【コミカライズ化!】リンドバーグの救済 Lindbergh’s Salvation
4-3 ★ ガメラ?
郵便局で情報を得た俺は、すぐさまアラベラの家へ向かった。信徒さんの住所は全部記憶している。その中でもアラベラの家は分かりやすい場所にある。森の国道のすぐそば、粉挽き風車の近くにある二階建ての屋敷だ。彼女の父は弁護士でお金持ちである。
アラベラの屋敷に着いた時には、とっくに辺りは暗くなっており、彼女の家の窓から明かりが漏れていた。
「ごめんください」
呼び鈴を鳴らすと、女中の一人が顔を出した。
「まぁ、司祭様。こんな時間にどうなさったんです?」
「アラベラさんはご在宅ですか」
「お嬢様ですか? はい、いらっしゃいますよ」
「至急、彼女に確認したいことがございます」
「お待ちくださいませ」
女中はアラベラを呼びにいった。
「司祭様がおみえです」
「し……司祭様が?」
家の中からアラベラの怯えた声が聞こえた。
「どうするの、アラベラ。きっと、あの女のことよ」
エロイーズが話しているようだ。「あの女」と言うのは「ミミ」のことではないのか。
「気分が悪いと言って、お帰りいただいて」
アラベラの声にカチンと来た。
――全部、丸聞こえだ!
「失礼します」
「困ります、司祭様!」
止める女中の声を聞かず、居間へ入る。
エロイーズ、アラベラの二人は震え上がり、ピタッと肩を寄せ合った。
「大きな話し声が聞こえてきたものですから。うちの妻のことで訊きたいことがありまして。今日の昼間、あなた方は、うちへ来られたでしょう?」
「い……いいえ」
アラベラは視線を膝に落としたまま否定した。
「あなた方を、見た者がいるのです」
配達員は、二人が我が家の方角へ向かう姿を見たと言った。それだけでは証拠には足りないが二人の態度を見れば分かる。俺と「あの女」と呼んだミミに後ろめたいものがあるのだと。
「うちに、来ましたね?」
  怒気をこめて詰め寄ると、二人は視線を交差させ、小さく肯いた。
「大きな声が聞こえると思ったら、司祭様ではないですか」
アラベラの母親、マチルダ・スチュワートが廊下から現れた。
「主人に御用ですか? まだ帰っておりませんが」
「いえ、用があったのは、お嬢さんです」
「うちの娘に?」
母親のマチルダはきょとんとしている。
「お嬢さん達が、昼間に我が家へ来たそうなのです」
「まぁ。そうなの、アラベラ?」
マチルダが聞き返す。アラベラは素直に肯いた。
「私は不在でしたので、どのような御用か存じません。妻のミミが留守番をしていたのですが、彼女の姿が無いのです」
「奥様が?」
「方々探し回っておりました。お嬢さんが我が家へいらしたとうかがい、事情を訊きに来たというわけです。――何かご存じでしょう?」
俺は真っ直ぐにアラベラを見据えた。
「奥様を、お茶会に招待したのです」
アラベラがぽそぽそと話した。
「お茶会だって?」
「はい。森の中に我が家の離れがありまして、お友達とよくお茶会をするのです」
「これは事実ですか、奥様?」
「はい。好きに使わせていますわ」
母親のマチルダが証言した。
「それでなぜ、うちの妻だけが帰ってきていないのですか。あなた方はここに集まっているというのに」
「それは……ミミさんが途中で退席したからですわ。それからのことは存じません」
「もしかしたら森の中で道に迷われたのでは」
アラベラとエロイーズの言葉に、冷や水に打たれたような寒気に襲われた。
「妻が先に退室したのは何故ですか?」
アラベラに質問を畳みかけた。二人は視線を落とす。
「ミミさんが、怒って出て行ったのよ」
そう言ったのはアラベラでもエロイーズでもなかった。廊下から灰色の長い髪の女性が現れる。
「君も、茶会に参加していたのかい?」
俺が訊ねると、彼女はこくこくと肯いた。
――この子は確か、ガメラといったっけ?
異国の神話に、同じ名前の怪獣がいたような気がする。ガメラは礼拝の時、いつも隅の席に一人で腰掛けている女性だ。この町に赴任した時、挨拶回りで彼女の家を訪れたことがある。
「アラベラ達が、奥様のお気に障ることをおっしゃったのです」
アラベラとエロイーズは食い入るようにガメラへ見入った。彼女らの唇がわなわなと震え、眉がつり上がる。
「あんただって言ったじゃない!」
アラベラが叫んだ。
「私は二人が奥様に失礼なことを言うのを聞いていただけよ。あんなことを言われたら奥様が怒るのも当然だわ。だから、それくらいにしたらって言ったのに……」
――ガメラが、笑っている?
微笑みながら話すことではないというのに。
ガメラは俺へくるりと振り向くと、急に表情を曇らせた。
「大層お怒りになったミミさんは、右足で机を蹴り飛ばした後、茶会を退席されましたわ」
――机を蹴り飛ばしただって? ミミが?
