【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation

旭山リサ

6-2 ★ ミミと大人の階段

 ――なぜ、アルの腕の中にすっぽりおさまっているの!?

  いつもは同じベッドで、右と左に分かれて寝ているはずなのに。

 ――落ち着け、落ち着くのよ、私。

 昨夜の記憶が、ジグソーパズルのように散らばっている。かき集めて整理をしよう。

 満月の夜に森で迷った私は、アルに発見され、共に帰宅した。
 心配するナンシーに事の次第を話し、アルと寝室に行き、それから?

「朝っぱらから百面相? 何をそんなに悩んでいるの、ミミ?」

 驚いて顔を上げると、鼻に彼の唇が当たった。

「残念。外した。気を取り直してもう一回」

 アルのあごを、下からぐいっと押し上げる。彼の腕の中からすり抜けた。だが逃げた先はベッドにぴたりとくっついた壁だった。

 白壁しろかべと向かい合った途端とたん、昨夜の記憶が呼び起こされた。壁の色が寝台の白い敷物と重なったのだ。とても彼の方を振り向けない。

「ねぇ、アル。昨日の夜なんだけど……」

 ――ええい、夢か現実か、はっきりさせましょう!

「私にキスして、抱きしめて、胸をさわらなかった?」
「正解です。君にキスして抱きしめて、胸に触りました」

 ということは、つまり。

「そう、そうなのね。ついに私も大人の仲間入りをねぇ。案外あっけなかったわね」
「勘違いですよ、ミミさん」
「なぜ敬語? 勘違い?」
「君がおぼえているところまでだから。疲れて、そのまま寝ちゃったんだよ。君も俺も服を着たままだろう」
「そういえばそうね。なんだ、何も無かったの」

 少しがっくりしてしまう。

「どうしたの、ミミ?」
「寝ている時に会心かいしん一撃いちげきをお見舞いして、アルに女として見られなくなったのではないか、と」
「それは、まぁ……。君の膝蹴りを股間にくらった夜は、流石に涙が出たよ」
「本当にごめんなさい。自覚も悪意も無いの」
「寝相だから仕方ないよ。君の無自覚な必殺技は確かに怖いけど」

 アルフレッドは私へ近付く。まぶたにキスを落とし、頭をでた。

「眠っているミミが泣いていたからさ」

 れた瞼を、彼が指先でなぞった。

「悪い王子様のことを忘れて、俺のことだけ見てくれる日に、ミミを独占どくせんしたいと思った」

 アルは、そっとおでこを合わせた。

「同情ではないよ。ミミを愛しているから結婚したんだ」

 一番欲しかった言葉を、彼がくれた。
 ひたいほおが、風邪を引いた時のように熱を帯びる。

「いつも……アルだけを見ているわ」

 彼の目を真っ直ぐに見つめる。

「満月に寄せた言葉は、愛だと受け取って欲しいわ」

 ぽかんとしていたアルは、けものつめを立てるような仕草をしながら、にやりとした。

「さあ、逃げられませんよ、お姫様」

 アルは私を壁に押し付ける。両手の自由を奪って、キスした。

【つづく】

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