【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
7-7 ★ ひらめいた!
三つの災難が立て続けに起こった。
一つ目は御者が消えたこと。指名手配してやるからな。
二つ目はボロ馬車が壊れたこと。
三つ目は辺境の村に置いていかれたこと。
ロビン弁護士曰く、
「執行官が答弁書の確認を取るも、被告は特別送達を受領した覚えが無いと主張した上に、裁判に遅刻」
が敵の筋書きではないかとのことだ。
――妻の名誉をこれ以上傷つけられてたまるか!
朝刊で先手を打ったが「遅刻して敗訴」という醜態を以て「負け犬の遠吠え」と叩かれる可能性がある。とんでもないことだ!
唯一の希望は、このボロ馬車にミミを乗せなかったことだ。ミミが無事に裁判所に到着すれば、原告の不戦勝を阻止できる。ミミの道中にも罠がしかけられているかもしれないが考えたらきりが無い。ミミと目的地は同じなので、今は裁判所へ向かうことに集中しよう。
――まずは新しい馬車を手配しなくては。
「あの、すみません」
近くにいた若い男性に声をかけた。藁と土屑の散ったつなぎの作業服を着ているので、おそらく農夫だろう。麦わら帽子をかぶった彼は、俺を見ると目を丸くした。
「貴方、新聞で見たよ。もしやリンドバーグ司祭様?」
「はい。アルフレッド・リンドバーグです」
「やっぱり! 噂の奥様はご一緒じゃないのですか?」
「これから妻と裁判所で合流するはずだったのですが」
「朝刊で読んだよ。あの馬鹿王子が姑息な真似をしたんだって? で、どうしたんだい、こんなところで」
「実は御者が消えた上に、馬車が壊れて」
「は? なんだって?」
手短にこれまでの経緯を伝えた。
「司祭様、そりゃはめられたんだよ。今すぐ裁判所へ向かわなきゃいけないんですね?」
「遅刻したら負けてしまう。この近くに辻馬車や乗合馬車を出すところは無いですか?」
「小さな村だからなぁ、無いですね」
――あの御者め、馬車の宛が無い場所にわざと飛ばしたな!
「今すぐに王都へ向かわないといけないのに、困ったな」
「王都へ行く馬車ならあると思いますよ。商人が王都へ物資を運ぶ途中で立ち寄る村ですから。――よし、俺に任せろ!」
農夫は噴水の縁にのぼると、お腹に「すぅ」と息をためた。
「おーい、この中に王都へ行く者はいないか? こちらのリンドバーグ司祭様がお困りだ! 今から奥様と王子の裁判に向かわなきゃいけないが、馬車が壊れたんで遅れちまいそうなんだ! 誰か王都まで馬車に乗せてくれる者はいないか!」
広場にいた者たちは、旅仲間や仕事相手と顔を見合わせた。
「私が今から王都に行くよ!」
幌馬車から女性の商人が顔を出し、こちらへ近づいてきた。
「裁判は何時に開かれるんですか、司祭様?」
「正午です。間に合うでしょうか?」
「正午までに王都に着くのは厳しいね。うちも運ばなきゃいけない荷物があるし速度は出せないよ。早くても一時頃かな」
――やはり一時間の遅刻か。辿り着かないよりは良い。
「乗せてください。御礼を支払いますので」
「そんなのいらないよ。困った時はお互い様さ」
「貴女の御心に深い感謝を! よろしくお願いします」
商人の女性と握手を交わした。
「ナンシー、ロビンさん。壊れた馬車から荷物を運んでくれ。俺は馬車を預かってくれるところを探す」
馬は水を飲むし、用も足す。ここに置き去りにするわけにはいかない。迷惑がかかる。
「壊れた馬車、預かりましょうか」
先程の親切な農夫が、再び声をかけてくれた。
「うちは農家なので、でかい納屋がありますよ」
「本当によろしいのですか!」
「勿論さ。それにしても災難でしたね」
「はい。まさか足を奪われるとは」
「司祭様は面白いこと言うね。足を奪われる、か」
――ん? 待てよ。車輪は壊れたけど、馬の足は奪われていないじゃないか。
「ひらめいた! この馬に乗ればいいんだ!」
――最善策はこれしかない!