俄には信じられない。
【つづく】
アラベラの屋敷に着いた時には、とっくに辺りは暗くなっており、彼女の家の窓から明かりが漏れていた。
「ごめんください」
呼び鈴を鳴らすと、女中の一人が顔を出した。
「まぁ、司祭様。こんな時間にどうなさったんです?」
「アラベラさんはご在宅ですか」
「お嬢様ですか? はい、いらっしゃいますよ」
「至急、彼女に確認したいことがございます」
「お待ちくださいませ」
女中はアラベラを呼びにいった。
「司祭様がおみえです」
「し……司祭様が?」
家の中からアラベラの怯えた声が聞こえた。
「どうするの、アラベラ。きっと、あの女のことよ」
エロイーズが話しているようだ。「あの女」と言うのは「ミミ」のことではないのか。
「気分が悪いと言って、お帰りいただいて」
アラベラの声にカチンと来た。
――全部、丸聞こえだ!
「失礼します」
「困ります、司祭様!」
止める女中の声を聞かず、居間へ入る。
エロイーズ、アラベラの二人は震え上がり、ピタッと肩を寄せ合った。
「大きな話し声が聞こえてきたものですから。うちの妻のことで訊きたいことがありまして。今日の昼間、あなた方は、うちへ来られたでしょう?」
「い……いいえ」
アラベラは視線を膝に落としたまま否定した。
「あなた方を、見た者がいるのです」
配達員は、二人が我が家の方角へ向かう姿を見たと言った。それだけでは証拠には足りないが二人の態度を見れば分かる。俺と「あの女」と呼んだミミに後ろめたいものがあるのだと。
「うちに、来ましたね?」
  怒気をこめて詰め寄ると、二人は視線を交差させ、小さく肯いた。
「大きな声が聞こえると思ったら、司祭様ではないですか」
アラベラの母親、マチルダ・スチュワートが廊下から現れた。
「主人に御用ですか? まだ帰っておりませんが」
「いえ、用があったのは、お嬢さんです」
「うちの娘に?」
母親のマチルダはきょとんとしている。
「お嬢さん達が、昼間に我が家へ来たそうなのです」
「まぁ。そうなの、アラベラ?」
マチルダが聞き返す。アラベラは素直に肯いた。
「私は不在でしたので、どのような御用か存じません。妻のミミが留守番をしていたのですが、彼女の姿が無いのです」
「奥様が?」
「方々探し回っておりました。お嬢さんが我が家へいらしたとうかがい、事情を訊きに来たというわけです。――何かご存じでしょう?」
俺は真っ直ぐにアラベラを見据えた。
「奥様を、お茶会に招待したのです」
アラベラがぽそぽそと話した。
「お茶会だって?」
「はい。森の中に我が家の離れがありまして、お友達とよくお茶会をするのです」
「これは事実ですか、奥様?」
「はい。好きに使わせていますわ」
母親のマチルダが証言した。
「それでなぜ、うちの妻だけが帰ってきていないのですか。あなた方はここに集まっているというのに」
「それは……ミミさんが途中で退席したからですわ。それからのことは存じません」
「もしかしたら森の中で道に迷われたのでは」
アラベラとエロイーズの言葉に、冷や水に打たれたような寒気に襲われた。
「妻が先に退室したのは何故ですか?」
アラベラに質問を畳みかけた。二人は視線を落とす。
「ミミさんが、怒って出て行ったのよ」
そう言ったのはアラベラでもエロイーズでもなかった。廊下から灰色の長い髪の女性が現れる。
「君も、茶会に参加していたのかい?」
俺が訊ねると、彼女はこくこくと肯いた。
――この子は確か、ガメラといったっけ?
異国の神話に、同じ名前の怪獣がいたような気がする。ガメラは礼拝の時、いつも隅の席に一人で腰掛けている女性だ。この町に赴任した時、挨拶回りで彼女の家を訪れたことがある。
「アラベラ達が、奥様のお気に障ることをおっしゃったのです」
アラベラとエロイーズは食い入るようにガメラへ見入った。彼女らの唇がわなわなと震え、眉がつり上がる。
「あんただって言ったじゃない!」
アラベラが叫んだ。
「私は二人が奥様に失礼なことを言うのを聞いていただけよ。あんなことを言われたら奥様が怒るのも当然だわ。だから、それくらいにしたらって言ったのに……」
――ガメラが、笑っている?
微笑みながら話すことではないというのに。
ガメラは俺へくるりと振り向くと、急に表情を曇らせた。
「大層お怒りになったミミさんは、右足で机を蹴り飛ばした後、茶会を退席されましたわ」
――机を蹴り飛ばしただって? ミミが?
俄には信じられない。
【つづく】
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コメント
旭山リサ
清水さん、こんばんは! この「異国の神話」に気付いてくださったのですね! そうなんです。ガメラは日本の特撮映画に実在します。この時アルフレッドは、日本人だった前世の記憶をふわっと思い出している段階なので、ガメラのことも「異国の神話」だったかなぁ、という感じでモザイクがかかっております。商用化にあたり、コミカライズ版では「ギメラ」に変更となりました。
清水レモン
ふとそういえばと久しぶりに読み返してあらめたて「異国の神話」←!!
異国の神話!!
清水レモン
くっ!