【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation

旭山リサ

9-1 ★ 好き、いやもう大好き。



【第9章】は、アルフレッドが語り手です。



 鏡の中に見つけた探し物を、金槌かなづちで砕きたかった。
 国教会の聖回廊には、代々の首長である陛下の肖像画が飾られる。
 その中でもっとも新しいものが、先代国王の崩御ほうぎょとともに即位された陛下の御肖像だった。

 ――似ている。まるで鏡のように。

 肖像画の陛下は二十年以上前のもので、現在の御姿おすがたとは異なっている。
 神学校で国教会の祭事に参加しても気付かなかった。

 俺は赤髪翠眼すいがん
 陛下は赤髪碧眼へきがん
 赤髪の男なんて世界中にあふれているからだ。

「殿下は、今年でおいくつになりますか」

 法廷で俺はチャールズに訊ねた。彼に自ら気付かせてやりたいことがある。

「今年で……二十二になる」
「私の四つ年下でしたか」

 チャールズは世界の終わりが来たかのような表情だ。

 ――おまえは俺の弟なんだよ。母親は違うけど。

 裁判官達は、俺とチャールズを見比べながらひそひそとささやき合っている。彼らだけでなく、陛下の若い頃を知る者や、あの肖像画を見た司祭や主教の中には、俺の実父が誰か早くに勘付いた者もいただろう。キャベンディッシュ夫妻も気付いたくらいだから。

「アル。まさか……」

 ミミは俺とチャールズへ何度も視線を往復させて、言葉を呑んだ。

 ――今、気付いたのかい? 俺はね……ミミ。チャールズに嫉妬していたんだ。本当は、君が彼を好きだったんじゃないかと思って。

 顔が似ているから、俺に好意を寄せてくれたのではないかと。

 時折、悪い夢にうなされて泣いているミミを見る度に切なくなった。世の中には上書きでは消せない愛があり、別の愛の色で塗りつぶしても、時間とともにがれ落ちる恋の記憶がある。――怖かったのだ。どれだけ愛しても、彼女の二番目にばんめではないかと思うと悲しかった。

 ――俺は王の一番目いちばんめの息子だよ、ミミ。

 今明かしては裁判の争点が大幅に逸れてしまう。腹違いの弟チャールズと法廷で対面することは予想できた。だが当のミミが全く気付かない。これは他の人も気付かないのでは? 鈍くて馬鹿なチャールズが、真っ先に気付くなんて想定外だ。

 ――よーし、あの作戦の使い時だ。

 俺は怒りの染みこんだ表情筋を努めて柔らかくした。

「いやあ、驚きましたよ! チャールズ殿下とダーシーさん。実際お会いすると、お二人がこんなに似ていたなんて!」

 ちょっと声が裏返ってしまった。
 法廷がシンと静まる。我ながらすごいかじの切り方だとは思う。

「もしかして生き別れた兄妹か、腹違いの姉弟ですか?」

 ――作戦名、近親相姦きんしんそうかん

「い、いきなり何を言い出す、この頓馬とんま!」
「あ、頭おかしいんじゃないの、この馬鹿ばか!」
「ほーら、息もぴったり!」

 ――性格の悪そうな反論が二人とも最高ですね! さあ、もっと狼狽うろたえろ。

「ミミもそう思わないかい? ダーシーさんとチャールズ殿下。目元なんてそっくりだ」
「え? ダーシーとチャールズ? そうかしら?」

 ミミは眉をひそめ、二人を見比べた。

「ああ! 顔はともかく、性格はそっくり! 悪魔の親戚しんせきじゃないかしら」

 ――ミミのこういうはっきりとしたところが俺は好き、いやもう大好き。

「裁判長! 今の発言は立派な侮辱罪ぶじょくざいですわ!」
「ダーシー様。落ち着いてください。私が、代わりに……」

 弁護士が反論すると言うも、ダーシーは頭に血が上っている。

侮辱ぶじょく? 妻のは可愛いものですよ。根腐れしているとか、心がびだらけとか、頭の中から軽い音がするとか、脳みそに雑草が生えているとかこけむしているとか言ったわけでもないのに」

 ためしに火に油を注いでみると、ダーシーは拳をドンッと机に叩きつけた。

「このくされ司祭に阿婆擦あばずれが! おまえらが悪魔よ! 私に何の恨みがあって。許さないわ、そののどをカッ切ってやる!」

 ――言葉遣いが汚いなぁ。こういう時に育ちの悪さが出るんですね、お嬢さん。

 腹違いの弟チャールズも、ダーシーの言葉の汚さに引いている。

「そろそろ本題に戻りませんか。裁判の途中ですし」
「おまえが言うな、白々しい!」

 ダーシーが唾を飛ばしながら叫んだ。

「はぁ」

 大きな溜め息をこぼしたのは誰か。カツンコツンと足音が近付く。蹴破られた扉の前に立ち、その人は法廷を見回した。赤髪を一つに束ねた、碧眼の中年男性だ。
 彼を知らぬ人間はこの国には誰もいない。

みにくい」

 ギョーム国王陛下の一声で、ダーシーは暴言を吐くのを止めた。

【つづく】

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