【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
4-6 ★ あなたは私、私はあなた
ミミと並んで早足で森を抜ける。遠くから獣の遠吠えが聞こえてくると、俺達は同時に駆け出した。ようやくアラベラの家に着く。屋敷の裏にまあるい明かりが浮かんでいるのが見えた。アラベラの母親がランタンを携えており、その周囲で娘と友人達は互いへ小言をかけあっていたが、俺達の姿を見るなり、ぴたりと話すのを止めた。
「奥様!」
「ご無事だったのですね」
「心配したんですよ。お怪我は?」
「大丈夫ですか?」
先ほどと打って変わり、善良そうな態度でミミを囲うアラベラ、マチルダ、エロイーズ、ガメラ。俺は先ほど彼女らの修羅場を目撃したので、全てが胡散臭く見える。
「あの……奥様」
おずおずと声をかけたのはアラベラだった。
「昼間は……その……私達……」
「ああ、もう気にしていませんわ」
ミミは朗らかに笑んだ。
「お茶会を退室した後、森を散歩して頭を冷やしましてね。私は、なんてくだらないことでカッカッしていたのかしら、って。怒って飛び出したは良いものの、森の中で道に迷ってしまって。疲れて仮眠をとっていました。そうそう、道中こんなものを見つけたのよ」
上着のポケットからミミが何かを取り出した。
「ミミ。それはなんだい?」
「薬草よ。良い香りがするの。アラベラさん達がくださったお菓子からも同じ香りがしたわ。この辺りの森によく生えていたのね」
見ればアラベラ、エロイーズは顔面蒼白で、紫色の唇が震えていた。
「初夏に小さな花が咲くのよ。花言葉は〝あなたは私、独占、嫉妬〟だったわね」
――恐ろしい。呪いの花じゃないか。
「昔は惚れ薬に使われたらしいの。貴女にあげるわ」
ミミはアラベラの手に薬草を握らせた。
「あなたは私。私はあなた。だから水に流しましょう。私だって嫉妬することはあるもの」
ミミは俺の方をちらりと見た。
――嫉妬? ミミが……俺に?
「それでは私達はこれで。おやすみなさい」
ミミは会釈すると、俺の腕にそっと右手をかけた。月光に照らされた家路を、ゆっくりとした歩調で進む。
「月が綺麗ですね」
ミミが夜空を仰いだ。
「愛している、の意味だと受け取っていい?」
するとミミは、ひどく驚いた顔をした。
「そう受け取って構わないわ」
俺の左腕に添えられた、ミミの右手をすくいとる。
彼女の指先にキスをすると、薬草の微香がした。
【5章につづく】
「奥様!」
「ご無事だったのですね」
「心配したんですよ。お怪我は?」
「大丈夫ですか?」
先ほどと打って変わり、善良そうな態度でミミを囲うアラベラ、マチルダ、エロイーズ、ガメラ。俺は先ほど彼女らの修羅場を目撃したので、全てが胡散臭く見える。
「あの……奥様」
おずおずと声をかけたのはアラベラだった。
「昼間は……その……私達……」
「ああ、もう気にしていませんわ」
ミミは朗らかに笑んだ。
「お茶会を退室した後、森を散歩して頭を冷やしましてね。私は、なんてくだらないことでカッカッしていたのかしら、って。怒って飛び出したは良いものの、森の中で道に迷ってしまって。疲れて仮眠をとっていました。そうそう、道中こんなものを見つけたのよ」
上着のポケットからミミが何かを取り出した。
「ミミ。それはなんだい?」
「薬草よ。良い香りがするの。アラベラさん達がくださったお菓子からも同じ香りがしたわ。この辺りの森によく生えていたのね」
見ればアラベラ、エロイーズは顔面蒼白で、紫色の唇が震えていた。
「初夏に小さな花が咲くのよ。花言葉は〝あなたは私、独占、嫉妬〟だったわね」
――恐ろしい。呪いの花じゃないか。
「昔は惚れ薬に使われたらしいの。貴女にあげるわ」
ミミはアラベラの手に薬草を握らせた。
「あなたは私。私はあなた。だから水に流しましょう。私だって嫉妬することはあるもの」
ミミは俺の方をちらりと見た。
――嫉妬? ミミが……俺に?
「それでは私達はこれで。おやすみなさい」
ミミは会釈すると、俺の腕にそっと右手をかけた。月光に照らされた家路を、ゆっくりとした歩調で進む。
「月が綺麗ですね」
ミミが夜空を仰いだ。
「愛している、の意味だと受け取っていい?」
するとミミは、ひどく驚いた顔をした。
「そう受け取って構わないわ」
俺の左腕に添えられた、ミミの右手をすくいとる。
彼女の指先にキスをすると、薬草の微香がした。
【5章につづく】
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