粒の涙をこぼし、隣のチャールズへすがりついた。
「もう……やめてくれ、ダーシー!」
チャールズは、ダーシーの手を振り払った。
「ミミ」
チャールズはミミへ深々と頭を下げた。
「倒れた君のご両親に、謹んでお見舞い申し上げる」
これは驚いた。チャールズが自ら謝るとは。素直過ぎる馬鹿なのか?
「なぜミミに謝るのですか! 貴方は何も……」
「黙れ、ダーシー!」
チャールズは怒鳴ると、悲しげな面持ちを上げた。
「僕は本当に……何も知らなかったんだ。裁判を昨日の今日で仕掛けたことも。僕のあずかり知らぬ所で、全て動いていたようで」
チャールズは力なく肩を落とし、ダーシーと一人分の空間をとった。
「無知を理由に咎を赦されるわけではないぞ、チャールズ」
陛下が厳しい一言を放つと、チャールズは肩を跳ね上げた。
「このように公の場で、子を咎める親の気持ちがおまえには分かるまい。私が不在の時に限って、おまえは王室の恥をさらしてきたね。その一つが舞踏会でミミにかけた嫌疑の件だ。婚約破棄の理由を自信満々で私に話したが、疑いの証拠は取れたのかね?」
「ええ、勿論。取れましたとも!」
「ダーシー、君に訊ねたわけではない」
「お聞き下さい、陛下! アダム・アマンとの密会記録も、他の男性との仲、宝飾品の購入記録も。全て証言を取っています。ちょっと! なに、ぼけーっとしてんの! 資料の控えはまだあるでしょう? 今すぐ陛下にお見せなさい!」
弁護士が慌てて資料を取り出そうとした。
「ミミの不義の証拠はここに揃っていますわ!」
「ちょっとお待ちください。こちらも裏がとれていますよ」
ダーシーの言葉を無理矢理遮る。嘘吐きはもうたくさんだ!
「ダーシーさん、貴女の宝飾品の購入記録、恋愛遍歴、アダム・アマン氏への口止め料と称した多額の賄賂について」
「なん、ですって」
「裁判長、お確かめを。こちらが我々が収拾した資料でございます」
裁判長は無言で書類を熟読した。裁判長や裁判官が買収されていようと、確固たる証拠を突きつければ良いだけのこと。傍聴席には記者の目があるしな。
「これらの資料をどこで?」
裁判長が、俺、傍聴席、陛下を見ながら訊ねた。おいおい目が泳いでいるぞー。「聞いていた筋書きと違う」って言いたげだな。
「傍聴席にいらっしゃる記者の方々が調べてくださいました」
記者たちは誇らしげだ。うちに不法侵入した時には、どう煮て焼いてやろうかと思ったけど、これも奇縁である。
「驚きましたよ。チャールズ殿下の新しい婚約者になった途端に、ダーシーさんが殿下のツケで宝飾品を買い求めていたこともね。結婚式の披露宴の準備にしては経費が莫大過ぎる。記者の方々が、王室御用達の店主たちから情報を収集してくださいました」
俺は二束の書類を裁判長へ差し出した。
「店主たちの証言の資料はこちらです。ミミがチャールズ殿下の資金に一切手をつけていない証拠はこちら。弁護士会照会を通して王立銀行へ情報請求されたものです」
裁判長は渋い表情で資料へ目を通す。
「チャールズ殿下の公務に関わる経費は、想像以上に大きいのですね」
「その通りです、裁判長。経費の出し入れに直接関わっていたのは、前任秘書のシモン・コスネキンです」
批難がシモンへ集中した。シモンは書類挟みで顔を隠し、カタカタと震えた。
「火の無いところに煙は立ちません。必要経費として引き出されたものの中に、私的に流用されたものが混ざっていてもおかしくは無いでしょう。ミミは殿下の婚約者でしたが、婚前の立場では手をつけられませんし、キャベンディッシュ家の領地運営は安定しており、多額の資金を必要としていません」
「目に見えない赤字があるのですわ!」
「失礼ね! 私の実家が赤字ですって? どこにその証拠があるのよ!」
ミミが反論すると、ダーシーは「五月蠅い!」と叫んだ。
「王立銀行にはキャベンディッシュの親戚が勤めています。ミミと両親は親戚を懐柔して取引記録を偽造、私腹を肥やしたのですわ!」
「なぜそこまでして、他人の資産を頼る必要があるのですか?」
俺は声を張り上げてダーシーに問う。
――ミミとおまえを一緒にするな。
【つづく】
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