【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
7-8 ★ 風を切る!
「この馬に乗ればいいんだ!」
――最善策はこれしかない!
農夫、商人の女性、ナンシー、ロビン弁護士は、ぽかんとした顔で俺を見つめている。いきなり何を言い出すのか、と。
「馬に乗れば荷は自分一人だから、王都まで飛ばせます。俺が先に裁判所へ行って、一から事情を説明して時間稼ぎをします。ナンシーとロビンさんはそちらの馬車で王都へ来て欲しい」
「司祭様。鞍無しで馬に乗るのはおすすめしないよ」
農夫が馬の背を指差した。
――そうだった、失念していたよ。
「鞍なら、わしが持っとるよ」
背後から声をかけたのは、杖をついた男性だった。
「店の奥にあるから取ってくる。ここで少し待っていて」
おじいさんは広場に面した金具屋へ入り、古ぼけた鞍を持って戻ってきた。
「埃まみれだが、まだ使えるはずじゃ」
「ありがとうございます。お代は……」
「いらんよ。気をつけてな」
「はい! ご厚意に感謝します」
早速、箱形車と馬を切り離した。
手綱だけとなった馬の背に鞍を取り付ける。
「鞍の大きさ、ぴったりですね、司祭様! 良かった」
農夫は自分のことのように喜んでくれた。
「それじゃ、壊れた車体だけ預かりますね。どうやって運ぼうかな」
壊れた車体の前で農夫は腕組みする。
馬は俺が乗っていくので、これを牽引する存在が必要だ。
「そうだ! うちの牛を連れてきて、納屋まで引かせよう」
「あっ、待って!」
慌てて農夫を引き留め、手帳と万年筆を差し出した。
「こちらにお名前と住所をいただけますか」
「こりゃ失敬。俺が車泥棒になるところだった」
「とんでもない。後日改めて御礼にうかがいたいのです」
「御礼なんていいですよ。時間のある時に馬車を取りにきてください。――はい、住所と名前」
手帳に【ベン】という名と住所が書かれていた。
「ベンさん、本当にありがとうございます」
「司祭様の道中の安全をお祈りします」
俺は彼と握手を交わす。
「司祭様は王都への近道はご存じかい?」
商人の女性が訊ねたので「いいえ」と答える。彼女は幌馬車から地図を持ってきて、指でなぞりながら近道を教えてくれた。
「確かに近道ですね。ありがとうございます!」
「地図見て一発で分かるとは。土地勘があるんだね」
昔から養父と馬車に乗る機会が多く、その都度地図の見方を教わった。
――父さんのおかげだよ。ありがとう。
「司祭様、これを! 特に重要な書類のみを集めました」
ロビン弁護士が肩掛け鞄を手渡す。鞄には時間稼ぎに十分な書類がまとめてあった。この短時間で機転を利かせてくれた彼には頭が下がる。
「残りの書類は全て私が持って参ります。それまでどうかよろしくお願いします」
「お気を付けて。旦那様ならきっと奥様をお守りできます!」
ロビン弁護士とナンシーに励まされ、勇気がみなぎってくるのを感じた。
「ありがとう。それじゃ、先に行きます!」
手綱を打ち、人馬一体となり風を切った。
【8章へつづく】
7章を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
8章は【ミミ】が語り手です。
――最善策はこれしかない!
農夫、商人の女性、ナンシー、ロビン弁護士は、ぽかんとした顔で俺を見つめている。いきなり何を言い出すのか、と。
「馬に乗れば荷は自分一人だから、王都まで飛ばせます。俺が先に裁判所へ行って、一から事情を説明して時間稼ぎをします。ナンシーとロビンさんはそちらの馬車で王都へ来て欲しい」
「司祭様。鞍無しで馬に乗るのはおすすめしないよ」
農夫が馬の背を指差した。
――そうだった、失念していたよ。
「鞍なら、わしが持っとるよ」
背後から声をかけたのは、杖をついた男性だった。
「店の奥にあるから取ってくる。ここで少し待っていて」
おじいさんは広場に面した金具屋へ入り、古ぼけた鞍を持って戻ってきた。
「埃まみれだが、まだ使えるはずじゃ」
「ありがとうございます。お代は……」
「いらんよ。気をつけてな」
「はい! ご厚意に感謝します」
早速、箱形車と馬を切り離した。
手綱だけとなった馬の背に鞍を取り付ける。
「鞍の大きさ、ぴったりですね、司祭様! 良かった」
農夫は自分のことのように喜んでくれた。
「それじゃ、壊れた車体だけ預かりますね。どうやって運ぼうかな」
壊れた車体の前で農夫は腕組みする。
馬は俺が乗っていくので、これを牽引する存在が必要だ。
「そうだ! うちの牛を連れてきて、納屋まで引かせよう」
「あっ、待って!」
慌てて農夫を引き留め、手帳と万年筆を差し出した。
「こちらにお名前と住所をいただけますか」
「こりゃ失敬。俺が車泥棒になるところだった」
「とんでもない。後日改めて御礼にうかがいたいのです」
「御礼なんていいですよ。時間のある時に馬車を取りにきてください。――はい、住所と名前」
手帳に【ベン】という名と住所が書かれていた。
「ベンさん、本当にありがとうございます」
「司祭様の道中の安全をお祈りします」
俺は彼と握手を交わす。
「司祭様は王都への近道はご存じかい?」
商人の女性が訊ねたので「いいえ」と答える。彼女は幌馬車から地図を持ってきて、指でなぞりながら近道を教えてくれた。
「確かに近道ですね。ありがとうございます!」
「地図見て一発で分かるとは。土地勘があるんだね」
昔から養父と馬車に乗る機会が多く、その都度地図の見方を教わった。
――父さんのおかげだよ。ありがとう。
「司祭様、これを! 特に重要な書類のみを集めました」
ロビン弁護士が肩掛け鞄を手渡す。鞄には時間稼ぎに十分な書類がまとめてあった。この短時間で機転を利かせてくれた彼には頭が下がる。
「残りの書類は全て私が持って参ります。それまでどうかよろしくお願いします」
「お気を付けて。旦那様ならきっと奥様をお守りできます!」
ロビン弁護士とナンシーに励まされ、勇気がみなぎってくるのを感じた。
「ありがとう。それじゃ、先に行きます!」
手綱を打ち、人馬一体となり風を切った。
【8章へつづく】
7章を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
8章は【ミミ】が語り手です。
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