【つづく】
一つ目は御者が消えたこと。指名手配してやるからな。
二つ目はボロ馬車が壊れたこと。
三つ目は辺境の村に置いていかれたこと。
ロビン弁護士曰く、
「執行官が答弁書の確認を取るも、被告は特別送達を受領した覚えが無いと主張した上に、裁判に遅刻」
が敵の筋書きではないかとのことだ。
――妻の名誉をこれ以上傷つけられてたまるか!
朝刊で先手を打ったが「遅刻して敗訴」という醜態を以て「負け犬の遠吠え」と叩かれる可能性がある。とんでもないことだ!
唯一の希望は、このボロ馬車にミミを乗せなかったことだ。ミミが無事に裁判所に到着すれば、原告の不戦勝を阻止できる。ミミの道中にも罠がしかけられているかもしれないが考えたらきりが無い。ミミと目的地は同じなので、今は裁判所へ向かうことに集中しよう。
――まずは新しい馬車を手配しなくては。
「あの、すみません」
近くにいた若い男性に声をかけた。藁と土屑の散ったつなぎの作業服を着ているので、おそらく農夫だろう。麦わら帽子をかぶった彼は、俺を見ると目を丸くした。
「貴方、新聞で見たよ。もしやリンドバーグ司祭様?」
「はい。アルフレッド・リンドバーグです」
「やっぱり! 噂の奥様はご一緒じゃないのですか?」
「これから妻と裁判所で合流するはずだったのですが」
「朝刊で読んだよ。あの馬鹿王子が姑息な真似をしたんだって? で、どうしたんだい、こんなところで」
「実は御者が消えた上に、馬車が壊れて」
「は? なんだって?」
手短にこれまでの経緯を伝えた。
「司祭様、そりゃはめられたんだよ。今すぐ裁判所へ向かわなきゃいけないんですね?」
「遅刻したら負けてしまう。この近くに辻馬車や乗合馬車を出すところは無いですか?」
「小さな村だからなぁ、無いですね」
――あの御者め、馬車の宛が無い場所にわざと飛ばしたな!
「今すぐに王都へ向かわないといけないのに、困ったな」
「王都へ行く馬車ならあると思いますよ。商人が王都へ物資を運ぶ途中で立ち寄る村ですから。――よし、俺に任せろ!」
農夫は噴水の縁にのぼると、お腹に「すぅ」と息をためた。
「おーい、この中に王都へ行く者はいないか? こちらのリンドバーグ司祭様がお困りだ! 今から奥様と王子の裁判に向かわなきゃいけないが、馬車が壊れたんで遅れちまいそうなんだ! 誰か王都まで馬車に乗せてくれる者はいないか!」
広場にいた者たちは、旅仲間や仕事相手と顔を見合わせた。
「私が今から王都に行くよ!」
幌馬車から女性の商人が顔を出し、こちらへ近づいてきた。
「裁判は何時に開かれるんですか、司祭様?」
「正午です。間に合うでしょうか?」
「正午までに王都に着くのは厳しいね。うちも運ばなきゃいけない荷物があるし速度は出せないよ。早くても一時頃かな」
――やはり一時間の遅刻か。辿り着かないよりは良い。
「乗せてください。御礼を支払いますので」
「そんなのいらないよ。困った時はお互い様さ」
「貴女の御心に深い感謝を! よろしくお願いします」
商人の女性と握手を交わした。
「ナンシー、ロビンさん。壊れた馬車から荷物を運んでくれ。俺は馬車を預かってくれるところを探す」
馬は水を飲むし、用も足す。ここに置き去りにするわけにはいかない。迷惑がかかる。
「壊れた馬車、預かりましょうか」
先程の親切な農夫が、再び声をかけてくれた。
「うちは農家なので、でかい納屋がありますよ」
「本当によろしいのですか!」
「勿論さ。それにしても災難でしたね」
「はい。まさか足を奪われるとは」
「司祭様は面白いこと言うね。足を奪われる、か」
――ん? 待てよ。車輪は壊れたけど、馬の足は奪われていないじゃないか。
「ひらめいた! この馬に乗ればいいんだ!」
――最善策はこれしかない!
【つづく】
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